「何やってんだお前ら」
甲板に響いたのは、邦雄が今いちばん聞きたいけれどいちばん聞きたくない声。
そちらを向けば、エドワードがあくび混じりにこちらへ歩いて来ていた。
「あ、あの……エドワード、船長……」
「あ?」
声を詰まらせ、涙でグズグズになりながら、邦雄はどうにかこの船の「上官」を呼んだ。
「俺……俺の、荷物……。どうなった……?どこぞに、あるか……?」
「あー、あれな」
戦闘服や、軍人手帳。なにより、教官から渡された軍刀。
それらは今や、邦雄が大和に乗船していた証であり、故郷と繋ぐものだ。
目が覚めたときにはどれも手元になかった。
胸が押しつぶされそうな思いで問う。
だと言うのに、エドワードの回答は恐ろしいものだった。
「陸地に戻ったら売る予定だから、ヨルムに任せてある。殆ど血やらで汚れて汚ねえから、二束三文……」
「軍刀ぉぉ!!」
「は!?」
叫ぶように邦雄はエドワードの腰に縋り付いた。もう体裁など気にしてはいられない。
この男は、海軍の誇りを全て「売る」と言い出したのだ。何という所業か。それも平然と言ってのけるだなんて。
「軍刀! あの、ナイフ!! 濃紺の布に包まれたナイフありゃあせだったか!!」
「ナイフぅ?……あー、確かにあったか」
「それぇ!!」
涙で顔がぐっしゃぐしゃだ。ついでに酒が回ってきて頭がグルグルしてきた。
船が進路を変えたのか、揺れ始めて少々気持ち悪い。
けれどどうしても、あの軍刀だけは売られる訳にはいかない。
「他のもなぁどがぁなってもええけぇ、軍刀だけは返してつかぁさい……!」
「はあ? あれが唯一金になりそうな……」
「教官の!! 教官の、命なんじゃ……!うぷ、」
承諾を得るまで、船長の腰に何としてもしがみつく。
そう心に決めて、邦雄はエドワードを見あげた。
するとどうだろう。心底悪どい笑みを浮かべているではないか。
教官と、同じ顔が。
「っ、」
つい怯み、息を飲む。エドワードはゆっくりと手を上げると、邦雄の頭をガシリと鷲掴みにした。
「お前がこの船で使える男なら、考えてやってもいい」
「……はえ?」
理解ができず、呆然としてしまう。
すると船長は、掴んでいた邦雄の頭を放るように乱雑に突き飛ばした。
「うっ……!」
「ニオさん……!」
抵抗できずに倒れ込む。レーンが心配して駆け寄ってくれたのが、まだ救いか。
「ちょうど、イイ商船がいる。おいクニオ。お前、あのナイフと同じくらいの金額になる宝は稼いでこい」
そう言う船長は、笑顔をさらに深くする。
豪快さと自信に溢れるその笑みは、教官の哀愁が滲んだ柔らかい笑みとは、全く違っていた。
「お前ら! 戦闘準備にかかれ!! 数日ぶりの獲物だ、荒稼ぎするぞ!!」
「おーーっ!!」
エドワードの言葉に、マーン、ニッド、そしてレーンは、心底楽しそうに腕を突き上げたのだった。
◇
そこからは、本当にあっという間だった。
女性2人は、砲撃の補佐担当らしい。そのため、船内へと駆けていった。
ニッドは腰に下げていたパチンコが武器だと言う。弾を取りに船室へ駆けたかと思えば、すぐに戻ってきた。
立派な太刀を差した髪の長い男も出てきた。リヴァイと言うらしいが、挨拶が精一杯だ。
彼の指示で、邦雄はニッドと共に船と船を繋ぐ板を準備。武器はリヴァイの予備を借りることになった。
襲う相手などどこにいるのか。そう思っていた邦雄だが、海の奥から聞こえてきた音で認識を改めた。
微かに、ゴウンゴウンという音がする。
「……蒸気船?」
思わず呟く。すると、そばにいた船長、リヴァイ、ニッドの3人全員に注目されてしまった。
何か不味いことを口走っただろうか。緊張が走る。
そんな邦雄に、最初に尋ねたのはリヴァイだった。
「ジョウキセン……って、なんだ」
「え」
まさかそこを聞かれるとは。この世界では、違う名前なのだろうか。
そう不安に思いながら、ザックリと仕組みと特徴を説明する。
3人の海賊は真剣に、邦雄の言葉を聞いていた。
「へー! それやったら帆を張らんでも進めるやん!」
「いや、蒸気船でも帆を張る船はありますよ……」
「けどけど! 俺が最初に攫われた商船も、ごっつグオングオン鳴っとったし、帆は張ってへんかったよ! めーっちゃ不思議やってん!」
「はあ……」
目を輝かせて語るニッド。また重大な過去をサラッと出された気がする。
面食らう邦雄だが、周囲は待ってはくれない。
次いで口を開いたのは、エドワードだった。
「おいクニオ。お前、その蒸気機関って奴が船のどの辺りにあるか、目視でわかるか」
「えぇ!? いやあの、どうやら俺が生きてた世界たぁ違うし正確なんは……」
酷い無茶振りだ。怯えてそう返すが、船長は容赦しない。
彼の斧の柄が邦雄の心臓の位置をドスドスと突いてくるではないか。
「質問に簡潔に答えろ。予測で構わねぇ。見たらわかんのか? わかんねぇのか?」
「はい! 予測なら分かります!!」
染み付いた軍人精神とは、恐ろしいかな。
咄嗟のことに、敬礼をしながら堂々と答えてしまった。
そもそもエドワードは教官の声なのだ。答えるなと言う方が無理な話。
「どこだ。直ぐ言え」
「えっ」
そう言いながら、船長は邦雄へ望遠鏡を渡してきた。
幸い、造りは慣れ親しんだ海軍のそれに近そうだ。邦雄は手際よく構えると、音を頼りに夜の海に望遠鏡を向ける。
見えたのは、真っ白の船。煙突からは、蒸気船特有の煙が出ている。
呉で見た船の数々と、海軍で基礎知識編として叩き込んだ船内設備。それらと照らし合わせれば、予測は簡単だった。
「たぶん……煙突の真下から、船尾、船底の方にかけてかと……」
「よし」
エドワードの短いひと言で、邦雄は彼へ望遠鏡を返す。
船長はベルトの装飾へそれを戻すと、簡潔にこちらへ告げた。
「リヴァイ、テメェは何時も通り好きに暴れろ。ニッド、お前はいま邦雄が言った位置を重点的に狙え。橋をかけるタイミングは、デイブとリヴァイで連携をとれ」
「ハーイやで、船長!」
「……承知」
挙手と共に軽快な返事をするニッド。一方、リヴァイは渋々という雰囲気だ。
よく見ると、船の中央上段で舵を取っているのはデイブだ。なるほど、確かに相手の船に渡るタイミングは、操舵手らしい彼と息を合わせる必要があるだろう。
「クニオ。お前はその蒸気機関を破壊しろ。」
「え!?」
平然と言われた命令。その内容に、邦雄は完全に面食らってしまった。
「え、だって……あの船、民間船なんじゃのぉ? そんなんしたら、この大海原に置いてけぼりにされるよ!? 救護船は来るんか? 船員はどうするんか!?」
戦闘準備を進めながら、ニッドが教えてくれた事実。
それは、襲う相手は基本、ソルラーマ王国という国の商船だということだ。
しかも、その国と戦争をしているのかと聞けば、そうではないと言う。
敵ではない国の船、それも民間船の、推進力である蒸気機関の破壊。
見えた船影に帆はなかった。ならば、その船の末路は言うまでもない。
だが邦雄の困惑は、残酷なひと言で一刀両断にされた。
「グントウとやら、売るぞ?」
「っ!!」
何という、鬼の所業か。
エドワードはくるりと背を向ける。砲撃手へ指示を出してくると言い残し、彼は船内へと去っていった。
シン……と、静まりかえる甲板。それでも、船は迷わず進む。
標的の船の機械音が、もうハッキリと聞こえてくる。
「……あの国の船は」
ポツリと聞こえた声に、邦雄はそちらを向く。
相手の船を見据えたまま、リヴァイが口を開いていた。
「休むことなく進み続けることができ、大洋の向こうにある大陸に到達した。結果、この大洋を越えての交易を独占している」
「……」
「その進み続ける仕組みが、俺達には謎だったんだ。クニオと言ったか。お前の説明で、初めて仮説が立った」
状況説明なのか、慰めなのか分からない。
返事ができずにただ聞いていると、彼は真っ直ぐにこちらを見て言った。
「俺は騎士だ。民衆を守るのが騎士の務め。……だから俺も、あの船長の言いなりに民間船を襲うのは嫌だった」
「……!」
彼は真面目な男なのだろう。邦雄より10は歳上そうな貫録が、リヴァイの言葉から感じ取れる。
そんな男が、さらに言葉を紡ぐ。
「だが、拒めば騎士の誇りを汚される。だから仕方なく、俺は奴の命令を受けている。……俺にとって譲れない線を、保ったまま」
「譲れない、線……」
「そうだ。俺は、民衆は殺さない」
「……!」
彼の髪が夜風に揺れる。誇り高いその姿は、大和の上官たちと、重なるものがあった。
その、瞬間。
ドオン!という破裂音と共に、痺れるように船が揺れる。下から上がる煙と、船の向こうでの爆発音。
どうやら、砲撃範囲まで接敵していたらしい。
「さあ、戦闘開始だ。お前の譲れない線は、お前が決めろ」
そう言い捨てると、リヴァイは相手船へ乗り移る構えをとる。
轟く砲撃音。ドンドン近くなる爆発音。
「今だ!!」
舵から聞こえたデイブの声に、ニッドが一気に橋をかけた。
「そら!いってらっしゃいやでぇ、リヴァイはん! ニオ!」
ニッドの言葉に答えるように駆けるリヴァイ。
橋も使わず、操舵席から商船へ飛び移るデイブ。
「クソ……!!」
彼らの背を追って、邦雄はどうにか相手の船へ駆け出すのだった。
甲板に響いたのは、邦雄が今いちばん聞きたいけれどいちばん聞きたくない声。
そちらを向けば、エドワードがあくび混じりにこちらへ歩いて来ていた。
「あ、あの……エドワード、船長……」
「あ?」
声を詰まらせ、涙でグズグズになりながら、邦雄はどうにかこの船の「上官」を呼んだ。
「俺……俺の、荷物……。どうなった……?どこぞに、あるか……?」
「あー、あれな」
戦闘服や、軍人手帳。なにより、教官から渡された軍刀。
それらは今や、邦雄が大和に乗船していた証であり、故郷と繋ぐものだ。
目が覚めたときにはどれも手元になかった。
胸が押しつぶされそうな思いで問う。
だと言うのに、エドワードの回答は恐ろしいものだった。
「陸地に戻ったら売る予定だから、ヨルムに任せてある。殆ど血やらで汚れて汚ねえから、二束三文……」
「軍刀ぉぉ!!」
「は!?」
叫ぶように邦雄はエドワードの腰に縋り付いた。もう体裁など気にしてはいられない。
この男は、海軍の誇りを全て「売る」と言い出したのだ。何という所業か。それも平然と言ってのけるだなんて。
「軍刀! あの、ナイフ!! 濃紺の布に包まれたナイフありゃあせだったか!!」
「ナイフぅ?……あー、確かにあったか」
「それぇ!!」
涙で顔がぐっしゃぐしゃだ。ついでに酒が回ってきて頭がグルグルしてきた。
船が進路を変えたのか、揺れ始めて少々気持ち悪い。
けれどどうしても、あの軍刀だけは売られる訳にはいかない。
「他のもなぁどがぁなってもええけぇ、軍刀だけは返してつかぁさい……!」
「はあ? あれが唯一金になりそうな……」
「教官の!! 教官の、命なんじゃ……!うぷ、」
承諾を得るまで、船長の腰に何としてもしがみつく。
そう心に決めて、邦雄はエドワードを見あげた。
するとどうだろう。心底悪どい笑みを浮かべているではないか。
教官と、同じ顔が。
「っ、」
つい怯み、息を飲む。エドワードはゆっくりと手を上げると、邦雄の頭をガシリと鷲掴みにした。
「お前がこの船で使える男なら、考えてやってもいい」
「……はえ?」
理解ができず、呆然としてしまう。
すると船長は、掴んでいた邦雄の頭を放るように乱雑に突き飛ばした。
「うっ……!」
「ニオさん……!」
抵抗できずに倒れ込む。レーンが心配して駆け寄ってくれたのが、まだ救いか。
「ちょうど、イイ商船がいる。おいクニオ。お前、あのナイフと同じくらいの金額になる宝は稼いでこい」
そう言う船長は、笑顔をさらに深くする。
豪快さと自信に溢れるその笑みは、教官の哀愁が滲んだ柔らかい笑みとは、全く違っていた。
「お前ら! 戦闘準備にかかれ!! 数日ぶりの獲物だ、荒稼ぎするぞ!!」
「おーーっ!!」
エドワードの言葉に、マーン、ニッド、そしてレーンは、心底楽しそうに腕を突き上げたのだった。
◇
そこからは、本当にあっという間だった。
女性2人は、砲撃の補佐担当らしい。そのため、船内へと駆けていった。
ニッドは腰に下げていたパチンコが武器だと言う。弾を取りに船室へ駆けたかと思えば、すぐに戻ってきた。
立派な太刀を差した髪の長い男も出てきた。リヴァイと言うらしいが、挨拶が精一杯だ。
彼の指示で、邦雄はニッドと共に船と船を繋ぐ板を準備。武器はリヴァイの予備を借りることになった。
襲う相手などどこにいるのか。そう思っていた邦雄だが、海の奥から聞こえてきた音で認識を改めた。
微かに、ゴウンゴウンという音がする。
「……蒸気船?」
思わず呟く。すると、そばにいた船長、リヴァイ、ニッドの3人全員に注目されてしまった。
何か不味いことを口走っただろうか。緊張が走る。
そんな邦雄に、最初に尋ねたのはリヴァイだった。
「ジョウキセン……って、なんだ」
「え」
まさかそこを聞かれるとは。この世界では、違う名前なのだろうか。
そう不安に思いながら、ザックリと仕組みと特徴を説明する。
3人の海賊は真剣に、邦雄の言葉を聞いていた。
「へー! それやったら帆を張らんでも進めるやん!」
「いや、蒸気船でも帆を張る船はありますよ……」
「けどけど! 俺が最初に攫われた商船も、ごっつグオングオン鳴っとったし、帆は張ってへんかったよ! めーっちゃ不思議やってん!」
「はあ……」
目を輝かせて語るニッド。また重大な過去をサラッと出された気がする。
面食らう邦雄だが、周囲は待ってはくれない。
次いで口を開いたのは、エドワードだった。
「おいクニオ。お前、その蒸気機関って奴が船のどの辺りにあるか、目視でわかるか」
「えぇ!? いやあの、どうやら俺が生きてた世界たぁ違うし正確なんは……」
酷い無茶振りだ。怯えてそう返すが、船長は容赦しない。
彼の斧の柄が邦雄の心臓の位置をドスドスと突いてくるではないか。
「質問に簡潔に答えろ。予測で構わねぇ。見たらわかんのか? わかんねぇのか?」
「はい! 予測なら分かります!!」
染み付いた軍人精神とは、恐ろしいかな。
咄嗟のことに、敬礼をしながら堂々と答えてしまった。
そもそもエドワードは教官の声なのだ。答えるなと言う方が無理な話。
「どこだ。直ぐ言え」
「えっ」
そう言いながら、船長は邦雄へ望遠鏡を渡してきた。
幸い、造りは慣れ親しんだ海軍のそれに近そうだ。邦雄は手際よく構えると、音を頼りに夜の海に望遠鏡を向ける。
見えたのは、真っ白の船。煙突からは、蒸気船特有の煙が出ている。
呉で見た船の数々と、海軍で基礎知識編として叩き込んだ船内設備。それらと照らし合わせれば、予測は簡単だった。
「たぶん……煙突の真下から、船尾、船底の方にかけてかと……」
「よし」
エドワードの短いひと言で、邦雄は彼へ望遠鏡を返す。
船長はベルトの装飾へそれを戻すと、簡潔にこちらへ告げた。
「リヴァイ、テメェは何時も通り好きに暴れろ。ニッド、お前はいま邦雄が言った位置を重点的に狙え。橋をかけるタイミングは、デイブとリヴァイで連携をとれ」
「ハーイやで、船長!」
「……承知」
挙手と共に軽快な返事をするニッド。一方、リヴァイは渋々という雰囲気だ。
よく見ると、船の中央上段で舵を取っているのはデイブだ。なるほど、確かに相手の船に渡るタイミングは、操舵手らしい彼と息を合わせる必要があるだろう。
「クニオ。お前はその蒸気機関を破壊しろ。」
「え!?」
平然と言われた命令。その内容に、邦雄は完全に面食らってしまった。
「え、だって……あの船、民間船なんじゃのぉ? そんなんしたら、この大海原に置いてけぼりにされるよ!? 救護船は来るんか? 船員はどうするんか!?」
戦闘準備を進めながら、ニッドが教えてくれた事実。
それは、襲う相手は基本、ソルラーマ王国という国の商船だということだ。
しかも、その国と戦争をしているのかと聞けば、そうではないと言う。
敵ではない国の船、それも民間船の、推進力である蒸気機関の破壊。
見えた船影に帆はなかった。ならば、その船の末路は言うまでもない。
だが邦雄の困惑は、残酷なひと言で一刀両断にされた。
「グントウとやら、売るぞ?」
「っ!!」
何という、鬼の所業か。
エドワードはくるりと背を向ける。砲撃手へ指示を出してくると言い残し、彼は船内へと去っていった。
シン……と、静まりかえる甲板。それでも、船は迷わず進む。
標的の船の機械音が、もうハッキリと聞こえてくる。
「……あの国の船は」
ポツリと聞こえた声に、邦雄はそちらを向く。
相手の船を見据えたまま、リヴァイが口を開いていた。
「休むことなく進み続けることができ、大洋の向こうにある大陸に到達した。結果、この大洋を越えての交易を独占している」
「……」
「その進み続ける仕組みが、俺達には謎だったんだ。クニオと言ったか。お前の説明で、初めて仮説が立った」
状況説明なのか、慰めなのか分からない。
返事ができずにただ聞いていると、彼は真っ直ぐにこちらを見て言った。
「俺は騎士だ。民衆を守るのが騎士の務め。……だから俺も、あの船長の言いなりに民間船を襲うのは嫌だった」
「……!」
彼は真面目な男なのだろう。邦雄より10は歳上そうな貫録が、リヴァイの言葉から感じ取れる。
そんな男が、さらに言葉を紡ぐ。
「だが、拒めば騎士の誇りを汚される。だから仕方なく、俺は奴の命令を受けている。……俺にとって譲れない線を、保ったまま」
「譲れない、線……」
「そうだ。俺は、民衆は殺さない」
「……!」
彼の髪が夜風に揺れる。誇り高いその姿は、大和の上官たちと、重なるものがあった。
その、瞬間。
ドオン!という破裂音と共に、痺れるように船が揺れる。下から上がる煙と、船の向こうでの爆発音。
どうやら、砲撃範囲まで接敵していたらしい。
「さあ、戦闘開始だ。お前の譲れない線は、お前が決めろ」
そう言い捨てると、リヴァイは相手船へ乗り移る構えをとる。
轟く砲撃音。ドンドン近くなる爆発音。
「今だ!!」
舵から聞こえたデイブの声に、ニッドが一気に橋をかけた。
「そら!いってらっしゃいやでぇ、リヴァイはん! ニオ!」
ニッドの言葉に答えるように駆けるリヴァイ。
橋も使わず、操舵席から商船へ飛び移るデイブ。
「クソ……!!」
彼らの背を追って、邦雄はどうにか相手の船へ駆け出すのだった。



