今回の作戦を簡単に言い表すならば。
砲撃による轟沈優先。
白兵戦になった場合は好きに暴れろ。
そんな、シンプル極まりないものだった。
海賊船たちは各々好きなように進んでいく。だが、ソルラーマの船に一定以上近づく船はいない。
海原に響き渡る砲撃音。真っ青な空に、大砲の火薬と被弾した船の黒い煙が上っていく。
どの船からも、交戦中を示す信号旗がはためいていた。
敵船団からすれば、山の影から突然海賊船たちが現れたように見えただろう。
そのうえ、向こうの攻撃が届かない位置から一方的に砲撃を受けざるを得ない状態だ。
木片が飛び散り、傾く船もでてきた。望遠鏡をのぞかなくても、船内の慌てぶりが手に取るようにわかる。
恐ろしかろう。悔しかろう。
邦雄はつい、軍刀の柄を握りしめた。手も足もでない砲撃の怖さは、身に染みている。
「おいクニオ!」
「っ、はい!!」
下から聞こえてきた船長の怒号に、沈んでいた意識は一気に海面へ引き上げられた。
見張り台をしっかり両手で握りしめて声のした方を見下ろせば、不満げな顔でエドワードが見上げていた。
「もう俺たちの狙いは範囲内だろうが! 仕事しろ!!」
「し、失礼しました!!」
叫び返して、視線を戦場へ戻す。
自分たちの狙いは、旗艦だ。敵の船団の中央に陣取っている、最も大きな船。
エドワードの言う通り、もうこちらの主砲が届く距離だ。そしてなぜか、その船は戦闘を避けるかのように他のソルラーマ軍から離れていく。
よくわからないが、こちらとしては好都合この上ない。
「主砲用意!!」
メガホンを手に邦雄が叫べば、甲板から復唱が聞こえてくる。ファルト海賊団の生き残り達が大砲の狙いを定め、詰め替えの弾を準備していく。
狙いは、敵旗艦の煙突だ。
ニッドの手旗信号が見えた。
銃を両手でクルクルと軽快に回していたエドワード。その銃たちはピタリの彼の手に収まり、正面へ構えられる。
カチリと、セイフティーは解除された。
撃て
指揮官命令の代わりに、船長の銃の発砲音が響き渡る。
その弾はどうやら、敵の指揮官の頬をかすめたらしい。
瞬間、文字通り船体を揺らす轟音が上がった。1発、2発。
立ち上る煙で、着弾位置がなかなか判然としない。その間に、訓練通りに次の弾が込められていく。
風が黒煙を晴らした時、邦雄の目に映ったものは。
「当たった……!!」
煙突が折れた、敵の旗艦だった。
(やっぱり、大和の理論は間違っとらんかったんじゃ……!!)
敵の攻撃が当たらない位置から、こちらの砲撃を当てる。その発想は、まさに大和の主砲そのものだ。
あの日、主砲が発砲された音を邦雄は残念ながら聞いていない。そんな彼がいま胸に抱くのは、あの浮沈艦は世界最強だったという確信だ。
「敵の船を沈めろ!! 狙うのは船の中央より下、機関室! 風上へ向けて、面舵いっぱい!!」
エドワードの楽し気な指示が飛ぶ。「おもーかーじ!」というマーンの声と共に、旋回を開始する船。
もちろん、攻撃の手が止むことはない。ニッドによる狙撃、主砲の2発目と続いていく。
そして旗艦は、まるでこちらに合わせるかのように風下へと舵を切った。
(なんじゃ? さっきから、どう見ても船の動きが変じゃ……?)
なぜ、こちらの有利になるように動くのか。まさか、こちらが誘い込まれているのだろうか。
一気に立ち上った不安に、邦雄は慌てて望遠鏡を手に取った。
確認する先は、相手の船の操舵手。
「……あ!!」
その姿が見えた途端、邦雄の心にたちこめた暗雲は一気に霧散した。
デイブだ。
敵の旗艦を、こちらに合わせて動かしているのは、デイブだった。
確かに、敵軍に彼がいるかもしれないとマーンは言っていた。だがこの動きを見て、彼が寝返ったと思うアンピシア海賊団の船員はいないだろう。
これは、勝てる。
この船さえ沈めてしまえばいい。どんなに兵力は向こうが勝っているとしても、司令官が落ちると共に統率力は水底に沈むのだから。
だが、そう簡単にいかせてくれないのが「戦争」というもの。
パッパッパッ、パーッパーッパーッ、パッパッパッ
どこからか聞こえてきたラッパの音。その瞬間、邦雄は音の発信源を探して望遠鏡を構えながらあたりを見渡した。
モールス信号の、SOSだ。電子通信機の代わりは、戦場に響き渡るラッパの音。必要最低限を浸透させたモールス信号のうち、最も重要な通信がこの音だ。
再び響いたSOS。その音は、アンピシア海賊団から見て11時の方向。
Z旗が下げられている。それは邦雄が今回の戦いのために定めた、たった2つの信号旗通信のうちの1つ。
(敵との白兵戦の結果、海賊団が負けてる……!!)
戦闘不能の合図であるその姿に、邦雄は一気に血の気が引いた。
あの方角にいるのは、ファルト海賊団に並ぶ規模の海賊団なのだから。
砲撃による轟沈優先。
白兵戦になった場合は好きに暴れろ。
そんな、シンプル極まりないものだった。
海賊船たちは各々好きなように進んでいく。だが、ソルラーマの船に一定以上近づく船はいない。
海原に響き渡る砲撃音。真っ青な空に、大砲の火薬と被弾した船の黒い煙が上っていく。
どの船からも、交戦中を示す信号旗がはためいていた。
敵船団からすれば、山の影から突然海賊船たちが現れたように見えただろう。
そのうえ、向こうの攻撃が届かない位置から一方的に砲撃を受けざるを得ない状態だ。
木片が飛び散り、傾く船もでてきた。望遠鏡をのぞかなくても、船内の慌てぶりが手に取るようにわかる。
恐ろしかろう。悔しかろう。
邦雄はつい、軍刀の柄を握りしめた。手も足もでない砲撃の怖さは、身に染みている。
「おいクニオ!」
「っ、はい!!」
下から聞こえてきた船長の怒号に、沈んでいた意識は一気に海面へ引き上げられた。
見張り台をしっかり両手で握りしめて声のした方を見下ろせば、不満げな顔でエドワードが見上げていた。
「もう俺たちの狙いは範囲内だろうが! 仕事しろ!!」
「し、失礼しました!!」
叫び返して、視線を戦場へ戻す。
自分たちの狙いは、旗艦だ。敵の船団の中央に陣取っている、最も大きな船。
エドワードの言う通り、もうこちらの主砲が届く距離だ。そしてなぜか、その船は戦闘を避けるかのように他のソルラーマ軍から離れていく。
よくわからないが、こちらとしては好都合この上ない。
「主砲用意!!」
メガホンを手に邦雄が叫べば、甲板から復唱が聞こえてくる。ファルト海賊団の生き残り達が大砲の狙いを定め、詰め替えの弾を準備していく。
狙いは、敵旗艦の煙突だ。
ニッドの手旗信号が見えた。
銃を両手でクルクルと軽快に回していたエドワード。その銃たちはピタリの彼の手に収まり、正面へ構えられる。
カチリと、セイフティーは解除された。
撃て
指揮官命令の代わりに、船長の銃の発砲音が響き渡る。
その弾はどうやら、敵の指揮官の頬をかすめたらしい。
瞬間、文字通り船体を揺らす轟音が上がった。1発、2発。
立ち上る煙で、着弾位置がなかなか判然としない。その間に、訓練通りに次の弾が込められていく。
風が黒煙を晴らした時、邦雄の目に映ったものは。
「当たった……!!」
煙突が折れた、敵の旗艦だった。
(やっぱり、大和の理論は間違っとらんかったんじゃ……!!)
敵の攻撃が当たらない位置から、こちらの砲撃を当てる。その発想は、まさに大和の主砲そのものだ。
あの日、主砲が発砲された音を邦雄は残念ながら聞いていない。そんな彼がいま胸に抱くのは、あの浮沈艦は世界最強だったという確信だ。
「敵の船を沈めろ!! 狙うのは船の中央より下、機関室! 風上へ向けて、面舵いっぱい!!」
エドワードの楽し気な指示が飛ぶ。「おもーかーじ!」というマーンの声と共に、旋回を開始する船。
もちろん、攻撃の手が止むことはない。ニッドによる狙撃、主砲の2発目と続いていく。
そして旗艦は、まるでこちらに合わせるかのように風下へと舵を切った。
(なんじゃ? さっきから、どう見ても船の動きが変じゃ……?)
なぜ、こちらの有利になるように動くのか。まさか、こちらが誘い込まれているのだろうか。
一気に立ち上った不安に、邦雄は慌てて望遠鏡を手に取った。
確認する先は、相手の船の操舵手。
「……あ!!」
その姿が見えた途端、邦雄の心にたちこめた暗雲は一気に霧散した。
デイブだ。
敵の旗艦を、こちらに合わせて動かしているのは、デイブだった。
確かに、敵軍に彼がいるかもしれないとマーンは言っていた。だがこの動きを見て、彼が寝返ったと思うアンピシア海賊団の船員はいないだろう。
これは、勝てる。
この船さえ沈めてしまえばいい。どんなに兵力は向こうが勝っているとしても、司令官が落ちると共に統率力は水底に沈むのだから。
だが、そう簡単にいかせてくれないのが「戦争」というもの。
パッパッパッ、パーッパーッパーッ、パッパッパッ
どこからか聞こえてきたラッパの音。その瞬間、邦雄は音の発信源を探して望遠鏡を構えながらあたりを見渡した。
モールス信号の、SOSだ。電子通信機の代わりは、戦場に響き渡るラッパの音。必要最低限を浸透させたモールス信号のうち、最も重要な通信がこの音だ。
再び響いたSOS。その音は、アンピシア海賊団から見て11時の方向。
Z旗が下げられている。それは邦雄が今回の戦いのために定めた、たった2つの信号旗通信のうちの1つ。
(敵との白兵戦の結果、海賊団が負けてる……!!)
戦闘不能の合図であるその姿に、邦雄は一気に血の気が引いた。
あの方角にいるのは、ファルト海賊団に並ぶ規模の海賊団なのだから。



