ガヤガヤと騒がしい酒場。街全体として、荒くれ者が多いらしい。
その店の1番隅の席にて。マーン、レーン、ニッド、そして邦雄の4人は、食事をしながら声を潜めていた。
「俺のせいだ……と、確かにデイブさんは言ってました。そんなことない、って、私は言ったんですけど……」
シュン、といつもの笑顔をしぼませたレーンの証言。
デイブの言葉は、リヴァイの治療も落ち着いて、3人で副船長の部屋で休んでいた時だったそうだ。
串に刺さった肉を豪快に口へ運びながら、うーんとマーンは唸る。
「デイブは……ソルラーマの隅っこにちょーっと物資補給に立ち寄った時に仲間になったのよ……。旦那様、ヨルムさん、私の3人で始めた海賊団に、初めて加わった仲間」
「そんな古参やったんか、デイブはん……!?」
「そうよ。だからこそ……」
2本目に手を伸ばす彼女。明るく振る舞ってはいるが、その表情にはやはり影がさす。
「旦那様の魔法のこと……そりゃあ、詳しいよね。操舵手だから、最長でどのくらい離れたところにいた船を襲ったかも、体感で分かるだろうし……」
「そんなぁ……!」
泣きそうな声を漏らすレーン。ギュッとカップを握ったその手は、わずかに震えていた。
「デイブさんって……祖国に、思い入れはない……ん、じゃろう……?」
おずおずと、邦雄はマーンへ尋ねる。それを受け、彼女は首を捻った。
「そうだと思うなぁ……。私達がソルラーマの田舎に停泊させようとした時にね、海辺の村が燃えてたのよ」
「も、燃えてた!? なんでなん!?」
「……デイブが、その村を襲ってて……」
「……はい??」
代表のように相槌を繰り返すニッド。それに呼応するように、後輩3人の目が、この船の姉貴分に釘付けになった。
麦酒の杯を傾けるマーン。彼女が語ったのは、衝撃の事実だった。
「やっぱり、異形だからって疎まれてたみたいなのよね……。お姉さんが火あぶりの刑にされたみたいで、そのショックで、デイブも暴走して……」
「は、はいぃ!? なんで姉やんが火あぶり!?」
「……異形を匿ったから、って……言われたらしいわ」
「んな阿呆な!?」
ニッドが声をあげる。そのおかげか、レーンと邦雄はただじっと耳を傾けることができた。
深いため息をついて、マーンはさらに続ける。
「燃えてたのは、デイブが村人を殺した結果、色んな家屋や木々に燃え移った松明だったのよねぇ。……デイブ自身も、放心状態だった。」
再び麦酒をひと口。肉をかじり、頬杖をつくマーン。
「旦那様が、『ソルラーマを恨むのなら、俺達と一緒にこの国の利益を掻っ攫うか?』なーんて……。たぶんデイブからしたら、唯一の逃げ道だったんじゃないかなぁ。憲兵も向かってきてたし……」
昔を懐かしむように、彼女は語る。締めくくるように、ゆっくりと口を開いた。
「私達アンピシア海賊団がこの村を襲った!ってことにして、食料とか飲み水をいーっぱい、無人になった家から貰ってねぇ。……泣きじゃくって追いかけて来る妹ちゃんをあえて突き放して、デイブは私達の船に加わったのよ」
予想もしていなかった昔話。
聞いた結果浮かぶのは、たった一つの疑問だった。
「でも、じゃあ……どうして、デイブさんはソルラーマの軍に味方したんですか……?」
レーンの言葉は、この場全員の代弁だ。
けれど誰一人、答えを持っていない。
まずポツリと呟いたのは、ニッドだった。
「……ちなみにー……魔法陣って、なに? 結局俺もニオも、デイブはんの背中に何があったんか見てへんのや……」
コクコクと頷く邦雄。彼らの質問に答えたのは、やはりマーンだ。
「魔法を使うときに現れる紋章よ。ほら、船長が超カッコよく海上索敵を発動させた時、海に浮かんでたでしょ?黒い光が」
「あーね! 出とったわ!」
「あんなふうに、円の中に呪文とかなんか色々描かれてるのが、魔法陣よ」
なるほど、と邦雄は唸る。魔法が発動した証拠が魔法陣と理解するならば、デイブは誰かから魔法を受けたということなのだろう。
「ちゅーことは、」
そう考えたのは、ニッドも同じだったようだ。
「ソルラーマの王族とか貴族が、デイブはんに魔法をかけたってことなんとちゃう? 魔法なんて、使えるのはそーゆー人らだけやん」
彼の推測を聞き、邦雄はふとソルラーマ軍艦隊の旗艦を思い出した。
「王族……かは、わからんけど、なんじゃあ偉そうなのは1人、船に乗っちょった。甲板で、ゆうゆうと座っちょったのぉ」
「そいつや!! ソイツに脅されたんとちゃうか!?」
「……あのデイブさんが、脅しに屈するかのぉ……?」
「そ、それは……」
スープを飲む邦雄。一方ニッドは反論しきれず、モヤモヤをお酒で発散し始めてしまった。
恐らく今頃、船では裏切り者の尋問が行われているのだろう。4人でこうして外食をしているのは、「出てろ」と船長命令を受けたからだった。
いったい、どれほど厳しい尋問なのか。
考えれば考えるほど、空気は重たい。
レーンは涙目。ニッドは頬を膨らませて不満げだ、
邦雄はただ、肩を落とすだけ。
「……きっとさ、デイブがそうしなかったら、私達今頃もっと酷い目にあってたんだよ。私達のこと守ったんだよデイブは」
「……姐やん?」
鉛のような空気の中、カラリとしたマーンの声が響く。
後輩たちの視線が集まる中、彼女は勢いよく残りの麦酒を飲み干した。
「そうじゃなきゃ、あのデイブが裏切るなんて考えられない!!」
ダァン! と音を立てて杯を起き、勢いよくされた宣言。
彼女だってから元気だ。けれどその無茶苦茶な論理は、邦雄たちに彼を信じる勇気をくれた。
「私も……そう思います!マーンさん!」
「俺もや!」
「俺もです!」
次々と声をあげる、レーン、ニッド、そして邦雄。
船に戻ったら、牢屋からデイブを引っ張り出して甲板で二次会をしよう。
そう、4人で計画を立て始めるのだった。
◇
程よく酔っ払ったまま、船に戻る。邦雄を牢屋から引っ張り出した時のように、ひょこひょこと顔を覗かせよう。
笑いながら渡し板を渡った彼ら。
しかし甲板の景色に、マーンが息を呑む。それは、あっという間に邦雄たち3人にも伝播した。
甲板から海面にかけて突き出された渡し板。
その上に立たされるデイブは、両腕を後ろ手に拘束されている。そのうえ、傷だらけだ。
甲板には、リヴァイ、ヨルム、そしてエドワードの姿。
まさに、船長ら一派による裏切り者の処刑の瞬間ではないか。
「デイブさん!!」
レーンが泣きそうな声と共に駆け出す。けれど、その身は簡単にリヴァイによって抑え込まれてしまった。
「いや!! 離して下さい、リヴァイさん!!」
「レーン嬢、落ち着いて……」
「離して!!」
一方、邦雄とニッドは彼女と違いその場に立ち尽くすしかできない。
ヨルムがこちらを見つめている。ただそれだけだと言うのに、動けないのだ。
「レーン」
デイブの静かな声が船に木霊する。
「デイブさん……!!」
「……大丈夫だから」
たったひと言な、彼らの会話。そしてデイブは邦雄やニッド、マーンのこともひと目見つめた後に。
す……と、あまりにも静かにその姿を消した。
「デイブさん!!」
悲鳴のようなレーンの声。重なるように聞こえた水飛沫の音は、彼が海へ落ちた音か。
「離して、リヴァイさん!!離してぇ!!」
「レーン嬢!」
彼女は藻掻く。人魚であるレーンが飛び込めば、デイブを助けるのは簡単だ。
けれど、リヴァイの片腕を振りほどくことができない。
そんな彼らの横を悠然と通過するエドワード。
「そう騒ぐな」
「え……?」
すれ違い際にそう告げた船長を、レーンは涙目で見上げる。
その視線すらシカトしたエドワードは、真っ直ぐに邦雄の元へ。
「な、なんじゃ……船長……」
教官と同じ顔、同じ声。帽子で金髪を隠してしまえば、エドワードの見た目は邦雄の最も尊敬する上官そのもの。
けれど彼の行動や発言は、その真逆。
それを再び強烈に突きつけられ、邦雄は息が詰まる思いがした。
「ソルラーマと本格的にやり合う」
「えっ」
悪魔のような笑みでエドワードが告げた言葉。
それはつまり、この国も戦争を始めるというもの。
青ざめた邦雄に、さらに突きつけられた無情な命令。
「クニオ、お前が作戦立案をしろ。カイグンとやらは、海戦の専門なんだろ?」
「……え、」
「必要な情報はヨルムに聞け。……今度は仕事を完遂しろよ?」
それだけ言うと、エドワードはコートを夜風になびかせて船長室へ。
その後を追うマーンの背を呆然と見送る邦雄だったが。
「えええぇぇぇ!?!」
余りにもな命令に対する彼の嘆き。それは、星々が輝く夜の空へ溶けていった。
その店の1番隅の席にて。マーン、レーン、ニッド、そして邦雄の4人は、食事をしながら声を潜めていた。
「俺のせいだ……と、確かにデイブさんは言ってました。そんなことない、って、私は言ったんですけど……」
シュン、といつもの笑顔をしぼませたレーンの証言。
デイブの言葉は、リヴァイの治療も落ち着いて、3人で副船長の部屋で休んでいた時だったそうだ。
串に刺さった肉を豪快に口へ運びながら、うーんとマーンは唸る。
「デイブは……ソルラーマの隅っこにちょーっと物資補給に立ち寄った時に仲間になったのよ……。旦那様、ヨルムさん、私の3人で始めた海賊団に、初めて加わった仲間」
「そんな古参やったんか、デイブはん……!?」
「そうよ。だからこそ……」
2本目に手を伸ばす彼女。明るく振る舞ってはいるが、その表情にはやはり影がさす。
「旦那様の魔法のこと……そりゃあ、詳しいよね。操舵手だから、最長でどのくらい離れたところにいた船を襲ったかも、体感で分かるだろうし……」
「そんなぁ……!」
泣きそうな声を漏らすレーン。ギュッとカップを握ったその手は、わずかに震えていた。
「デイブさんって……祖国に、思い入れはない……ん、じゃろう……?」
おずおずと、邦雄はマーンへ尋ねる。それを受け、彼女は首を捻った。
「そうだと思うなぁ……。私達がソルラーマの田舎に停泊させようとした時にね、海辺の村が燃えてたのよ」
「も、燃えてた!? なんでなん!?」
「……デイブが、その村を襲ってて……」
「……はい??」
代表のように相槌を繰り返すニッド。それに呼応するように、後輩3人の目が、この船の姉貴分に釘付けになった。
麦酒の杯を傾けるマーン。彼女が語ったのは、衝撃の事実だった。
「やっぱり、異形だからって疎まれてたみたいなのよね……。お姉さんが火あぶりの刑にされたみたいで、そのショックで、デイブも暴走して……」
「は、はいぃ!? なんで姉やんが火あぶり!?」
「……異形を匿ったから、って……言われたらしいわ」
「んな阿呆な!?」
ニッドが声をあげる。そのおかげか、レーンと邦雄はただじっと耳を傾けることができた。
深いため息をついて、マーンはさらに続ける。
「燃えてたのは、デイブが村人を殺した結果、色んな家屋や木々に燃え移った松明だったのよねぇ。……デイブ自身も、放心状態だった。」
再び麦酒をひと口。肉をかじり、頬杖をつくマーン。
「旦那様が、『ソルラーマを恨むのなら、俺達と一緒にこの国の利益を掻っ攫うか?』なーんて……。たぶんデイブからしたら、唯一の逃げ道だったんじゃないかなぁ。憲兵も向かってきてたし……」
昔を懐かしむように、彼女は語る。締めくくるように、ゆっくりと口を開いた。
「私達アンピシア海賊団がこの村を襲った!ってことにして、食料とか飲み水をいーっぱい、無人になった家から貰ってねぇ。……泣きじゃくって追いかけて来る妹ちゃんをあえて突き放して、デイブは私達の船に加わったのよ」
予想もしていなかった昔話。
聞いた結果浮かぶのは、たった一つの疑問だった。
「でも、じゃあ……どうして、デイブさんはソルラーマの軍に味方したんですか……?」
レーンの言葉は、この場全員の代弁だ。
けれど誰一人、答えを持っていない。
まずポツリと呟いたのは、ニッドだった。
「……ちなみにー……魔法陣って、なに? 結局俺もニオも、デイブはんの背中に何があったんか見てへんのや……」
コクコクと頷く邦雄。彼らの質問に答えたのは、やはりマーンだ。
「魔法を使うときに現れる紋章よ。ほら、船長が超カッコよく海上索敵を発動させた時、海に浮かんでたでしょ?黒い光が」
「あーね! 出とったわ!」
「あんなふうに、円の中に呪文とかなんか色々描かれてるのが、魔法陣よ」
なるほど、と邦雄は唸る。魔法が発動した証拠が魔法陣と理解するならば、デイブは誰かから魔法を受けたということなのだろう。
「ちゅーことは、」
そう考えたのは、ニッドも同じだったようだ。
「ソルラーマの王族とか貴族が、デイブはんに魔法をかけたってことなんとちゃう? 魔法なんて、使えるのはそーゆー人らだけやん」
彼の推測を聞き、邦雄はふとソルラーマ軍艦隊の旗艦を思い出した。
「王族……かは、わからんけど、なんじゃあ偉そうなのは1人、船に乗っちょった。甲板で、ゆうゆうと座っちょったのぉ」
「そいつや!! ソイツに脅されたんとちゃうか!?」
「……あのデイブさんが、脅しに屈するかのぉ……?」
「そ、それは……」
スープを飲む邦雄。一方ニッドは反論しきれず、モヤモヤをお酒で発散し始めてしまった。
恐らく今頃、船では裏切り者の尋問が行われているのだろう。4人でこうして外食をしているのは、「出てろ」と船長命令を受けたからだった。
いったい、どれほど厳しい尋問なのか。
考えれば考えるほど、空気は重たい。
レーンは涙目。ニッドは頬を膨らませて不満げだ、
邦雄はただ、肩を落とすだけ。
「……きっとさ、デイブがそうしなかったら、私達今頃もっと酷い目にあってたんだよ。私達のこと守ったんだよデイブは」
「……姐やん?」
鉛のような空気の中、カラリとしたマーンの声が響く。
後輩たちの視線が集まる中、彼女は勢いよく残りの麦酒を飲み干した。
「そうじゃなきゃ、あのデイブが裏切るなんて考えられない!!」
ダァン! と音を立てて杯を起き、勢いよくされた宣言。
彼女だってから元気だ。けれどその無茶苦茶な論理は、邦雄たちに彼を信じる勇気をくれた。
「私も……そう思います!マーンさん!」
「俺もや!」
「俺もです!」
次々と声をあげる、レーン、ニッド、そして邦雄。
船に戻ったら、牢屋からデイブを引っ張り出して甲板で二次会をしよう。
そう、4人で計画を立て始めるのだった。
◇
程よく酔っ払ったまま、船に戻る。邦雄を牢屋から引っ張り出した時のように、ひょこひょこと顔を覗かせよう。
笑いながら渡し板を渡った彼ら。
しかし甲板の景色に、マーンが息を呑む。それは、あっという間に邦雄たち3人にも伝播した。
甲板から海面にかけて突き出された渡し板。
その上に立たされるデイブは、両腕を後ろ手に拘束されている。そのうえ、傷だらけだ。
甲板には、リヴァイ、ヨルム、そしてエドワードの姿。
まさに、船長ら一派による裏切り者の処刑の瞬間ではないか。
「デイブさん!!」
レーンが泣きそうな声と共に駆け出す。けれど、その身は簡単にリヴァイによって抑え込まれてしまった。
「いや!! 離して下さい、リヴァイさん!!」
「レーン嬢、落ち着いて……」
「離して!!」
一方、邦雄とニッドは彼女と違いその場に立ち尽くすしかできない。
ヨルムがこちらを見つめている。ただそれだけだと言うのに、動けないのだ。
「レーン」
デイブの静かな声が船に木霊する。
「デイブさん……!!」
「……大丈夫だから」
たったひと言な、彼らの会話。そしてデイブは邦雄やニッド、マーンのこともひと目見つめた後に。
す……と、あまりにも静かにその姿を消した。
「デイブさん!!」
悲鳴のようなレーンの声。重なるように聞こえた水飛沫の音は、彼が海へ落ちた音か。
「離して、リヴァイさん!!離してぇ!!」
「レーン嬢!」
彼女は藻掻く。人魚であるレーンが飛び込めば、デイブを助けるのは簡単だ。
けれど、リヴァイの片腕を振りほどくことができない。
そんな彼らの横を悠然と通過するエドワード。
「そう騒ぐな」
「え……?」
すれ違い際にそう告げた船長を、レーンは涙目で見上げる。
その視線すらシカトしたエドワードは、真っ直ぐに邦雄の元へ。
「な、なんじゃ……船長……」
教官と同じ顔、同じ声。帽子で金髪を隠してしまえば、エドワードの見た目は邦雄の最も尊敬する上官そのもの。
けれど彼の行動や発言は、その真逆。
それを再び強烈に突きつけられ、邦雄は息が詰まる思いがした。
「ソルラーマと本格的にやり合う」
「えっ」
悪魔のような笑みでエドワードが告げた言葉。
それはつまり、この国も戦争を始めるというもの。
青ざめた邦雄に、さらに突きつけられた無情な命令。
「クニオ、お前が作戦立案をしろ。カイグンとやらは、海戦の専門なんだろ?」
「……え、」
「必要な情報はヨルムに聞け。……今度は仕事を完遂しろよ?」
それだけ言うと、エドワードはコートを夜風になびかせて船長室へ。
その後を追うマーンの背を呆然と見送る邦雄だったが。
「えええぇぇぇ!?!」
余りにもな命令に対する彼の嘆き。それは、星々が輝く夜の空へ溶けていった。



