戦艦大和で戦死した男、異世界で海賊になる

 リヴァイからの鋭い指摘。息を呑んだデイブだったが、穏やかな表情を浮かべて答えた。

「そんなの、あの状況じゃそうとしか思えなかったからに決まってるだろ?」
「なぜだ」
「なぜって……。船長がソルラーマに喧嘩売ったんだろ?だったら……」

 淀みない返答。だがリヴァイの顔は相変わらず厳しい。
 睨みつけたまま、彼の尋問は続く。
 
「他の海賊船からの襲撃や、商船側が警戒して先手を打ったという可能性は?」
「それは……」
「貴様はそれすら視野にいれず、『ソルラーマ軍です』と断定した。しかも、撤退まで提案して」
「……」

 これでは、決めつけているも同然だ。
 まさに一触即発。海賊団きっての戦闘員2人の様子に、邦雄とニッドはただ青い顔で見守るしかできない。
 
「……デイブ」

 日頃から喧嘩ばかりの仲間を呼びながら、リヴァイはスラッと剣を抜く。

「勝負しろ」
「……は? 」

 切っ先を突きつけられたデイブ。目を見開いた後、彼は眉根を寄せて呟いた。

「お前、その怪我で……」

 その言葉に、邦雄とニッドも勢いよく首を縦に振る。
 2人とも酷い大怪我だったのだ。やっと回復したばかりなのに、なぜ自ら怪我をするようなことを。

 けれど後輩たちの心配は、残念ながら届かないらしい。
 
「怪我がなんだ。腑抜け相手など、腕一本で充分だ」
「腑抜けだと……?」

 リヴァイのひと言に、明らかにデイブの顔つきが変わる。
 デイブはシャツの腕をまくりはじめた。

「……脱がないのか? いつもタンクトップ一枚だろう、やり合う時は」
「ハンデだ。隻腕相手なら、このくらいで妥当だろ?」
「ふん、余裕気取りが」

 ピンと張り詰めた空気。制止は無駄だと、彼らの表情が告げている。

 最初に動き出したのは、リヴァイだった。

 左の袖を風になびかせ、間合いを詰める。右腕を一閃、切っ先がデイブを襲った。
 
「貴様の生まれはソルラーマなんだろ! 祖国の味方をしたと疑って、何が悪い!」
「……!!」

 剣の動きを見逃すことなく、一撃一撃を確実に避けていたデイブ。
 しかしリヴァイの言葉で、彼の表情が変わった。

 触手へと姿を変えた左腕が、騎士の剣を弾いた。
 
「貴様の価値観で、疑われる筋合いはない!!」
「……!?」

 初めて見る、デイブの激昂。彼の顔は苦悶に歪み、唇が切れてしまうのではないかと思うほど歯を食いしばっている。

 そのまま、触手の猛攻がリヴァイを襲う。
 
「祖国? ふざけるな! あんな国、こっちから願い下げだ!!」
「……」
「俺はお前とは違う!!!」

 互角の、決闘。それを見ながら、邦雄は航海の中で2人と話したことを思い出していた。

 リヴァイが言うには、この国の騎士とは、国を守る使命があるという。領主に仕え、故郷の治安と防衛を担う者。
 それを大事に思うリヴァイにとって、祖国に思い入れがあるのは当然なのだ。だからこそ、邦雄の未練に深く共感してくれた。

 一方、デイブは。故郷の話を詳しく聞いたことは、まだない。残してきた妹が心配だと、一度だけポツリと話してくれただけだ。飢えてはいないか、嫌な思いをしていないか。
 悲しげに笑った顔を、覚えている。邦雄の方が、デイブに共感してしまった。

 リヴァイと、デイブ。2人の先輩たちが抱える事情は、正反対だ。
 
「なら」

 巧みに剣を操りながら、今度はリヴァイが口を開く。
 
「俺のせいだ……と、貴様が呻いていたのはなんだ!!」
「っ……!」

 デイブが間を取る。警戒を続けるリヴァイ。
 
「……なんのことだ」
「しらばっくれるなよ、魔物。この耳で聞いた」
「……」

 睨み合う2人。表情だけで判断するなら、リヴァイが優勢だろうか。

「レーン嬢が戻ってきたら、彼女に証言してもらうか?」
「ッッ、」

 やめてくれ。

 まるでデイブがそう言っているように、邦雄とニッドには見えてしまった。 

 リヴァイが再び駆け出す。直線ではなく、大きく弧を描く軌道。
 行く手を阻もうと伸ばされる触手。
 その隙間を縫っていくように駆ける騎士。

 回り込みたいリヴァイと、背後を取られまいとするデイブ。

 チラと、リヴァイの視線が一瞬だけ船の外に向く。
 だが次の瞬間、彼は一気に間合いを詰め始めた。

「こんの……!!」

 デイブの触手がリヴァイの足元を狙う。そこに容赦なく剣を突き刺していくリヴァイ。

 その時、こちらに近づいて来るガツガツとした大きな足音に、邦雄もニッドも気がついた。

「何事だ!!」
「っ、船長……!」

 現れたのはもちろん、エドワードだ。彼の怒号に、明確にデイブの動きが鈍った。
 リヴァイが彼の膝を突き、跪かせる。そして、剣はデイブのシャツを切り裂き、刃を首筋へ。

 エドワードも、彼に続くヨルムも、戦闘員の2人に厳しい目を向けている。
 青い顔で俯くデイブと、冷たい声で言い放つリヴァイ。

「船長、裏切り者はコイツです」

 その断定に、邦雄は息を呑む。ニッドはもうずっと、震える身体で邦雄に抱きついていた。
 
「……何を根拠に」

 そう言いながら、エドワードはゆっくりと容疑者へ近づいていく。
 リヴァイの視線が、デイブの背中へ落ちる。それを受けて、この船の指揮官は背後へと回り込む。

 そして、船長は淡々と告げた。
 
「……この焼印はなんだ、デイブ」
「ッ……」
「魔法陣だろ?」
「……」

 観念したように、デイブは何も言わない。その姿が、痛々しくて見ていられない。

「リヴァイ、よくやった。ソイツは牢に入れておけ」
「イエッサー」

 そう言い残して、エドワードは船長室へ。
 ヨルムがデイブの腕を引っ張り、剣を突きつけたままリヴァイが裏切り者を歩かせる。

 たった2人、邦雄とニッドだけが甲板に残された。

「嘘やろ……?デイブはん……」
「……」

 ニッドの泣きそうな声が、邦雄の耳にいやに大きく響いた。