ギリギリ、逃げ切れた。
王国のとある港に停泊できた時、ようやくひと息ついたエドワードに浮かんだ言葉はそれだった。
船内の惨状は酷い。
デイブとリヴァイが重傷。
レーンの治癒魔法は対象を選択できないため、戦闘中はずっとデイブにのみ聞こえるように歌わせていた。治りかけのまま彼が戦闘を続けるものだから、キリがなかったようだ。それが祟ったのか、レーンは疲労でダウン。
結局、リヴァイの左腕は切断。断面をヨルムが縫合することになった。
邦雄は血と遺体まみれの船内に顔を真っ青にして嘔吐。マーンが付きっきりになったが、後から聞いた報告では「ヤマト」で見た惨状を思い出していたらしい。
船内を清掃しようにも、一般人の目もある港で血や遺体の処理をしたら追い出されかねない。掃除を始められたのは街が寝静まってからだった。
そんな、夜。
「お疲れ様です」
聞こえた声に、椅子に深く座ったままエドワードはゆっくりと目を開けた。
船長室に入ってきたのは、ヨルムだった。
「……重傷の奴らの様子はどうだ」
ギシ、と椅子の背の木材が軋む音。身体を起こして尋ねた言葉に、長年の相棒はウィスキーを注ぎながら答えた。
「3人とも眠っていますよ。リヴァイはまだ感染症のリスクがあるので、私の清潔なベッドに寝かせています。デイブは本人の回復力もあって、最低限塞がっているので大丈夫でしょう。彼らにはレーンがそばにいます」
「……そうか。クニオは」
「彼は精神的なものですからね……。ハンモックで眠っていますが、顔色は一番悪いです。ニッドが見守ってます」
「……」
ウィスキーを煽る。アルコールの喉を焼くような熱さが、今日の敗走を思い出させた。
あんな奇襲、襲撃は初めてだ。海賊稼業を始めて10年経つが、まさかこちらが襲われる側になるだなんて。
縄張りを競って他の海賊団とやり合ったとしても、どうせ人数は似たり寄ったり。そうなると、こちらが負けるはずがない。
クニオの機転がなければ、今頃全員ソルラーマの捕虜だっただろう。リヴァイとデイブは死んでいたかもしれない。ニッドとレーンは売られていたか。マーンだって女として無事では……。
「……」
考えれば考えるほど、今日の痛手が腹の中で沸々と煮えたぎる。
こうも収まらないのは、理由があった。
「……あいつら、姿が見えなくなっても俺達をつけて来やがった」
「……!」
酒を流し込みながら、ポツリと漏らした事実。
逃走の間、あの国の艦隊はエドワードの魔法の範囲内にずっと居たのだ。
気配が消えたのは、こちらが王国に到着した後。それも、ただ距離をとっただけでこちらを睨んでいる可能性がある。
そう思うと、エドワードは魔法の発動を緩める訳にはいかなかった。
「……こちらの位置が相手にバレているうえに、貴方の魔法を見抜かれている……と」
ヨルムの推測に、ため息でしか返事ができない。
空中は索敵範囲外。気配を探知できるのは半径5キロ。
今日の奇襲は、こちらの正確な位置とこの情報がなければ、成立し得ないものだ。
そんな情報、外部から探れる訳がない。
つまりこの船に、裏切り者がいる。
「……リヴァイ、ニッド、レーン、デイブ……マーンが利用されたって説もあるか……」
「……彼女、貴方のことを"旦那"と言って自慢するクセがありますからね」
「……ったく……結婚はしねぇって言ってるのによォ……」
こんな話ができるのは、もはやヨルムしかいなかった。
「クニオが、貴方の魔法をそれほど詳しく把握できているとは思えない。それは私も同意見です。……彼に、探らせましょうか?」
「おう」
苦い苦い黄金色の酒をまたひと口。索敵範囲内には、同じ港に停泊している他の海賊船が2隻しかいなかった。
「そういえば」
「……?」
ウィスキーを注ぎ足しつつ、ヨルムがニコリと良くない笑みを浮かべた。
「国王陛下から、貴方へ招集がかかっているそうですよ。なんでも、ソルラーマからの正式な通達に関わるだとか」
「面倒くせぇなぁ……」
嫌すぎる案件に、つい眉間にシワが寄る。
だが、今日の件があった以上、シカトするわけにもいかなかった。
「……ヨルム、明日城まで付き合え」
「イエッサー。……今日の報復には、陛下を利用するおつもりで?」
「ハッ!」
悪魔のような笑みの相棒に、エドワードは最高に悪い笑みを返す。
「当然だ! 海賊に喧嘩を売ったこと、あの国に後悔させてやるぞ!!」
ウィスキーに当てられた怒りは、身体中を駆け巡り炎を燃やしていた。
王国のとある港に停泊できた時、ようやくひと息ついたエドワードに浮かんだ言葉はそれだった。
船内の惨状は酷い。
デイブとリヴァイが重傷。
レーンの治癒魔法は対象を選択できないため、戦闘中はずっとデイブにのみ聞こえるように歌わせていた。治りかけのまま彼が戦闘を続けるものだから、キリがなかったようだ。それが祟ったのか、レーンは疲労でダウン。
結局、リヴァイの左腕は切断。断面をヨルムが縫合することになった。
邦雄は血と遺体まみれの船内に顔を真っ青にして嘔吐。マーンが付きっきりになったが、後から聞いた報告では「ヤマト」で見た惨状を思い出していたらしい。
船内を清掃しようにも、一般人の目もある港で血や遺体の処理をしたら追い出されかねない。掃除を始められたのは街が寝静まってからだった。
そんな、夜。
「お疲れ様です」
聞こえた声に、椅子に深く座ったままエドワードはゆっくりと目を開けた。
船長室に入ってきたのは、ヨルムだった。
「……重傷の奴らの様子はどうだ」
ギシ、と椅子の背の木材が軋む音。身体を起こして尋ねた言葉に、長年の相棒はウィスキーを注ぎながら答えた。
「3人とも眠っていますよ。リヴァイはまだ感染症のリスクがあるので、私の清潔なベッドに寝かせています。デイブは本人の回復力もあって、最低限塞がっているので大丈夫でしょう。彼らにはレーンがそばにいます」
「……そうか。クニオは」
「彼は精神的なものですからね……。ハンモックで眠っていますが、顔色は一番悪いです。ニッドが見守ってます」
「……」
ウィスキーを煽る。アルコールの喉を焼くような熱さが、今日の敗走を思い出させた。
あんな奇襲、襲撃は初めてだ。海賊稼業を始めて10年経つが、まさかこちらが襲われる側になるだなんて。
縄張りを競って他の海賊団とやり合ったとしても、どうせ人数は似たり寄ったり。そうなると、こちらが負けるはずがない。
クニオの機転がなければ、今頃全員ソルラーマの捕虜だっただろう。リヴァイとデイブは死んでいたかもしれない。ニッドとレーンは売られていたか。マーンだって女として無事では……。
「……」
考えれば考えるほど、今日の痛手が腹の中で沸々と煮えたぎる。
こうも収まらないのは、理由があった。
「……あいつら、姿が見えなくなっても俺達をつけて来やがった」
「……!」
酒を流し込みながら、ポツリと漏らした事実。
逃走の間、あの国の艦隊はエドワードの魔法の範囲内にずっと居たのだ。
気配が消えたのは、こちらが王国に到着した後。それも、ただ距離をとっただけでこちらを睨んでいる可能性がある。
そう思うと、エドワードは魔法の発動を緩める訳にはいかなかった。
「……こちらの位置が相手にバレているうえに、貴方の魔法を見抜かれている……と」
ヨルムの推測に、ため息でしか返事ができない。
空中は索敵範囲外。気配を探知できるのは半径5キロ。
今日の奇襲は、こちらの正確な位置とこの情報がなければ、成立し得ないものだ。
そんな情報、外部から探れる訳がない。
つまりこの船に、裏切り者がいる。
「……リヴァイ、ニッド、レーン、デイブ……マーンが利用されたって説もあるか……」
「……彼女、貴方のことを"旦那"と言って自慢するクセがありますからね」
「……ったく……結婚はしねぇって言ってるのによォ……」
こんな話ができるのは、もはやヨルムしかいなかった。
「クニオが、貴方の魔法をそれほど詳しく把握できているとは思えない。それは私も同意見です。……彼に、探らせましょうか?」
「おう」
苦い苦い黄金色の酒をまたひと口。索敵範囲内には、同じ港に停泊している他の海賊船が2隻しかいなかった。
「そういえば」
「……?」
ウィスキーを注ぎ足しつつ、ヨルムがニコリと良くない笑みを浮かべた。
「国王陛下から、貴方へ招集がかかっているそうですよ。なんでも、ソルラーマからの正式な通達に関わるだとか」
「面倒くせぇなぁ……」
嫌すぎる案件に、つい眉間にシワが寄る。
だが、今日の件があった以上、シカトするわけにもいかなかった。
「……ヨルム、明日城まで付き合え」
「イエッサー。……今日の報復には、陛下を利用するおつもりで?」
「ハッ!」
悪魔のような笑みの相棒に、エドワードは最高に悪い笑みを返す。
「当然だ! 海賊に喧嘩を売ったこと、あの国に後悔させてやるぞ!!」
ウィスキーに当てられた怒りは、身体中を駆け巡り炎を燃やしていた。



