剣よし、パチンコよし、大砲よし。
10分もすれば、戦闘準備はほぼ万端だ。
望遠鏡を覗けば相手の船が見える。前回襲撃した船より、小さいだろうか。
「今回も期待してるで〜、ニオー!」
「ニッド……それは無茶じゃてぇ」
大和での戦闘準備とはあまりに違う緩さ。これから戦うことの方が信じられない邦雄の頭上を、再び大きな鳥の影が通過していく。
その影から太陽が顔を覗かせた時、激しい爆発とそれに伴う火の粉が海賊団を突如襲った。
「空爆……!?」
船体が激しく揺れる。転覆はしなさそうだ。となりでは、ニッドが驚いて尻もちをついている。
船べりに捕まりながら、思わず叫んだ邦雄。この世界にも戦闘機が存在していたのだろうか。
(爆発はマストそば、帆が燃えてる!)
船の被害状況を確認する限り、それが一番まずい。
彼がそれを認識したのと、ほぼ同時に駆け出すリヴァイ。
「何事だ!」
そこへ現れたのは、エドワードだ。
「船長! 上空にて爆発あり! マスト炎上! リヴァイ、損害状況の確認に向かってます!」
邦雄は敬礼と共に声を張る。これはもう、海軍として染み付いた動きだ。
その報告に重なるように、ニッドの大声が響く。
「アカン! 洗濯物干そうとしたロープ燃えとる!!」
「ッッ……!!」
指さした先は、左右へ炎が伝う縄。このままでは、船橋と船首から船全体が燃えかねない。
その瞬間、プツリと切断されるロープ。行き場を失った炎は、エドワードの革靴に踏み潰された。
船長の手に握られているのは、愛用の大きな戦斧。
「ニッド! 早急に船全体を見回って他に引火した場所がないか確認して来い! 炎は見つけ次第即消火!」
「い、イエッサー!」
「クニオ、お前は上を警戒してろ!」
「承知しました!」
エドワードから指示が飛ぶ。ニッドはどうにか立ち上がって駆けていった。一方邦雄は、放られた望遠鏡を慌てて受け取る。彼の腰に下げられていたものが、この船で最も性能がいい。
そのまま、エドワードはリヴァイやデイブへも指示を飛ばしている。
それを横目に、邦雄は爆発箇所の辺りへ望遠鏡を向けた。
いまは何もいない。戦闘機の音など、もちろん聞こえない。
一旦望遠鏡を下ろし、肉眼で晴れた空をみあげる。
日の光を遮るように旋回している、大きな鳥……。
(いや、あれもしかして鳥じゃないんじゃ……)
そんな予感が邦雄の頭をよぎる。何せ人魚や魔物がいる世界なのだから、空飛ぶ人間がいたっておかしくはない。
その証拠かのように、「鳥」が飛んでいる位置は、望遠鏡で覗き辛い。
例の影が、別の場所に向かうように通過していく。
青空の中に浮かぶ小さな筒状の影に、邦雄は気づいてしまった。
「第二撃来ます!!!」
反射的に叫ぶ。その瞬間、船橋の上空で起きた大きな爆発。
火の粉の雨が降る! そう思い身構える邦雄だが、その様子は一向にない。それどころか、なにか大きな影が頭上にかかっている。
「貴様っ、なんて無茶を!!」
リヴァイの声が聞こえてくる。そちらを見ると、邦雄は目を疑ってしまった。
デイブの両腕の触手が、マストや船橋、そして邦雄とエドワードがいた甲板を覆っているではないか。
「ッ……」
顔をしかめるデイブ。スルスルと、触手が元の人間の腕に戻っていく。
「船長……、ソルラーマ軍です!! 撤退を……!!」
膝をつき、顔を真っ青にしてデイブが叫ぶ。船内から出てきたヨルムが、レーンに彼の元へ向かうように指示している。
戻って来たニッド、そしてマーン。燃えてる箇所は幸いもうないと言う。
ふと、何かを感じ取ったエドワードが北西を睨む。それは、あの「鳥」が向かって行ったのと同じ方角だった。
「エド」
ヨルムが船長に声をかける。それに応えるようにゆっくりと振り向くエドワード。
彼らの会話は、たった数秒の目配せだった。
引き継いだように、ヨルムが声をあげた。
「レーン、デイブの負傷を早急に癒してください」
「はい……!」
「マーン、操舵手代行を。王国へ向けて取り舵いっぱい。ニッドは最短航行路を割り出して下さい、すぐに」
「はい!」
「イエッサーやで!」
その一方、エドワードは船べりへ駆け出す。
そして手を海面に翳すと、何やら唱え始めた。
「我は海の観測者なり。波よ、潮よ、我が問いかけに答えよ。海上索敵」
その瞬間、彼を中心に黒い光の円が海上に勢いよく展開された。
円の中に走る幾何学模様。その光は、どんどん大きくなっていく。
「こ、これは……!?」
「エドワードの魔法ですよ」
「ヨルムさん……!」
マーンを含め、全員が目を見開いている。邦雄の呟きに答えた副船長は、本人の代わりというように解説してくれた。
「普段から常時発動してますがね。流石に、詳しい編成や特定の相手の様子まで探るには、本格的な発動が必要です」
「……!」
これが、魔法。初めて見るその迫力に、腰を抜かしそうだ。
ふと思い出したのは、喧嘩している同期たちを教官が遠くから引き離した瞬間。あの時は、手をかざした教官が何かを呟いた途端に喧嘩の片方が教官に引き寄せられていった。
確か「西洋魔術」だと、教官はコッソリ教えてくれた気が。
「ですが、」
思い出に浸りそうだった邦雄の意識が、ヨルムの声で引き戻される。
「魔法陣を敷くほどの本気の発動をすれば当然、相手にも気づかれますよ」
副船長の言葉と、索敵を終えた船長がこちらを振り向いたのは同時だった。
「ソルラーマの無敵艦隊だ!! 船が5隻、こちらに接近している。距離は4.5キロ。戦闘可能距離に入るまで20分もないぞ!」
空にはまた、あの大きな「鳥」の影が見え始めていた。
10分もすれば、戦闘準備はほぼ万端だ。
望遠鏡を覗けば相手の船が見える。前回襲撃した船より、小さいだろうか。
「今回も期待してるで〜、ニオー!」
「ニッド……それは無茶じゃてぇ」
大和での戦闘準備とはあまりに違う緩さ。これから戦うことの方が信じられない邦雄の頭上を、再び大きな鳥の影が通過していく。
その影から太陽が顔を覗かせた時、激しい爆発とそれに伴う火の粉が海賊団を突如襲った。
「空爆……!?」
船体が激しく揺れる。転覆はしなさそうだ。となりでは、ニッドが驚いて尻もちをついている。
船べりに捕まりながら、思わず叫んだ邦雄。この世界にも戦闘機が存在していたのだろうか。
(爆発はマストそば、帆が燃えてる!)
船の被害状況を確認する限り、それが一番まずい。
彼がそれを認識したのと、ほぼ同時に駆け出すリヴァイ。
「何事だ!」
そこへ現れたのは、エドワードだ。
「船長! 上空にて爆発あり! マスト炎上! リヴァイ、損害状況の確認に向かってます!」
邦雄は敬礼と共に声を張る。これはもう、海軍として染み付いた動きだ。
その報告に重なるように、ニッドの大声が響く。
「アカン! 洗濯物干そうとしたロープ燃えとる!!」
「ッッ……!!」
指さした先は、左右へ炎が伝う縄。このままでは、船橋と船首から船全体が燃えかねない。
その瞬間、プツリと切断されるロープ。行き場を失った炎は、エドワードの革靴に踏み潰された。
船長の手に握られているのは、愛用の大きな戦斧。
「ニッド! 早急に船全体を見回って他に引火した場所がないか確認して来い! 炎は見つけ次第即消火!」
「い、イエッサー!」
「クニオ、お前は上を警戒してろ!」
「承知しました!」
エドワードから指示が飛ぶ。ニッドはどうにか立ち上がって駆けていった。一方邦雄は、放られた望遠鏡を慌てて受け取る。彼の腰に下げられていたものが、この船で最も性能がいい。
そのまま、エドワードはリヴァイやデイブへも指示を飛ばしている。
それを横目に、邦雄は爆発箇所の辺りへ望遠鏡を向けた。
いまは何もいない。戦闘機の音など、もちろん聞こえない。
一旦望遠鏡を下ろし、肉眼で晴れた空をみあげる。
日の光を遮るように旋回している、大きな鳥……。
(いや、あれもしかして鳥じゃないんじゃ……)
そんな予感が邦雄の頭をよぎる。何せ人魚や魔物がいる世界なのだから、空飛ぶ人間がいたっておかしくはない。
その証拠かのように、「鳥」が飛んでいる位置は、望遠鏡で覗き辛い。
例の影が、別の場所に向かうように通過していく。
青空の中に浮かぶ小さな筒状の影に、邦雄は気づいてしまった。
「第二撃来ます!!!」
反射的に叫ぶ。その瞬間、船橋の上空で起きた大きな爆発。
火の粉の雨が降る! そう思い身構える邦雄だが、その様子は一向にない。それどころか、なにか大きな影が頭上にかかっている。
「貴様っ、なんて無茶を!!」
リヴァイの声が聞こえてくる。そちらを見ると、邦雄は目を疑ってしまった。
デイブの両腕の触手が、マストや船橋、そして邦雄とエドワードがいた甲板を覆っているではないか。
「ッ……」
顔をしかめるデイブ。スルスルと、触手が元の人間の腕に戻っていく。
「船長……、ソルラーマ軍です!! 撤退を……!!」
膝をつき、顔を真っ青にしてデイブが叫ぶ。船内から出てきたヨルムが、レーンに彼の元へ向かうように指示している。
戻って来たニッド、そしてマーン。燃えてる箇所は幸いもうないと言う。
ふと、何かを感じ取ったエドワードが北西を睨む。それは、あの「鳥」が向かって行ったのと同じ方角だった。
「エド」
ヨルムが船長に声をかける。それに応えるようにゆっくりと振り向くエドワード。
彼らの会話は、たった数秒の目配せだった。
引き継いだように、ヨルムが声をあげた。
「レーン、デイブの負傷を早急に癒してください」
「はい……!」
「マーン、操舵手代行を。王国へ向けて取り舵いっぱい。ニッドは最短航行路を割り出して下さい、すぐに」
「はい!」
「イエッサーやで!」
その一方、エドワードは船べりへ駆け出す。
そして手を海面に翳すと、何やら唱え始めた。
「我は海の観測者なり。波よ、潮よ、我が問いかけに答えよ。海上索敵」
その瞬間、彼を中心に黒い光の円が海上に勢いよく展開された。
円の中に走る幾何学模様。その光は、どんどん大きくなっていく。
「こ、これは……!?」
「エドワードの魔法ですよ」
「ヨルムさん……!」
マーンを含め、全員が目を見開いている。邦雄の呟きに答えた副船長は、本人の代わりというように解説してくれた。
「普段から常時発動してますがね。流石に、詳しい編成や特定の相手の様子まで探るには、本格的な発動が必要です」
「……!」
これが、魔法。初めて見るその迫力に、腰を抜かしそうだ。
ふと思い出したのは、喧嘩している同期たちを教官が遠くから引き離した瞬間。あの時は、手をかざした教官が何かを呟いた途端に喧嘩の片方が教官に引き寄せられていった。
確か「西洋魔術」だと、教官はコッソリ教えてくれた気が。
「ですが、」
思い出に浸りそうだった邦雄の意識が、ヨルムの声で引き戻される。
「魔法陣を敷くほどの本気の発動をすれば当然、相手にも気づかれますよ」
副船長の言葉と、索敵を終えた船長がこちらを振り向いたのは同時だった。
「ソルラーマの無敵艦隊だ!! 船が5隻、こちらに接近している。距離は4.5キロ。戦闘可能距離に入るまで20分もないぞ!」
空にはまた、あの大きな「鳥」の影が見え始めていた。



