キミの理想になりたくて

『カップル100組に聞いた恋人の呼び方調査!』

お付き合い経験など皆無で右も左もわからないためふと気になってしまった。

「恋人を苗字で呼ぶのって変なのかな?」

江井君は最初から俺のことを名前で呼んでくれていた。恋人になってくれてからは自然と呼び捨てに変わっていたっけ...?
なんてことないことだけど、一度気になり始めたら頭から離れなくなってしまった。ちなみにさっきの記事によると苗字呼びはかなり珍しいらしい。
江井君本人に聞いたらいいんだろうけどなんだかそれは気恥ずかしい。

こうなったらまずは調査だ!
手始めにクラスのモテ男、蓮くんに。

「蓮君、恋人から苗字で呼ばれるのってどう思う?」

「敦紀がそんなこと聞いてくるなんて珍しいね。俺は折角付き合ってるんだし名前で呼んでほしいなって思うよ」

「やっぱりそうだよね。」

「どうした?江井になんか言われたの?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど…」

ひとしきり俺の悩みを説明してみたところ

「んー、江井みたいなお頭のいい奴が何考えてるかわかんないから難しいけど小さな悩みから大きな揉め事になったりするから本人に聞いてみるのが一番最適解だと思うよ。」

「こんなことで悩んでるなんて女々しくないかな?恋愛素人丸出しで恥ずかしいし」

「そんなこと江井が思うわけないと思うよ。俺仲いいわけじゃないけど敦紀のこと本気なのは伝ってくるし、敦紀と一緒にいて何回睨まれたかわからんもん。あとな、本気で好きな子が自分以外知らないなんてそんな最高なことないよ。」

俺が悩んでいたことを豪快に笑ってしっかりアドバイスをくれた。江井君が睨んでいたっていうのは蓮君の思い過ごしだと思うけど。
江井君がそんなことするわけないし。

やっぱり本人に相談するのが一番なのだろう。頭ではわかっているのだけど、中々行動に移せない。

苦渋の選択として、江井君はあんまりいい顔をしないかもしれないけど、江井君のクラスメイトで幼馴染の優斗くんになにかぽろっとこぼしてなかった聞いてみることにした。

優斗君は江井君と付き合うことになってからすぐに江井君から紹介してもらった。
なんでも俺に会わせろとうるさかったらしい。俺に会ったって楽しくなんてないのに面白い人だと思う。
江井君いわく、顔だけはいいから会わせたくなかったらしい。江井君も十分かっこいいし、顔で人を好きになったりしないからそんな心配しなくていいのに。

「で、どうしたん?江井に怒られちゃわない?俺とふたりで会ってることバレたら」

「そ、相談というか...聞きたいことがあって、」

「うん。なになに?江井の愚痴でも何でも聞くよ!」

「悪口ではないんですけど、江井君のことを恋人なのに苗字呼びしているのはどうなのかなと思って」

「あーね。やっと気づいた?何回それで江井からチクチク言われたことか」

やっと?
チクチク?

「梅宮君さ、俺のこと名前で呼んでくれるから何でお前が先にーってよくチクチク言われるんだよ。まぁあんな怒ってる江井珍しくて面白いから全然いいんだけどね。名前で呼んでやったら喜ぶと思うよあいつ」

「俺のせいで…ごめんね。喜んでくれるかな」

「一応幼馴染で付き合い長い俺が言うんだから大丈夫。絶対喜ぶよ」

蓮君も優斗君も絶対に喜ぶと言ってくれた。

「…透君。呼んでみるね。ありがとう優斗君」

優斗君は頑張れよと背中を押してくれた。
次のデートのときに思い切って呼んでみることに決めた。

「敦紀!ごめんお待たせ待ったよね、ごめんね電車が遅延してて…」

「おはよう。と……と、」

透君頭の中では何回でも呼べるのに言葉が出てこない。

「おはよう江井君。全然待ってないよ大丈夫。早く映画館行こう?」

呼べなかった。
でもまだ時間はある。次のチャンスに必ず…!

「チケットはもう買ってあるんだ。ポップコーンとか買いに行こう」

「え!お金…」

「平気だよ。今日遅刻しちゃったし。ここは出させて?」

こういうかっこいいところがずるいし俺は何も返せない。
きっと江井君のことだ、遅刻しなくても出させてくれなかったに違いない。

「ん。わかった。」

「ありがと。ポップコーン何味が好き?」

「べただけどキャラメルかな…と!と、


「ん?なぁに?敦紀」

「と…」

「ん?」

「江井君!はなにが好き?」

「…俺もキャラメルが好きだよ」

覗き込んでくるのはずるいよ……
映画のあとは江井君のおすすめの喫茶店に行く予定と聞いてる。そこでは絶対に名前で呼ぶぞ。と心に誓った。


「敦紀、怖くなかった?」

「こ、怖くなかったよ。うん。平気。」

「ほんと?上映中震えてるように見えたけど気のせいだったかな」

クスクスと笑いながら聞いてくる江井君。
ずるい。俺がほんとはとっても怖くて、上映中ちょっと泣いてたことにも気づいてるのにこんな質問。
なんでもお見通しな江井君。

映画終了後、お昼を軽く済ませてからウィンドウショッピングをした。
これ似合いそう、好きそうなんて言い合いながらのウィンドウショッピングはとっても楽しかった。

その後、江井君の案内で江井君おすすめの喫茶店に連れてきてもらった。

「敦紀は何注文する?」

「んー俺は、メロンクリームソーダと、パンケーキ食べたいけど食べきれるかな…」

「じゃあ半分こしよっか。」

「いいの!?」

「もちろん。じゃあ注文しちゃうね」

要望を聞いてくれ、スマートに店員さんを呼び注文してくれた。
ここからが俺の勝負だ。
もう時間が残り少ない。
折角蓮君と優斗君にアドバイスをもらい背中を押してもらったのだからこのミッションを絶対に遂行したいのだが…

昨日の夜お風呂で何度も練習したし今日も頭の中で何度も呼んでるのに口に出そうとするとのどに突っかかるように言葉が出てこない。
江井君みたいに、透君みたいにスマートに呼びたいのになんだか気恥ずかしくて…

クリームソーダとパンケーキはとっても美味しかったし、コースが違う分会える時間は限られてしまうのでその上合わせのようにお互い会話が尽きることはなくとても有意義な時間を過ごした。名前で呼ぶぞなんてことを忘れて。

そう、有意義な時間を過ごし過ぎてしまった。
つい江井君と話すのが楽しくて、すかっり頭から抜け落ちてしまっていた。
日も傾いてきて

「敦紀、そろそろ帰ろうか」

「あ、うん」

「敦紀、寂しいから家まで送ってもいい?」

いつも最寄り駅までなのに家まで送ってくれるということでまだもう少し一緒にいれる…!

「やったありがと。嬉しい。」

家までもチャンスを伺いながらも楽しく過ごした。
このままずっと家につかなければいいのになんて思いながら。



「敦紀、じゃあまた明日学校でね?」

「うん。」

「…敦紀、ごめん待ってたんだけどもう待てないな。いつ透って呼んでくれるの?」

え…今なんて

「ごめんねずっと気づいてたし頑張って呼ぼうとしてくれるのが嬉しくて見守ってたんだけど、もう我慢の限界。ほら、早く呼んで?」

「と、と、とおる、くん」

「うん。かわいい。ありがと」

「い、いつから…気づいてたの…?」

「朝から気づいてたよ。敦紀の考えてること、俺がわからないわけないでしょ。ねぇ敦紀、も一回呼んで?」

「やだ。…何笑ってんの!」

「ごめんごめんかわいくて」

そう言って真っ赤になった俺の額に透君の唇がそっと落とされた。

「敦紀、これ以上はかわいすぎて俺の家に連れ帰りたくなるからもう帰るね。また明日、学校でね」

そう言って透君は帰っていった。
初めて好きな人を名前で呼んで
初めて好きな人からキスをされて、

「熱出そう……」

ポケットの中のスマホが鳴る。

『今日はありがとう。楽しかったよ。次は透って呼んでね』

「無理だよ……」