障子の隙間から差し込む柔らかな朝日に、ゆっくりと目を覚ます。
時刻は六時。
透君は隣でぐっすりと眠っている。
いつもならこのままもう一度透君の温もりに包まれて二度寝するところだが、せっかくの旅館。勿体ないなという気持ちから昨日は使わなかった大浴場に行ってみることにした。
透君を起こさないように腕の中から抜け出し、タオルや着替えをまとめてカバンに突っ込み、スペアキーとスマホを手に部屋を出る。
朝の静かな廊下を歩き、大浴場の暖簾をくぐる。
大浴場には人の姿はなかった。
大浴場を独り占めだなんて思っていたら、見覚えのある後ろ姿が見えた。
「……陽向葵?」
「え、敦紀?」
どうやら、陽向葵も朝早く目覚めたらしく同じように昨日使わなかった大浴場を堪能しようと朝風呂に来たらしい。
「こんな早くに珍しいね」
「陽向葵こそ、朝苦手なんじゃないの?」
そんなことを言いながら二人、顔を見合わせて笑った。
二人で大浴場の奥にある露天風呂に出る。朝の冷たい空気が頬を撫でる。
露天風呂の縁に腰掛ける。
「麗君はまだ寝てるの?」
「うん。麗、朝弱くてさ。透君も?」
「透君は、朝弱いわけじゃないけどまだ寝てたから起こさなくてもいいかなって」
「そっか」と二人で笑い合う。
「敦紀、麗とだいぶ仲良くなってたね。」
「うん、ちょこちょこ似てるところがあってさ意気投合しちゃった。」
「ふぅん...」
俺は陽向葵の顔を見て笑ってしまった。
「そんな顔しなくても、麗君に対してそんな気持ちにはならないよ。」
「わかってるけどさ...麗は綺麗だから。心配になっちゃうだけ。」
「陽向葵こそ、透君と意気投合してたじゃん」
陽向葵は俺にそんなこと言われると思ってなかったのかびっくりした顔をしていた。
「俺は麗しか見えてないよ!」
「わかってるよ、見てればわかるよ」
俺はクスクスと笑う。
「でもさ、透君相当敦紀のこと好きだね。変に敵対視してた俺が馬鹿みたいだよ...」
「そうかな…?」
「そうだよ。昨日だってずっと敦紀のこと見てたし、食べ歩きのときも、ビュッフェのときも、これ敦紀好きそうってずっと言って選んでたし。」
そんなに俺のことを思ってくれていたエピソードを聞いてカァっと顔が熱くなる。
「……敦紀が幸せそうでよかったよ。安心した。透君にちゃんと謝罪もできてよかった。ありがとう一緒に旅行来てくれて。」
「俺も、陽向葵が幸せそうで安心した。こちらこそ、誘ってくれてありがとう。」
大学で新しい友達をつくれるか不安だった俺だが、四月の俺に伝えたい。
「こんなに大事な友達ができるよ。」と。
その後も、麗君の好きなところ、麗君のかわいいところをたくさん聞かされた。そして、根掘り葉掘り透君のことも聞かれてたくさん話してしまった。
口下手な俺に気を使って陽向葵からたくさん聞いてくれた優しさに心の中で感謝した。
長話をしてしまったが、時間もちょうどよかったためまた朝食会場で、と解散した。
部屋へ戻ると俺の物音で透君の目が覚めたようだった。
「………どこ行ってたの?」
「起こしちゃってごめんね。大浴場行ってたの。たまたま陽向葵がいたよ。」
「…………陽向葵君が?」
「うん。たまたまね。」
「ふぅん……」
寝起きでまだ頭が回ってないのか舌っ足らずで、でも嫉妬してくれているようだった。
「そんなに心配しなくても、透君と麗君の話しかしてないよ。一緒に旅行来てくれてありがとうだってさ」
「そっか、俺も感謝しなきゃ...」
「透君、敦紀のこと大好きだね~だってさ」
「陽向葵君何話したの!?」
一気に寝起きから覚醒したようだった。
透君はブツブツと文句を言いながら顔を真っ赤にして準備をはじめた。
俺はそんな透君を愛おしく思いながらその様子を眺めていた。
朝食もビュッフェ形式となっていた。
焼き魚やだし巻き玉子、納豆などの和食がずらりと並んでいた。パンやサラダ、フルーツといった洋食も用意されている。
朝食会場前で陽向葵、麗君と合流した。
麗君は寝起きのようで、髪にはほんの少しだけ寝癖が残っていた。
さっき陽向葵が言っていた「麗、朝弱くてさ」はほんとうだったんだなとクスリと笑う。
昨夜と同様、透君と一緒に食べたいものを選んでいく。
俺のお皿には焼き魚とだし巻き玉子。
隣の透君のお皿には煮物や温泉卵、小鉢など綺麗に並んでいた。
「敦紀、これ食べる?」
「うーん、食べたいけど全部食べられないかも...」
「無理だったら俺食べるから取っておいたら?」
「…いいの?」
「うん。俺朝たくさん食べたいから。知ってるでしょ?」
確かに、透君は家でも大盛りのご飯を片手におかずを食べていた。
元々食が細いが、朝はあまり食べられない俺は食べたいなと思うものがあったが食べ切れる自信がなくお皿に盛ることが出来なかったものがあって悔しい気持ちになっていた。
そんな透君の気遣いに朝から心が高鳴る。
「麗、味噌汁。熱いから気をつけて。なんか胃に入れときな?電車酔いするよ」
「………うん。」
陽向葵はまだぼーっとしている麗君を甲斐甲斐しく世話を焼いていた。
なんだか世話を焼くのが楽しそうに。麗君が愛おしくて堪らないというような表情をしていた。
朝食を済ませ、荷物をまとめてチェックアウトする。
俺たちは箱根神社に向かう。
四人でバスに乗りこみ、昨日とは違う景色を窓から眺める。
箱根神社に到着し、境内を歩きながら参拝をする。
お賽銭箱にお金を投げ入れ、透君はもちろん陽向葵と麗君ともずっと仲良くいられますように。そう願った。
「敦紀、随分長かったね。何をお願いしてたの?」
「んー...内緒!」
「えー、気になるよ」
口にしたら叶わない。そんな話を思い出した。
みんなのお願いも気になるけど聞かないことにした。
その後は、芦ノ湖へと向かう。
ゆっくりと歩きながら、景色を眺め四人で写真を撮った。
この写真は俺の一生の宝物となるだろう。
「せっかくだし、ロープウェイ乗りたいな」
陽向葵の提案からバスに乗り、桃源台へと向かった。
桃源台からロープウェイに乗り込み、ゴンドラがゆっくりと空へと上がっていく。
ゴンドラは四方を囲む大きな窓から景色が一望できた。
あまりの高さに少し怖くなり、透君の腕に力を入れて掴まってしまった。
「すご……」
俺以外の三人は高いところが平気なようで感動していた。
大涌谷は白い煙と景色に四人で足を止め絶景を楽しんだ。
「黒たまご食べようよ」
珍しい麗君の提案に全員が賛成した。
「これね、食べると寿命が七年伸びるみたい。みんなと長生きしたいよね。」
「なにそれかわいい……!」
陽向葵は麗君の発言に悶絶していた。
俺も透君とできるだけ長生きしたいな。なんて思いながら黒たまごを頬張った。
俺たちはお土産を買うべく一度お土産ショップで別れた。
「これ、お父さんとお母さん気にいるかな...?」
「俺たちが選んだものならなんでも喜ぶよ。」
「真剣に考えてよ…!」
そんなやり取りをしながらも何個か選び、レジへと並んだ。
たっぷりと箱根旅行を満喫したところで俺たちは帰路についた。
バスで駅まで向かい、電車に乗りこむ。
早起きか、いつもよりたくさん歩いた影響か、電車の程よい揺れにウトウトしてしまった。
「敦紀、眠い?」
「ううん、平気...」
「こっち寄っていいよ。」
「うん………」
透君の優しさに甘えることにして、肩を借りた。
「何……?」
「なんでもー?仲良いなって思って」
「敦紀のこと見ないで...」
そんな透君と陽向葵の口論する声が聞こえてきたが眠気が限界で夢の中へと意識は落ちていった。
「敦紀、敦紀、」と透君に起こされ乗り換えのために電車を降りた。ぼんやりとした意識のまま、新幹線へと乗り換えた。
麗君が「敦紀君の隣座ってもいい?」と透君に話していたらしく、帰りの新幹線では麗君の隣に座ることになった。
「あのさ、敦紀君もしよかったらなんだけどLINE交換しない?」
俺も帰り際もしくは陽向葵経由で交換できたらなと思っていたから正直に嬉しかった。
「もちろん!俺からもお願いしようと思ってたんだ」
「やった、よかった...断られたらどうしようかと思って...」
帰りは好きな音楽や映画、漫画にアニメなど色々な話で盛り上がった。
あっという間に東京についてしまい、このまま陽向葵と麗君は陽向葵の家に帰るらしく駅で別れた。
帰りはお父さん、お母さんが車で駅まで迎えに来てくれありがたく車に乗りこみ帰宅した。
家に着いてから、お母さんの作ってくれたご馳走を堪能しもちろん旅館のご飯も美味しかったがやっぱりお母さんのご飯が一番美味しい。それをお母さんに伝えるととても喜んでくれた。
お父さんとお母さんにお土産で買った箱根ラスクと温泉まんじゅう、そして黒たまごを渡した。
「あら、これって...」
「それね、敦紀が二人に長生きして欲しいって選んだんだよ」
「ちょっと……!」
お母さんの目元がきらりと光る。
「あの、嫌いでした...?」
「違うの。敦紀君の気持ちが嬉しくて。ね、あなた」
「ああ、そうだな。ありがとう。透、敦紀。今度は四人で旅行に行こうな。」
俺の選んだお土産で涙を流してくれるなんて思いもしなくてなんだか心が温まった。
透君たちは俺の知らないはじめてをたくさんくれる。
リビングでお母さんの入れてくれた紅茶をいただきながら、思い出話に花を咲かせる。食べたもの、観光したところ、旅館の温泉などなど。二人はうんうんと聞いてくれそれがとても嬉しかった。まだまだたくさん話したかったけれど眠気には耐えきれず欠伸が零れた。
「また明日たくさん聞かせてちょうだい」
お母さんの一言で今日は楽しかった旅行の余韻を残したまま、おやすみの挨拶をすませた。
「おやすみ、敦紀」
「うん。おやすみ」
布団に潜り込み、目を閉じる。
二日間の、無邪気にはしゃぐ透君の笑顔がふと浮かぶ。
今度はお父さんとお母さんと。楽しみな約束を胸に、もう一度二日間の出来事を思い返してからゆっくりと眠りについた。
時刻は六時。
透君は隣でぐっすりと眠っている。
いつもならこのままもう一度透君の温もりに包まれて二度寝するところだが、せっかくの旅館。勿体ないなという気持ちから昨日は使わなかった大浴場に行ってみることにした。
透君を起こさないように腕の中から抜け出し、タオルや着替えをまとめてカバンに突っ込み、スペアキーとスマホを手に部屋を出る。
朝の静かな廊下を歩き、大浴場の暖簾をくぐる。
大浴場には人の姿はなかった。
大浴場を独り占めだなんて思っていたら、見覚えのある後ろ姿が見えた。
「……陽向葵?」
「え、敦紀?」
どうやら、陽向葵も朝早く目覚めたらしく同じように昨日使わなかった大浴場を堪能しようと朝風呂に来たらしい。
「こんな早くに珍しいね」
「陽向葵こそ、朝苦手なんじゃないの?」
そんなことを言いながら二人、顔を見合わせて笑った。
二人で大浴場の奥にある露天風呂に出る。朝の冷たい空気が頬を撫でる。
露天風呂の縁に腰掛ける。
「麗君はまだ寝てるの?」
「うん。麗、朝弱くてさ。透君も?」
「透君は、朝弱いわけじゃないけどまだ寝てたから起こさなくてもいいかなって」
「そっか」と二人で笑い合う。
「敦紀、麗とだいぶ仲良くなってたね。」
「うん、ちょこちょこ似てるところがあってさ意気投合しちゃった。」
「ふぅん...」
俺は陽向葵の顔を見て笑ってしまった。
「そんな顔しなくても、麗君に対してそんな気持ちにはならないよ。」
「わかってるけどさ...麗は綺麗だから。心配になっちゃうだけ。」
「陽向葵こそ、透君と意気投合してたじゃん」
陽向葵は俺にそんなこと言われると思ってなかったのかびっくりした顔をしていた。
「俺は麗しか見えてないよ!」
「わかってるよ、見てればわかるよ」
俺はクスクスと笑う。
「でもさ、透君相当敦紀のこと好きだね。変に敵対視してた俺が馬鹿みたいだよ...」
「そうかな…?」
「そうだよ。昨日だってずっと敦紀のこと見てたし、食べ歩きのときも、ビュッフェのときも、これ敦紀好きそうってずっと言って選んでたし。」
そんなに俺のことを思ってくれていたエピソードを聞いてカァっと顔が熱くなる。
「……敦紀が幸せそうでよかったよ。安心した。透君にちゃんと謝罪もできてよかった。ありがとう一緒に旅行来てくれて。」
「俺も、陽向葵が幸せそうで安心した。こちらこそ、誘ってくれてありがとう。」
大学で新しい友達をつくれるか不安だった俺だが、四月の俺に伝えたい。
「こんなに大事な友達ができるよ。」と。
その後も、麗君の好きなところ、麗君のかわいいところをたくさん聞かされた。そして、根掘り葉掘り透君のことも聞かれてたくさん話してしまった。
口下手な俺に気を使って陽向葵からたくさん聞いてくれた優しさに心の中で感謝した。
長話をしてしまったが、時間もちょうどよかったためまた朝食会場で、と解散した。
部屋へ戻ると俺の物音で透君の目が覚めたようだった。
「………どこ行ってたの?」
「起こしちゃってごめんね。大浴場行ってたの。たまたま陽向葵がいたよ。」
「…………陽向葵君が?」
「うん。たまたまね。」
「ふぅん……」
寝起きでまだ頭が回ってないのか舌っ足らずで、でも嫉妬してくれているようだった。
「そんなに心配しなくても、透君と麗君の話しかしてないよ。一緒に旅行来てくれてありがとうだってさ」
「そっか、俺も感謝しなきゃ...」
「透君、敦紀のこと大好きだね~だってさ」
「陽向葵君何話したの!?」
一気に寝起きから覚醒したようだった。
透君はブツブツと文句を言いながら顔を真っ赤にして準備をはじめた。
俺はそんな透君を愛おしく思いながらその様子を眺めていた。
朝食もビュッフェ形式となっていた。
焼き魚やだし巻き玉子、納豆などの和食がずらりと並んでいた。パンやサラダ、フルーツといった洋食も用意されている。
朝食会場前で陽向葵、麗君と合流した。
麗君は寝起きのようで、髪にはほんの少しだけ寝癖が残っていた。
さっき陽向葵が言っていた「麗、朝弱くてさ」はほんとうだったんだなとクスリと笑う。
昨夜と同様、透君と一緒に食べたいものを選んでいく。
俺のお皿には焼き魚とだし巻き玉子。
隣の透君のお皿には煮物や温泉卵、小鉢など綺麗に並んでいた。
「敦紀、これ食べる?」
「うーん、食べたいけど全部食べられないかも...」
「無理だったら俺食べるから取っておいたら?」
「…いいの?」
「うん。俺朝たくさん食べたいから。知ってるでしょ?」
確かに、透君は家でも大盛りのご飯を片手におかずを食べていた。
元々食が細いが、朝はあまり食べられない俺は食べたいなと思うものがあったが食べ切れる自信がなくお皿に盛ることが出来なかったものがあって悔しい気持ちになっていた。
そんな透君の気遣いに朝から心が高鳴る。
「麗、味噌汁。熱いから気をつけて。なんか胃に入れときな?電車酔いするよ」
「………うん。」
陽向葵はまだぼーっとしている麗君を甲斐甲斐しく世話を焼いていた。
なんだか世話を焼くのが楽しそうに。麗君が愛おしくて堪らないというような表情をしていた。
朝食を済ませ、荷物をまとめてチェックアウトする。
俺たちは箱根神社に向かう。
四人でバスに乗りこみ、昨日とは違う景色を窓から眺める。
箱根神社に到着し、境内を歩きながら参拝をする。
お賽銭箱にお金を投げ入れ、透君はもちろん陽向葵と麗君ともずっと仲良くいられますように。そう願った。
「敦紀、随分長かったね。何をお願いしてたの?」
「んー...内緒!」
「えー、気になるよ」
口にしたら叶わない。そんな話を思い出した。
みんなのお願いも気になるけど聞かないことにした。
その後は、芦ノ湖へと向かう。
ゆっくりと歩きながら、景色を眺め四人で写真を撮った。
この写真は俺の一生の宝物となるだろう。
「せっかくだし、ロープウェイ乗りたいな」
陽向葵の提案からバスに乗り、桃源台へと向かった。
桃源台からロープウェイに乗り込み、ゴンドラがゆっくりと空へと上がっていく。
ゴンドラは四方を囲む大きな窓から景色が一望できた。
あまりの高さに少し怖くなり、透君の腕に力を入れて掴まってしまった。
「すご……」
俺以外の三人は高いところが平気なようで感動していた。
大涌谷は白い煙と景色に四人で足を止め絶景を楽しんだ。
「黒たまご食べようよ」
珍しい麗君の提案に全員が賛成した。
「これね、食べると寿命が七年伸びるみたい。みんなと長生きしたいよね。」
「なにそれかわいい……!」
陽向葵は麗君の発言に悶絶していた。
俺も透君とできるだけ長生きしたいな。なんて思いながら黒たまごを頬張った。
俺たちはお土産を買うべく一度お土産ショップで別れた。
「これ、お父さんとお母さん気にいるかな...?」
「俺たちが選んだものならなんでも喜ぶよ。」
「真剣に考えてよ…!」
そんなやり取りをしながらも何個か選び、レジへと並んだ。
たっぷりと箱根旅行を満喫したところで俺たちは帰路についた。
バスで駅まで向かい、電車に乗りこむ。
早起きか、いつもよりたくさん歩いた影響か、電車の程よい揺れにウトウトしてしまった。
「敦紀、眠い?」
「ううん、平気...」
「こっち寄っていいよ。」
「うん………」
透君の優しさに甘えることにして、肩を借りた。
「何……?」
「なんでもー?仲良いなって思って」
「敦紀のこと見ないで...」
そんな透君と陽向葵の口論する声が聞こえてきたが眠気が限界で夢の中へと意識は落ちていった。
「敦紀、敦紀、」と透君に起こされ乗り換えのために電車を降りた。ぼんやりとした意識のまま、新幹線へと乗り換えた。
麗君が「敦紀君の隣座ってもいい?」と透君に話していたらしく、帰りの新幹線では麗君の隣に座ることになった。
「あのさ、敦紀君もしよかったらなんだけどLINE交換しない?」
俺も帰り際もしくは陽向葵経由で交換できたらなと思っていたから正直に嬉しかった。
「もちろん!俺からもお願いしようと思ってたんだ」
「やった、よかった...断られたらどうしようかと思って...」
帰りは好きな音楽や映画、漫画にアニメなど色々な話で盛り上がった。
あっという間に東京についてしまい、このまま陽向葵と麗君は陽向葵の家に帰るらしく駅で別れた。
帰りはお父さん、お母さんが車で駅まで迎えに来てくれありがたく車に乗りこみ帰宅した。
家に着いてから、お母さんの作ってくれたご馳走を堪能しもちろん旅館のご飯も美味しかったがやっぱりお母さんのご飯が一番美味しい。それをお母さんに伝えるととても喜んでくれた。
お父さんとお母さんにお土産で買った箱根ラスクと温泉まんじゅう、そして黒たまごを渡した。
「あら、これって...」
「それね、敦紀が二人に長生きして欲しいって選んだんだよ」
「ちょっと……!」
お母さんの目元がきらりと光る。
「あの、嫌いでした...?」
「違うの。敦紀君の気持ちが嬉しくて。ね、あなた」
「ああ、そうだな。ありがとう。透、敦紀。今度は四人で旅行に行こうな。」
俺の選んだお土産で涙を流してくれるなんて思いもしなくてなんだか心が温まった。
透君たちは俺の知らないはじめてをたくさんくれる。
リビングでお母さんの入れてくれた紅茶をいただきながら、思い出話に花を咲かせる。食べたもの、観光したところ、旅館の温泉などなど。二人はうんうんと聞いてくれそれがとても嬉しかった。まだまだたくさん話したかったけれど眠気には耐えきれず欠伸が零れた。
「また明日たくさん聞かせてちょうだい」
お母さんの一言で今日は楽しかった旅行の余韻を残したまま、おやすみの挨拶をすませた。
「おやすみ、敦紀」
「うん。おやすみ」
布団に潜り込み、目を閉じる。
二日間の、無邪気にはしゃぐ透君の笑顔がふと浮かぶ。
今度はお父さんとお母さんと。楽しみな約束を胸に、もう一度二日間の出来事を思い返してからゆっくりと眠りについた。
