キミの理想になりたくて

敦紀君のお家にも慣れた頃。

俺は久しぶりに陽向葵に会う約束をしていた。
一連の流れを知っている陽向葵は俺を心配してこまめに連絡をくれていた。

一通り解決したことを伝えるため、夕食を一緒に取る約束をして、ファミレスで待ち合わせた。

合流し、案内された席へ腰を下ろし

「あいつ思ってたよりいいやつだね」

と陽向葵は開口一番そう言った。

そして

「もしクズ野郎だったら家まで乗り込むところだったよ」

「まあまだ俺は疑ってるけど…」と笑って見せた。

透君はそんな人じゃないよとフォローしながら、自分のために怒ってくれる友達ができたことを素直に喜んでしまった。

そこからは久しぶりということもあり、話に花を咲かせた。

透君のこと、透君のご両親のこと、暗い話になってしまうが俺の家族のこと、そして陽向葵の恋人のこと、など…

時間を忘れて笑いあった。

そしてお互いの恋人の惚気話を話した後、話は夏休みに計画している旅行の話へと移り変わった。

「敦紀は透君とどこに行くか決めたの?」

「まだ何も決まってないよ。俺のせいでバタバタしちゃったのもあるし…まだ間に合うのかな…」

俺は密かに楽しみにしていた。が、もし透君がこの約束を忘れてしまっていたらと思うと中々話を切り出せなかった。

「もしよければなんだけどさ、旅行一緒に行かない?」

俺は目を点にした。

陽向葵は続ける。

「実は彼氏が知り合いからペアチケットを二枚もらってきてさ。でも仲良しの同性カップルなんていなかったし、敦紀しか思い浮かばなくてさ…嫌だったら無理にとは言わないよ!透君が嫌がるかもしれないし…」

詳しく話を聞くと、陽向葵の恋人が、友人から旅館のペアチケットを譲ってもらったらしい。もともとは友人が恋人と使う予定だったらしいが、別れてしまい、使い道がなくなったのだという。


「……いいの?俺は行きたいけど、陽向葵の彼氏は嫌じゃないの?折角なら二人きりがいいだろうし…」

陽向葵は小さな口を豪快に開けて笑う。

「いいのいいの!むしろいつもお世話になってますって挨拶したいって言ってたよ」

とのことらしい。

大好きな恋人と大好きな友達と一緒に旅行に行けるなんてこんな機会二度とないかもしれない。

「透君に聞いてみてからになるけど、是非行きたい!」

今日家に帰ったら透君に伝えてみると返事をし違う話題に移り変った。


その後食後のデザートまでぺろりと平らげ、俺たちはそれぞれ電車に揺られ家へと帰宅した。

陽向葵からは『旅行の件、透君に聞いておいてね!』と念押しの連絡が入っていた。

俺はお気に入りのゆるキャラがグッドとしているスタンプを返した。

玄関を開けると透君が出迎えてくれた。まだ言い慣れない「ただいま」という言葉を口にし、お父さん、お母さん、透君が「おかえり」と言ってくれる。

「お風呂湧いてるわよ」とお母さんが声をかけてくれる。ありがたくお風呂をいただき、「おやすみ」と挨拶を交わし透君と二人で部屋へと移動する。

寝る前に透君に旅行の話を切り出す。

「透君、今日ね……」

と、陽向葵の話をする。

透君はうんうんと話を聞いてくれ、少し考え込んだあと

「陽向葵君にも会ってみたいし迷惑じゃなければご一緒させてもらおっか」

と答えてくれた。

嬉しさを隠しきれず、自然と頬を緩めた。

「我儘聞いてくれてありがとう!早速陽向葵に連絡するね!」

そう返した俺に透君は、

「でも、陽向葵君と陽向葵君の恋人さんと仲良くしすぎると俺が焼きもち妬いちゃうこと忘れないでね!あと、もっと我儘言ってくれていいんだからね!」

と頬を膨らめながら言ってくれた。

胸の内がじんわりと温まる。

『透君が迷惑じゃなければご一緒させてもらいたい。って!』

と陽向葵へ連絡したところ、すぐに返事がきた。

『嬉しい!今彼氏にも伝えた!』

『彼氏も楽しみだって!』


とのこと。
聞き忘れていた行き先を聞いたところ箱根らしい。

俺も透君も行ったことがない観光地に今からその日が待ち遠しい。

その後も話はとんとん拍子に進んだ。

お盆期間を避け、比較的に空いていそうな日を選んだ。

それまで、各々アルバイトに明け暮れ、課題を進めるなどして旅行を思い浮かべて、胸を弾ませた。


そして旅行の日はあっという間に訪れた。

前日の夜から二人で旅行の準備を進め、あーだこーだ言いながら荷物を透君のスーツケースに詰めていった。

いつもより早くベッドに入り、明日のことを考えていたらあっという間に夢の中へと落ちていった。


アラームによって目を覚まし、いつも通りお母さんの朝食を囲みお父さんとお母さんに見送ってもらい待ち合わせの駅へと向かった。

「敦紀ー!」

と俺を呼ぶ声がし、振り向くとこちらに手を振っている陽向葵を発見した。

「陽向葵!」

と陽向葵の方へと駆け寄る。

陽向葵の隣にはスラッとした誰が見ても整った顔立ちの男性が立っていた。そして陽向葵が紹介してくれる。

「俺の彼氏の麗君です。」

恋人の前だからいつもよりどこかあどけない雰囲気の陽向葵に微笑ましい気持ちになる。

「麗です。敦紀君、いつも陽向葵がお世話になってます。よろしくね」

そう微笑む麗君。
その笑顔で何人もの人を落としてきたのだろう。

「梅宮敦紀です。こちらこそお世話になってます。よ、よろしくお願いします…」

相変わらず初対面の人との会話は苦手でどうしても、どもってしまう。
そんな俺を見かねて透君が口を開く。

「江井透です。いつも俺の敦紀がお世話になってます。陽向葵君はこの前ぶりだね。お騒がせしてごめんね。今回は誘ってくれてありがとう」

「敦紀と旅行したかったし、まだ俺は信用したわけじゃないからね…!」

変わらず何故か透君に敵意丸出しの陽向葵とそんな陽向葵を小突いてたしなめる。

新幹線の時間が迫っていたため、ホームへと移動する。

「敦紀!隣座ろ!」

「麗君の隣じゃなくていいの...?」

「いいのいいの!」

透君と麗君は何か言いたげな顔をしながらも俺たちの後ろの2人がけの席へと腰を下ろしていた。
後ろの席をチラリと覗くと共通の話題があったらしく盛り上がっている様子だった。

陽向葵とはお菓子を食べながら行きたい観光地の話をしていたらあっという間に時間は過ぎていった。

新幹線から電車へと乗り換え、俺たちは箱根に到着した。

早速俺たちはホテルへ向かい荷物を預けた。
チェックインの時間まで時間があり、食べ歩きをするべく商店街へと向かった。

和スイーツを中心に、温泉まんじゅうや抹茶系のスイーツを次々と買っていく。

甘い物に目がない透君と陽向葵。
意気投合したらしく、

「やっぱりそれも美味しそうだね」

「一口いる?そっちもちょうだい」

とまだ空気はツンツンしているものの、少しずつ距離を縮めているようだった。

大好きな恋人と大好きな友人が仲良くなることは嬉しいはずなのに、チクリと胸が痛んだ。

二人とも事前にしっかりと調べ込んでいたらしく、行きたいお店はすでにいくつも決まっていた。

二人の後を麗君と一緒に着いて行く。
麗君も複雑そうな顔をしていた。顔を見合わせて小さく息を吐いて苦笑した。

「陽向葵がごめんね、あいつ甘いもの大好きでさ...しかも久しぶりの遠出でテンション上がってるみたいで…連れ出してあげられない俺が悪いんだけどね...」

と、自分を責めるような笑みを浮かべた。

「いやいや、透君もスイーツ好きで、でも俺あんまりたくさんは食べられないから今日はテンション上がってて嬉しいよ!元々透君には無理言ってきてもらってるし……」


またお互いに自分を責めていることに気づき、顔を見合わせて苦笑した。

「俺たちちょっと似てるかもね」

と麗君が笑う。

「そうかもね」

と俺も笑う。

それから俺は麗君のバンドの話を聞かせてもらった。
麗君もかなり苦労してきたらしく、共感できる部分が多かった。

「俺たち似たもの同士、いい友達になれるかもね」

と、麗君が言ってくれ素直に嬉しかった。

透君と陽向葵の行きたいお店を回りきったらしく、時間もぼちぼちいい時間だったためホテルへ向かう。

チェックインを済ませ、そこで俺はとあることに気づいた。

「え、部屋別なの?」

「そうだよ?あれ言ってなかったけ?」

陽向葵は涼しい顔で答える。

「じゃ、また夕食の時間に!」

そう言い残して部屋へと消えていく陽向葵と麗君。

「俺たちも行こっか」

「うん…」

透君がカードキーを、扉にかざし部屋を開ける。

「お部屋に露天風呂付いてるんだ!」

「一緒に入ろうね」

透君の発言に顔を真っ赤にしてしまった。

俺は旅行前に言われた「もっと我儘言っていいんだよ」この言葉がずっと頭をぐるぐるしていた。

「あのさ、透君...」

「うん?」

そう首を傾げる。

「あのさ、陽向葵とすごい仲良くなってたね...」

「………え!焼きもち…?ごめんね敦紀の話出来るのが嬉しくてついいっぱい喋っちゃったかも...」

「...俺の話?」

「うん。どれだけ敦紀のことが好きか聞いてもらったの。その分麗君の話も聞かされたけど」

「……スイーツで盛り上がってたのかと思った。」

「最初はスイーツの好みが一緒で意気投合したけど最後はもう敦紀の話と麗君の話しかしてなかったよ...!ごめんね勘違いさせるようなことして...!」

透君はそう何度も謝りながら、申し訳なさそうに眉を下げた。

その後、どれだけ俺のことが好きかを熱弁し始めたため全力で止めるはめになった。



「……これどうやって着るの?俺、着たことない...」

俺たちは浴衣に着替えることにした。

家族旅行の経験がない俺はもちろん、旅館に泊まったこともないためこういう所で浴衣を着たことがない。

「こっちきて?」

手馴れた手つきで浴衣を広げ、俺の肩にそっと羽織らせた。

「腕通せる?」

「うん」

言われた通り、袖に腕を通す。
襟元を整え、前を重ね、腰に帯を回す。

「キツくない?」

「…う、うん」

「どうしたの?」

わかっているくせに透君はクスクスと笑う。

「ち、近いよ……」

「浴衣着せてあげてるだけだよ」

なんてことない。そんな表情。

最後に帯をきゅっと結び、乱れた襟を整える。

「はい、完成。」

「あ、ありがと……」

その後、俺にしてくれたのと同じように着替えはじめた透君をぼんやりと見つめる。
いつもの透君なのに、まるでいつもの透君じゃないようなそんな印象。

「どうしたの?ぼんやりして」

「浴衣、着なれてるの?」

「んー……、父方の祖父たちに連れられてよく温泉旅行してたからかな...?」

透君のおじいさんの話は聞いたことがなく、興味をそそられつい聞いてしまう。

「父方の実家が温泉好きでね、旅行するときは大体温泉旅行だったかも。今度じいちゃん達にも紹介するからね?」


自分とは縁のない人だと思って話を聞いていた俺に衝撃的な台詞が聞こえてきた。

「お、おじいさんたちに挨拶とか...そんなの……」

透君はクスクスと楽しそうに笑う。

「じいちゃん達は男同士だとかそんなの気にする人じゃないし、仮にもしダメなんて言われるようだったら俺は絶縁する覚悟もできてるよ」

そんな恐ろしい台詞を口にする透君に気圧されてしまう。

「……なんてね、冗談冗談。でも俺はそういう心づもりだよ」

笑って見せる透君だったが、俺には冗談を言っているようには思えなかった。それ以上の追求もしなかった。


浴衣を着て、館内を少し散歩しながら見て回っていたらあっという間に夕食の時間となった。
陽向葵と麗君と夕食会場前で合流した。

「浴衣似合ってるね…!」

コソッと麗君に伝えたつもりが、陽向葵に聞こえていたようでギロッと睨まれたのでつい笑ってしまった。

麗君はぎこちなく笑って、「敦紀君も似合ってるよ」と返してくれた。

夕食はビュッフェ形式となっていた。

色とりどりの料理が並んでいた。
小田原名物のかまぼこや新鮮な刺身や海鮮丼、季節の天ぷらに、箱根山麓豚を使った料理。
デザートに抹茶のスイーツからプリン、わらび餅なども並んでいた。
箱根らしい料理から唐揚げやフライドポテトなど定番メニューも充実していた。思っていた以上の種類の多さにどれから取ろうか目移りしてしまう。

スタッフさんに席まで案内してもらい、各々好きなものを取るべく移動を始めた。

優柔不断でどれを取ったらいいかわからなくなってしまいそうだったため、俺は透君と行動することにした。
陽向葵と麗君は別々に行動するらしい。

「敦紀、何系が食べたい?」

「とりあえず透君についていくよ」

透君の後ろをついていきながら、唐揚げを二つ、だし巻き玉子、お刺身、サラダにご飯そして山菜の味噌汁を選んだ。

「敦紀、めちゃくちゃ普通だね」

透君が馬鹿にするように俺のお皿に視線を向けた。

「うるさいなぁ、こういうのが好きなの!」

透君のお皿へ視線を向けると刺身や季節の天ぷら、焼き魚、小田原のかまぼこが綺麗に盛り付けられていた。

「そろそろ戻ろっか」

俺も透君も一先ず満足したため、席へ戻る。
ちょうど同じタイミングで陽向葵と麗君とも合流できた。

四人で声を揃えて「いただきます。」と手を合わせた。

食事をしながら、部屋での話になった。
陽向葵と麗君はもう部屋備え付きの露天風呂に入ったみたいだった。だいぶ気に入ったらしく、露天風呂の良さを熱弁された。

食べ進める途中、隣に座る透君のお皿に乗るかまぼこがすごく美味しそうに見えた。
取りに行こうかな...とぼんやりと考えていると透君のお皿から俺のお皿へとひょいと移動してきた。

「敦紀、練り物好きなのに取らないから一応多めに取っておいたんだ。食べていいよ」

ビュッフェなのだから、取りに行けばいい話。
それでも、俺を思って多めに持ってきてくれた透君の優しさにじんわりと胸が温かくなった。

遠慮なくいただくと、今まで食べた中で一番美味しかった。
旅行のおかげか、旅館のこだわりか、はたまた透君の優しさのおかげか...


「満足...」

俺と麗君はもう食べられないとお腹をさすった。

一方で透君と陽向葵はというと、デザートは別腹とスイーツを取りに向かった。

麗君と席に残った俺は透君を目で追っていた。

あれ……?

満腹感も相まってぼんやりとしていたが目が覚めた。

透君と陽向葵の前には同年代くらいの女性二人組が立っている。

どうやら、声を掛けられたみたいだ。
所謂逆ナン。

透君が女性の方へ行ってしまうことなんてないと頭ではわかっているが、なぜだか心がモヤモヤした。
それは、麗君も同じのようだった。

「透君はああいうのよくある?」

「俺と一緒のときあんまりないけど、多分一人のときはあるんだと思う...」

「陽向葵は?よくあるの?」

「うん……」

麗君は小さく頷いた。

「頭ではわかってるんだけど、不安にはなるよね。こんな陽向葵よりもデカイ男より女の子の方がいいんじゃないかって…」

その瞬間、俺の胸の中の黒いモヤモヤが少しだけ軽くなった気がした。

その後も恋人トークで盛り上がった。

「やっぱり俺たちちょっと似てるかもね」

麗君が小声でそう言うと、俺の方へ身を寄せる。

「声を掛けられてるだけだから何も悪くないんだけどね...」

「わかるわかる」

顔を見合わせて小さく笑い合う。

「……ねえ!」

スイーツをお皿に山盛りにした陽向葵が割り込んできた。

「麗!敦紀と距離近いよ...!いくら敦紀でもそれはだめ!」

「いや、そういうのじゃないよ...」

「向こうから見てたけど顔近いじゃん」

むすっとした顔の陽向葵に麗君は呆れたように笑う。

「なんでそんなに嫉妬してるの?」

「するに決まってるじゃん!」

そんな二人のやり取りを眺めながら透君はというと、

「敦紀、これ多分好きだよ。食べるでしょ?」

「うん、ありがとう...」

いつもと同じ表情で、抹茶スイーツをくれた。

女性のお誘いを断って戻ってきてくれたことに感謝しなきゃならないのに、陽向葵みたいに嫉妬してくれないんだと少しでも思っている自分自身が嫌になる。


食事を終え、明日の予定をざっくりと決め部屋に戻った。

露天風呂楽しみだなとぼんやりと考えていた。

「ねえ敦紀……」

いつもより低く、沈んだ声。

「さっき、麗君と何話してたの?」

「……へ?」

「すごい仲良さそうだったよね、隣に座っちゃってさ...隣は俺だったのに……」

これはもしかして...

「透君、嫉妬してるの……?」

図星を突かれた透君は、気まずそうに目を逸らした。

「...そうだよ。こんなかっこ悪いこと言うつもりなかったけど……」

嬉しさを堪えきれず、口元が緩むのを止められなかった。

「何にやにやしてるの...!」

ぷんぷんしている透君は最近見慣れたものだ。
付き合い始めた当初はあまり本心を出してくれなかった透君だったが、心を許してくれたのか段々と思っていることを伝えてくれるようになった。それでも、嫉妬していることを冗談めかした様子なく伝えてくれるのははじめてだった。

「ごめんね、透君も嫉妬するんだって思って。嬉しかったの。麗君とはあの二人ナンパされてるね、嫌だね。って話してただけだよ。」

ばつが悪そうに目を逸らす。

「確かに声は掛けられたけど、何もないし俺は敦紀しか見えてないよ……!」

必死になって否定する透君が、なんだかかわいく見えた。

「うん。大丈夫。わかってるよ」

否定しながら、透君は俺の顔色を伺うように視線を向けた。

そして空気を変えるべく、

「お風呂、一緒に入らない……?」

「………え!」

「せっかく部屋についてるし、どう...?」

「俺から誘おうと思ってたのに...」

そう言いながらも、「透君は早く入ろ!」と俺の手を引いた。

湯船に浸かると、箱根の夜風が頬を撫でる。

「気持ちいいね」

「うん。透君、今日は俺の我儘に付き合ってくれてありがとね。」

「こんなの我儘の内に入らないよ。次は二人で旅行しようね」

「うん……」

湯船に浸かりながら、他愛もない話をした。

前髪を上げている透君と目が合う。いつもお風呂上がりの姿なんて見ているはずなのに妙にかっこいい。

「……なに?俺に見惚れた?」

透君がクスクスと揶揄うように笑う。
なんだか悔しくて

「うん。透君がかっこいいから...」

透君は照れたように赤面する。

「ズルいよ……」

そのまま透君の顔が近づいてきて、唇が触れる。

「…透君こそ、不意打ちはズルい……」

そう言うと、やり返した!と言わんばかりのいじめっ子のような顔をしていた。

お風呂から上がった俺たちは、他愛のない話を少し交わして布団に入った。

布団に入り、透君の温もりに包まれる。

今日あったことを思い返す。

食べ歩きをして、夕食を食べて、麗君と仲良くなって……

楽しいな。来てよかったな。

ずっと終わらなきゃいいのに。そう思える旅行。

そんな思いを胸に、眠気には逆らえず瞼を下ろした。