キミの理想になりたくて

「なんかお前って救いようのない馬鹿だよな」

このセリフを俺は昔から数えきれないほど言われてきた。
はじめて言われたのは小学生のときだった気がする。

幼稚園に通っているときはまだよかった。
でも小学校に上がって本格的に勉強をしなくてはいけなくなってから自分は少しみんなとは違うのだということに気づかされた。

みんなが一度授業を聞いてわかることを自分は何度も何度も繰り返し聞いて教えてもらわなくては理解できなかった。

成績も周りよりも悪くて担任だった教師に心配されて親に連絡がいったこともあった。何かの病気なんじゃないかと疑われたこともあったがいたって正常だった。

ただ、周りよりも勉強ができないだけなのに周りの大人からは腫物に触るように扱われ周りの友達からは馬鹿にされてきた。

勉強ができないだけでこんなに馬鹿にされるのは本当は嫌だった。
嫌だからやめてくれと言ったこともあった。
でも、「だってお前本当に馬鹿なんだもん」そう言われて何も言い返せなかった。

それからやめてくれと言うのをやめた。
言っても仕方がない。
勉強ができない俺が悪い。
そう思うようになった。

中学校にあがってもメンバーはほとんど変わらないし違う小学校から中学校が同じになった奴からも『あいつはいじっていいやつなんだ』という認識になった。

中学校に入ってからは定期テストで本格的に順位がでるようになり、益々いじられるようになった。

いじられるのが嫌だという気持ちはあるのに友達を失うのが怖くて、嫌われるのが怖くてなにも言えなかった。

それから俺は早々に学校の先生には見捨てられ塾に入れられた。
最初は集団塾だった。
もちろん授業についていけるはずもなく成績も上がらなかった。
それではと個人の塾に入れられた。
一対一ならば少しは、と俺も親もそう思った。

でも成績は上がらなかった。

だったらと、家庭教師を雇ったがそれも変わらなかった。今思えば一回教えたのに、と二回目以降は雑にしか教えてくれなかった先生側にも非はあると思う。

でもあの幼かった俺は学校の先生、集団塾の先生、個人塾の先生、家庭教師の先生、そしてこいつになにをしても変わらないと言っていた両親に俺はいらないと言われていると思ってしまった。
ついには両親にも見放された。

勉強ができないなら、とスポーツを頑張ったこともあった。
でも俺には勉強の才能も、スポーツの才能もなかった。
俺は生まれてこないほうがよかったのではないか、と思ったこともあった。

一度、本当に死んでやろうかと思い自殺方法を調べたこともあった。でも俺にはそんな勇気あるはずもなく自殺なんてできなかった。

中学三年生の進路を決めるとき、俺は名前を書けば合格できるという私立高校に進学することにした。

なんでも、コースがいくつかあって一番レベルの高い特進コースは入学するのも難しく有名大学の進学を希望している人がたくさんいるようなコースから、俺のような頭の悪い人が集まっているコースまであるらしい。
公立の高校を受験する人よりも早めに受験が終わってしまい今まで俺のことをばかにしていた人に悪口を言われたこともあった。
けどもうこの人たちと会うことはないんだ。という気持ちでひたすら頑張った。

そのまま中学を卒業して、高校に入学してからははじめて学校生活が楽しいと思えるようになった。

頭が悪くて授業中に先生に当てられて答えられなくてもばかにしてくる人もいなく対等に俺を扱ってくれる友達に出会えた。

それでも勉強ができないのは変わらなくて、一年生の一学期の中間テストが終わった後職員室に担任教師に呼び出された。

「お前な、この点数は酷いな。全部赤点じゃないか。期末テストもこんな点数だと進級できないぞ」

そんなことを言われてもどうしたらいいのかわからなかった。

頭の悪いコースだからといっても高校の勉強ということで中学のときよりも内容は難しくなっている。
何がわからないのか、それがわからない。
だからどうしたらいいのかがわからない。

泣きそうになった。

でも泣いているところなんて見られたくない。

その日偶々、偶然。

もしかしたら運命だったのかもしれない。

普段、生徒達は新しい校舎を使って学校生活を送っている。でもこの学校には昔々に使っていた旧校舎がある。
俺は泣いている所を見られたくなくてこの学校の旧校舎の図書館に向かった。
誰もいない図書館で声を潜めてテスト用紙を見ながら泣いていた。

そんなとき、頭上から声がした。

「勉強、苦手なの?」

聞いたことのない声だ。

「あ、えと…」

「あ、急に声をかけてごめんね。俺は特進コース一年の江井透です。君も一年生だよね?」

えねい…?聞き覚えが…あるような、ないような?

「あ、主席の?」

「覚えててくれたの?嬉しいな。君の名前はなんていうの?」

彼は眩しい笑顔でニッコリと笑う。

「あ、ごめん。俺は梅宮敦紀。です」

「です?なんで敬語?同い年だよね?」

「いや、なんか俺なんかがため口とかなんか申し訳ないというか…」

気づけばまた、自分を、卑下していた。

「ふふ、何それ。敬語使われるほうがなんかやだよ。今日から友達なんだからため口にしてよ。」

「うん…ありがと?」

いつまでもしゃがみ込んだままじゃ失礼かななんて思って立ち上がろうとしたとき、ぐしゃっと音がした。
その音の正体に気づくのに時間はかからなかった。

「あ...えと、テスト、見ちゃった?」

「うん。目に入っちゃったというか…ごめんね?」

最悪だ。よりにもよって主席のこいつに見られるなんてきっと心の中でばかにしているに違いない。
これからまた人にばかにされる生活が始まるのだろうか

「それでさ、勉強苦手なの?」

「あ、うん。ずっと勉強できなくて。あの、ばかに、しないで…」

笑われるのが怖くて、馬鹿にされたくなくて、無意識に口から出ていた。

「ばかになんてしないよ。」

「え?ばかにしないの?」

「どうしてばかにするの?人には得意不得意あるでしょ?」

そんなものない。俺に得意分野なんてない。

「得意なことなんてないよ。」

「いや、テスト結果を見てもわかるけど敦紀くんは数学よりも国語のほうが得意でしょ?それで国語の中でも古典よりも現代文のほうが得意でしょ?」

そういわれたらそうなのかもしれない。

公式を覚えなくても答えが書いてある国語のほうが数学より好きだし、古文や漢文よりも自分が日常生活で使う現代文のほうが得意と言えるのかもしれない。

「そう、かも…?」

「ふふ、ほらあったでしょ?得意分野。」

それはこの点数で得意と言えるのか?変なやつ。と笑ってしまった。

「あ、笑ったほうがいいよ。それでさ次の期末テストまで一緒に勉強しない?」

「……それ、江井君にメリットある?」

「うん。敦紀君と仲良くなれるでしょ?一緒に勉強して、敦紀君のわからないところがあれば教えるし」

「俺、めちゃくちゃ頭悪いし物分かり悪いからイライラしちゃうかも…」

「俺が言い始めたことなんだからイライラなんてしないよ。それに人に教えることで復習になるっていうしね。」

「じゃあ、お願いします。あの……いやになったらいつでも言ってね?」

そんなことあるはずないよって言って江井君は笑ったけど俺は内心怖くて仕方がなかった。

「じゃあ、連絡先交換しよう?」

じゃあ連絡するねと今日は解散した。
もしかしたらからかわれただけで連絡なんて来ないかもなと内心思いつつ今日は連絡を待った。

『明日の放課後から勉強始めるので大丈夫?』

ほんとに連絡が来て少しびっくりしたけど同時に嬉しかった。

『うん。大丈夫だよ。よろしくね。』

と冷たい感じにならないように俺の好きなゆるかわなキャラのスタンプを添えて返信した。

「ごめん、待った?」

「あ、江井君。いや、今きたとこ」

そう冷静に応えたが本当は不安で仕方なかった。
昨日はああ言ったけどめんどくさくなってしまったんじゃなかなんて。
でもそんなことを伝えたら面倒なやつと思われてしまう。
そんなこと口が裂けても言えない。
せっかくできた友達なのだから。

それから毎日江井君との勉強会は続いた。

はじめは嫌われるのが怖くて同じ質問を繰り返し聞くことができなかったけど『一緒に勉強する時間を有意義なものにしたいから何度でも聞いて?』と言われてからは自然と俺も江井君も笑顔が増え、休憩時間の雑談も会話が増えた。

はじめて友達に対して心を開けた気がする。

それから挑んだ期末テスト。
成績はぐんと上がった。
はじめてどの教科も赤点がなかった。
担任教師にも褒められた。
江井君にも褒められた。
嬉しくて嬉しくて江井君の前で泣いてしまったけど優しく抱きしめてくれた。

それから二学期の中間、期末テスト、三学期末のテストも江井君に見守られながら一緒に頑張った。
二年生になったらこの関係は終わってしまうのではないかと心配したこともあったけどこの関係はなにも変わらなかった。

江井君は......