愛という名の



菜々子と最後に会ってから何年が経ったんだろう?
最初のうちあった着信は、回数が減っていき、やがてメッセージも届かなくなった。

これでいいんだ。


電話には気づいていても出なかった。

メッセージは既読がつかないように、ずっとタブレットで見ていた。
それだけが、毎日をなんとかやりすごすためのお守りみたいなものだった。

何度も、返信を書いては送信する前に削除した。


菜々子には、俺のことなんて忘れて、幸せになって欲しい。




詐欺の犯人が捕まらないから、不当利得返還請求も起こせない。
ひたすら借金を返すしかない。
6億の借金を死に物狂いで働いて、4年で残りあと2億までにした。
少しだけ未来が見えた気がして、メッセージを書いた。


<初めて会った同じ日にあの観覧車の前で>


送るつもりのないメッセージ。


現実は、何が起こるかわからない。
返済の目途がたった気がしていても、また土壇場でどう転ぶかわからない。
ここ数年、そんなことが何度もあった。そんなことの繰り返しだった。
それに、菜々子は最後にひどい仕打ちをしたオレのことなど許せるわけがない。もうとっくに忘れたいに違いない。それを願ったのは自分自身だ。

それでも、そんな考えに蓋をして、「借金を返し終えたら会いに行くんだ」なんて、ありえない夢を見て、働き続ける。

毎日、3時間も眠れたらいい方だったから、タブレットを持ったまま、寝落ちしていた。

それで、消さずにいたメッセージを送信してしまったことに気が付いたのは、朝になってからだった。


菜々子は、どう思ったんだろう?


返信はいつまでもなかった。

既読もつかなかった。

とっくの昔にブロックされてるよな。

そんなのわかってる。


その日は、ひとりで迎える30歳の誕生日だった。



菜々子は今何をしているだろうか?
幸せでいるだろうか?


春が来て夏が来て秋が来て、また冬が巡る。
何度も季節を重ねているのに、薄れていくはずの記憶は色濃くなっていく。

4年で4億返せたのに、残りの2億を返すのには月日を要した。


季節はまた春になり、菜々子と会った6月がまたやって来る。