愛という名の



東奈大学医学部看護科には1年浪人して入学することができた。
決して簡単なことじゃなかった。自分の考えがいかに甘かったか、何度も打ちのめされてばかりだった。
どれだけ両親に助けられたかわからない……わたしは恵まれていた。



大学に合格が決まった後、一度だけ遼のマンションへ足を運んだ。
電話したって出ないことはわかっていたから。

行ってどうしたいのかもわからなかったけれど、ケジメをつけたかったのかもしれない。
「連絡がなくなる」という最悪な終わり方から、きっぱりと決別したかった。


ドアフォンを鳴らしたら、出て来たのは全然知らない(ひと)で、ドアの前に立っていたわたしの姿に驚かれた。

遼が住んでいたマンションには別の人が住んでいた。


急にもやもやとし始めて、急いで家に帰り、初めて会った時にもらった名刺を探し出して、会社に電話をかけた。


「お電話ありがとうございます。丸宏不動産です」

「こ、小林と申しますが、小島さんをお願します」

「小島ですか? 失礼ですがどのようなご用件でしょうか?」

「前に小島さんから……土地を……買ったことがあって、それでお話ししたいことがあって……」

「そうでしたか。申しわけございませんが、小島は退職いたしまして、別の者が対応させていただきますので、よろしければ――」


すぐに電話を切った。


遼は会社を辞めていた。
マンションも引き払って……

九州の実家がどこなのか、住所なんか知らない。
本当に実家が九州なのか、嘘だったのかもしれない。
遼は、もうどこにいるのかすらわからなくなった。




満開の桜が散る頃には、今まで以上に忙しくなって、遼のことを考える余裕なんてなくなった。



1年生で一般教養を学んだ後、2年生になって実習用のユニフォームに初めて袖を通した。

母は、ユニフォームがスカートではないことと、ナースキャップがないことに「時代は変わったのねぇ」と言って笑った。