月城くんの偏食事情。

「なんか、静夢たちのお父さんって、かっこいい人だったね。ハリウッド俳優みたいにイケメンで、大人で。」

「こーくん、ちょっとデレデレしてなかった?」

「は!?」

「お父さんに見惚れてた。ああいう人がタイプなの?」

「緋美が成長して、お父さんみたいになったら、緋美の方に行くんじゃない?」

静夢は頬を膨らませ、唇を尖らせた。
面倒くさいメンヘラ女子みたい…!
縦横無尽に振る舞ってたように見えたけど、俺の表情ちゃんと見てたんだ、可愛いな。

「いやいや、タイプとかじゃないよ。俺、古い映画やドラマをよく観るんだけど、お父さん、ジョニー・デップみたいだったから、男として魅力的だとは思うけど、恋愛的な目では見てないよ。」

「俺が好きなのは静夢だけ。」

「本当?うふふ…!僕もこーくん大好き♡」

「静夢…。」

「何?」

「おんぶさせて。」

「何?どうしたの?? ふふっ、いいけど。」

屈んで背中を見せると、静夢はふわりと飛び乗り、めり込むほどにギュッと身を沈めた。

「俺さ、」

「うん。」

「静夢と前に進むのが怖かったのは、脆弱童貞メンタルのせいだけじゃなくて…一歩進んだら一生進み続けないといけない、つまり、一生一緒にいる覚悟がないと、進んじゃいけないって、どこかで思ってて。その相手が俺でいいのか、俺も、それでいいのか…って、考えてたんだと思う。」

「そっか。真面目だね〜。」

「でも僕も、ふざけてるわけじゃないよ。ずっと一緒にいたいから、そう言ってるだけ。」

「うん、わかるよ。俺も静夢見てて、まだどうなるかわからない未来のこと考え過ぎて臆病になってるのは、違うと思ったんだ。」

「だって未来ってさ、まだ無いんだよな。『今』が重なって自然と出来てくものだから。今を生きてる俺たちの未来は、まだ真っ白なんだ。だから、無いもののことを心配しても仕方がないし、幸せな今を重ねていけば、将来も絶対に幸せになれると思ったんだ。」


「…静夢、しっかり掴まっててね。」


俺は全速力で森を駆けた。


ただでさえ高鳴っていた鼓動が更に暴れ出す。
でも今は、走らないと……!


「…ッ!静夢ーーー!!月城静夢さーん!!!」

「え? はい!?」

「ッハ…!俺はッ…! 静夢のやりたいこと、全て叶えられる男になる…!!」

「ええっ、はい!」

「お前がッ…、何かやらかしても、全部! …ハァ…! 一生、俺が後始末を引き受ける…!!」

「僕なんかやらかす前提なの?」

「…って、え? 一生?」


「ハァッ…!そうだよ…! 一生ッ…!!」

「…だから…! ハァッ…、静夢…俺の……」


「……よ、嫁にッ…!! なってくれ…!!!!」


「えっ! こーくん……!」


「………イヤだよ…」


「なっ!?」


「……君が僕の嫁になるんだ!」


「えっ、俺が嫁なの?!」

「あはは!」

「冗談だよ、嫁でも夫でもいいや!こーくんと家族になれるなら!」


「こーくん、愛してるよ!あはは!!」

「俺も…!ハァッ…!狂おしいほど愛してる!!ははっ…!」


二人で大笑いしたけれど、俺は涙が止まらなかった。顔を見られたくなかったから、静夢をおんぶしておいて良かった。俺の背中でも、じんわりと人肌の湿度が広がっている。

森を抜けたら滝のような雨が降り注いできた。涙でくしゃくしゃの顔と、背中のシミがバレないようにと、神様からの贈り物だな。

そうだ。空には太陽も月も要らない。ここに揃っているから。

俺は息を切らしたまま洋館に入り、静夢をおろした。
そしてしっかりと見つめ合ったまま、二人ともずぶ濡れになった服を全て脱ぎ捨て、言葉も交わさず、全力で抱きしめ合った。