月城くんの偏食事情。

「し…静夢、何回って…その、方法を、わかってて聞いてるんだよね?」

「うん、知ってる。目合いでしょ。目合いが、性行為なのも知ってる。でも僕は今、エッチな話が聞きたいわけじゃなくて、真剣なんだ。早くこーくんと同じになりたい。お父さんしか聞ける人いないの。だから、教えて?」


「何回?」


この子、天使の皮を被ったヤクザなの!?怖すぎる…!

お父さんとお母さんはしばらく視線を泳がせたあと、無言で顔を見合わせた。

緋美はガムシロを三つ投入したアイスカフェラテを、ストローでブクブクと吹いている。さらに耳まで塞いで、親の情事の話から必死に逃れようとしていた。

「…変化が出てきたのは…」

「5回目…くらいからかな…。」

答えるまで終わらないと悟り、腹を括ったお父さんが上擦った声でそう答えると、

「それは、1日でじゃないよね?どのくらいの期間で?」

落しの鬼刑事さながらの尋問に、耐えきれず静夢以外の全員が目をつぶり、無言でしばらく天を仰いだ。


「静夢……。俺たちにとって、紅美が食事から栄養が摂れるようになったことは、副産物というか…。目的はそっちじゃなかったから、ここでは答えにくいな…。」

「静夢だって光くんと何回したとか聞かれても困るだろ…?」

「まだゼロだよ。男同士だと色々と難しくて。最初は僕がこーくんに入れるつもりで、精通までさせてもらったけど、お尻が綺麗な僕の方に入れた方が早いって話になって、それから…」

「ちょっ…!静夢…!!待って!!!もうやめて!!」

俺は居た堪れなくなり、両手でワッと顔を隠して俯いた。

せっかく感動的な再会だったのに!
親と猥談なんてあり得ない!気まずすぎる…!!

「…静夢が早く光くんに近づきたいのはわかった。でも俺は、回数なんて気にせず、その過程を楽しんで欲しいな。二人が密やかに愛を育む日々の延長線上に、食事を摂れる未来があるんだから。焦らず、一歩ずつ。時には寄り道しながら進んでいくのも、二人には合ってると思うよ。」

「あと、どうしても気になることがあったら、LINEでこっそり聞いて?ね?LINE繋いどこう。」

一歩ずつ…か。
お父さん、緋美と同じようなこと言ってる。
やっぱり、親子なんだな。

静夢はLINEを繋いでいたが、その顔は不服そうで、もっとヤバい質問を沢山準備していたのだろう。

「…とっ!ところで、お父さんは、どんなお仕事されているんですか??」

気まずい空気を一掃しようと、健全な話題を振った。

「あ、ああ。俺はAIの基盤技術を研究してるんだ。今は民間企業の研究所にいるよ。」

ジョニーデップの風貌でAI研究!?『トランセンデンス』のウィル・キャスターじゃん…!かっこよ…!!

「AIの研究ってすごいね!でもさAIってみんなが便利だって言うけど、僕のチャッピーはさ、話を濁したり、『静夢にはまだ早い』って言ったり、全然ハッキリした答えをくれないんだ。何かおかしいのかな?」

「そうなのか?ちょっとスマホ貸してみて。」

「… ああ、子ども向けのプロンプトが設定されてるね。解除しとくよ。」

「え〜、いつ設定しちゃったんだろ。画面見ながら寝落ちした時かなぁ。」

「いや寝ぼけて設定できるようなものじゃ…」

俺と緋美は、お父さんにだけに伝わるように、小さく首を横に振った。

それは緋美が自分の欲望を叶えるために、静夢から性的な知識を遠ざけようとして入力したプロンプトだ。

緋美の仕業だとバレれば静夢から嫌われるかも知れないし、せっかく再会できた父親にも、人間性を疑われることになる。それはさすがに可哀想。

お父さんは、静夢の暴走を目の当たりにしていたせいか、言いかけた言葉を飲み込むようにコクンと頷き、

「解除はしたけど、あんまりチャッピーに頼り過ぎるのもよくないよ。知りたいことは俺に聞いて。ねっ、父親として、静夢の役にも立ちたいし。」

そう言い直すと、静夢にスマホを返した。

「はーい、AI研究してるんだから、お父さんはAIより詳しいってことだもんね!頼りにしてます!」


お父さん、答え難い質問ガンガンされそうだな…