月城くんの偏食事情。

「生まれてからずっと、俺はしーちゃんしか見えてなくて。しーちゃんにも俺だけで。」

「でも本当はわかってたんです。好きなのは弟の俺と童貞の血だけ。俺自身には恋愛感情はおろか、抱かれたい欲望も無いって。」

「先輩と出会ってからのしーちゃん、目に光が宿ったっていうか、いきいきしてます。先輩の血が飲みたいだけじゃないのも、最初からわかってました。言いたくなかったけど…。」

「俺、今のしーちゃんの方が好きです。陽の光を浴びて輝く銀髪も、サンドイッチに齧りついて口の端からマヨネーズはみ出してるしーちゃんも、絶対可愛いと思います。見たいんです。だから…悔しいですけど…しーちゃんのこと、お願いします。俺にできることがあれば、協力しますから…。」


ええ…!!なんかちょっと俺泣きそう……!


「ありがとう、緋美。家に来て陽とずっと遊んでくれてたのも、静夢が間違って噛まないように、引き離してくれてたの?」

「ふぇッ?!も、もちろんです!」

あ、違った。

「それもそうですけど、なんなんすかね。可愛いっすね、弟って。無邪気でアホで。他人のような気がしないっすね、陽は。」

「ふふっ。ありがとう。俺もお前に対して同じ気持ちだよ。」

無言で視線を落とした緋美の口角が、ほんの少し緩んだ気がした。

「……陽起こして、桃鉄の続きします。あと90年残ってるんで。」

「あと90年?!まさか100年に設定してんの??何日居座る気なんだよ!」

「もちろん、100年っすよ?」

「アホってか、バカじゃん!帰れよ!」


いつものように言い争いをしながらも、
俺はさっきの緋美の言葉を思い出していた。


……俺らしく、一歩ずつ、か。


一時期は捨て身で俺の童貞奪おうとしてたのに、緋美も成長したなぁ。
静夢に対する底なしの欲望を抑えてまで、静夢の幸せを願う緋美の想いに、応えなきゃな。

一歩ずつ、確実に前に進んでいこう…!


そう胸に誓いを立てながら、リビングに戻ると

「見て!しーちゃん、可愛いでしょ!月野うさぎだよ!ピッタリでしょ!」

今日はセーラームーンが家に!!

静夢はデッカいピンクのリボンのついたセーラー服に、丈の短いプリーツスカートを履かされていた。
よくわからない丸い物を二つ頭につけ、更にそこから膝下まで、ダラリと長い黄色のつけ毛がぶら下がっている。

「あっ……」

俺に見られたのが恥ずかしかったのか、静夢の顔は一瞬で耳まで赤く染まった。

「しーちゃん!ほらっ!さっき教えたあのセリフ!言ってみて!」

「えっ!つ…つ………」

「月にかわってお仕置きよ…」

高二男子が何言ってんの?!
でも超可愛い!!!

「どんなお仕置きしてくれるの?セーラーしずムーン。」

「何それ知らないよ…見たことないし……。」

「でも、うーん…じゃあ、お尻ペンペンよ!」

「はは!俺、しずムーンにお尻叩かれちゃうの?怖いなぁ。」

「ううん、」

「こーくんが、四つん這いになったしずムーンのお尻をペンペンするお仕置き。」

「……………参った。……もう地球に悪さしない……」

「やったぁ、地球の平和守ったわよ!」

「?よくわかんないけど、しーちゃんすごい!」


そうこうしているうちに日も暮れて、静夢たちの帰る時間になった。
風は大泣きしながら「帰らないで」と静夢に縋りつき、陽は目尻に涙を溜めて口を尖らせている。
緋美は「あと75年待って」とふざけたことを言ったけれど、「また近いうちに来よう」と静夢に宥められ、渋々家を出た。


二人を駅まで送る道すがら、
緋美がポツリと呟いた。

「…家族ってやっぱり良いっすね。」

「俺の父親って、一人暮らしなのかな…」

「僕も気になってたんだけど、どこで暮らしてるんだろう。ずっと独身なのかな?」

「俺、会えないのかな、反対されてるなら。」

「でもお母様は時々会ってるみたいだったし、帰ったら聞いてみる?」

「うん……。」

うちで家族とわちゃわちゃ過ごしたせいかな。
今まで離れて暮らしていた父親のことが、急に気になったのかもしれない。
一人暮らしは寂しいだろうけど、あちらにはあちらの家族がいる可能性もあるのか…?
聞くのは少し怖いだろうけど、それでも知りたいよな…。

「会えたら教えてよ。どんなお父さんなのか、俺も知りたいし。」

「うん、また連絡するね。こーくん、2日間ありがとう!楽しかったよ!」


──「緋美のお父さんに会えそうだ」と聞いたのは、思いの外早くて、翌日の学校でのことだった。

しかも、「俺にも来てほしい」だと!

……なんで??