月城くんの偏食事情。

着替えてリビングに行くと、待ってましたとばかりに風が静夢に抱きついて、遊ぼ遊ぼと連れて行ってしまった。

弟たちは、まだいない。

陽…大丈夫かな?
寝ぼけた緋美に襲われたりしてないかな??

心配になり部屋を見にいくと、

二人ともまだ床でグースカと寝ていた。


「緋美、起きるよ。」

「う〜ん、しーちゃん……あと5分……」

「寝ぼけてんなぁ。ほら、起きるよ!」

「しーちゃん……抱っこして起こして……」

寝ぼけたままの緋美が、両腕を広げて抱っこを待つ。

何こいつ、いつも静夢に抱っこして起こしてもらってるの?!
背も体重も静夢の倍ありそうなのに?!
倫理的にもだけど、物理的にも無理だろ??

「身長倍は言い過ぎ!」と脳内の静夢に怒られながら、俺は緋美に肩を貸そうと、腕を掴んで持ち上げた。
その瞬間、緋美は俺をギュッと抱きしめてきた。

「しーちゃん、大好きだよ…これは弟としてのハグだからね…しゅき…。」

「おい!緋美!!俺だって!!!」

「気色悪いな!起きろ!!!」

「…えっ、ギャッ!!」

「何してるんすか!?セクハラで訴えますよ??!」

「こっちがだよ!」

「こんなの、静夢に見られたら殺されるよ??」

「ああ〜久々にしーちゃんを抱きしめられたと思ったのに……。」

相変わらずしーちゃん、しーちゃんだなぁ。
緋美は静夢にお尻を差し出されたら、泣いて喜んで一刹那の迷いも無く抱き潰すんだろうな…。

俺なんて『いつでもどうぞ♡』って言われてるのに、触ることは愚か、見ることすら出来ないチキン野郎……。
緋美が何より望んでいた景色が、今、手の届くところにあるのに……。

胸の奥にじくじくとした後ろめたさが広がっていく。

「緋美…俺、頑張るから。お前の遺志を継いで、静夢とのこと、ちゃんとやってみせるから!胸を貸してくれ!!」

俺は体も声も態度もデカい弟を、ガッと雑に抱きしめ、文字通り胸を借りた。

緋美は一瞬ビクッと身体を強張らせたものの、俺の背中が小さく震えていることに気付いたのか、騒ぐこともなく静かに口を開いた。

「……遺志って、勝手に殺さないで下さいよ…。」

「お前の恋と欲望は死んだも同然だろ。」

「俺まだ諦めてないっすよ?」

「先輩が失敗すればいいなって思ってます。」

「でも、それでしーちゃんが悲しむなら」

「俺は草葉の陰から見守ります。」

「緋美……。」

緋美の胸元から顔を上げ、背中に回していた腕をほどいた。

「俺どうしたらいい?どうしたらお前みたいに、厚かましくなれるの?どうしたら、遠慮なく静夢を抱けるの?」

「えっ!抱くんすか?!」

「お尻で、ですよね?」

「──いや、静夢が…。自分のお尻の方が適役だし、ほぐせば入るはずっだって。」

「お前の『参考書』とやらで、勉強したって…。」

緋美はさっと青ざめ、反射的に口元を押さえた。

「寝る前に読んでたはずなのに、起きたら本棚に戻ってたから…もしやとは思ったけど……。」

「なんで紙の本買うのよ…。」

「お気に入りの漫画は紙で欲しいじゃないですか!!」

「そっか、あれを読んで…。」

「精通ホヤホヤの童貞素人にあんなの見せたらダメだよ…ただでさえ好奇心の塊みたいな子なのに…。」

「指三本とか覚えちゃったし…」

「ギャッ!!」

「せ…責任とって俺が…ほぐします…グスッ…!」

「それは要らないけど、強靭なメンタルが欲しい…お前みたいに、ヒャッホー!って静夢を抱けるようなメンタルが……。」

「そんなアホな抱き方しないっすけど!?」

「…でも、先輩は先輩らしく、一歩ずつでいいんじゃないっすか。」

「背伸びする必要ないと思います。」

えっ!なんかいいこと言ってくれる…こんな緋美初めて見るな……