月城くんの偏食事情。

「あっ、緋美!寝てたの? 目がすごい腫れてるけど……」


真っ白なフリルエプロンを纏った静夢が、腫れぼったい緋美の目元を覗き込む。


「いや、夢だったらいいなとは思ってたけど、現実見せられてたよ…。」


「話してみたらさ、やっぱり寂しかったみたいで。ちょっと泣いちゃったんだよ。ね?
でも、もう大丈夫。緋美もちゃんと、弟としての健全な距離感を理解してくれたから。」

「そう、良かった!さすがこーくん。お兄ちゃんだね〜。」


──とぷ、とぷ、とぷ……。

静夢は、フルーツとトマトの特製スムージーをグラスいっぱいに注いでくれた。


「…先輩、兄弟いるんすか?」

「うん、弟と妹がいるよ。」

「弟いるんすか!」

「なんでお前ら弟だけに反応すんの?妹もいるよ。弟が小6、妹が小4。」

「ふ〜んまだ子どもっすね。」

「今度会いにいくんだ♪」

「えっ!」

「僕がこーくんの家族のこと、なんにも知らないの、おかしいでしょ。」

「こーくんの兄弟、絶対可愛いよねえ〜!楽しみ!!」

「お、俺もいく!!」

「は?なんでだよ!」

「しーちゃんが弟に噛みついたらどうするんすか!!」

「緋美ぃ、そんなことしないってば!」

「先輩の弟っすよ?!」

「だからなんだよ。」

「小6って、そろそろ思春期じゃないすか。」

「しーちゃんのこと気に入って、『僕の血飲んで♡』って言ってきたら?しーちゃん、拒否できるの?」

「………できるに決まってるでしょ!」


ん?今、一瞬考えたよね?


確かに美味しそうな血の男の子が誘ってきたら、静夢は本当に耐えられるんだろうか……。

……弁当、持ってきてもらった方が安心か?


「……いいよ、緋美。来ても。」

「えっ!やったぁ! 先輩さすがっす!」

緋美がパチパチと手を叩いて喜んだ。 

「え〜、信用してない?」

「……そういうわけじゃないけど、お互いの家族が仲良くなるのは、いいことなんじゃないかな。」

「あっ、両家の顔合わせ的な?」

静夢は頬をピンクに染め、両手の人差し指をちょんちょんと合わせている。

「いやいや、そんな大袈裟な話じゃないけど、うちの家族、賑やかなの好きだし、弟たちも喜ぶと思う。」

「じゃあ、来週は日向野家にお泊まりっすね!」

「泊まりなの?!」

「はい。日が暮れてから行った方がいいですし。」

「今まで浮いた話なんて一つもなかったのに、転校して早々、彼氏とその弟が泊まりに来るなんて……親、びっくりするだろうな……」

「まあでも、自慢の恋人だし!いいよ。二人でおいで。」

「わーい! こーくんちにお泊まり♡ 楽しみすぎる〜」

「親に話したら、喜んでご馳走作りそうだなぁ。血をあげてることは、さすがにまだ言えないし……アレルギー持ちだから、お弁当持参で来るって言っておくよ。」

「こんなデカい弁当持参で来るなんて、夢にも思わないでしょうね。ははっ!」

「ほんとだよ。体も声もデカいくせに、泣き虫な弁当とはなぁ。」

「いやそれ、ただの悪口っすよね?」

「事実でしょ。お前といたら難聴になりそう。」

「俺は感受性豊かな人間なんで!エロいことしか考えてない先輩と違うんで!」

「どの口が」

「もう!!二人とも仲良すぎ!」

「二人が罵り合ってると、すごく親密そうに見えて……。何かあったんじゃないかって、モヤモヤしちゃう……」


「……ダメだからね?」


静夢は持っていたお盆を胸元に抱きしめ、上目遣いで俺の顔を見つめた。

嫉妬してる! 可愛い!!

静夢の中で「何か」の解像度が上がってるから、余計に心配なんだろうな。


「何もないよ。うちの弟ともこんな感じだし。生意気だから、つい揶揄っちゃうだけ。」

「会えばわかるよ。」


「そっか! 楽しみにしてる!」