月城くんの偏食事情。

浴室から、

「早くおいで〜♪」

と、静夢の弾んだ声が聞こえる。

居直った俺たちは服をかなぐり捨て、
気合いを入れるべく、両手で頬を二回叩いた。


パァン!!パァン!!


「なんの音?大丈夫?」

緋・光「大丈夫大丈夫!」


──嘘だ。
全然大丈夫じゃない。
でも、行くしかない。


俺たちの戦場…いや、洗浄へ……!!


浴室の中は湯気が立ち込めて視界が悪く、
浴槽に浸かる静夢の姿がぼんやりと見えた。


えっ、おでこ出てるじゃん…!
ハードル上がるっ……!


隣から「ほわぁ〜お♡」という裏声が微かに聞こえた。緋美も気付いたらしい。
条件は同じだ。


「じゃ、二人とも、並んで椅子に座って!」


そう促された椅子は、
真ん中が何故か凹んでいる。
なんなのこれ?

俺たちは大きく息を吐きながら、言われるがままその変な形の椅子に座った。


静夢はまず緋美の髪を丁寧に洗い、
泡のたっぷりついたスポンジで背中を洗った。

上背もあり、ほどよく筋肉のついた緋美を、小柄で華奢な静夢が一生懸命洗っている。
甲斐甲斐しく世話を焼くその姿はどこか健気で、微笑ましくもあった。

……なんだ。
意外と普通に見ていられるじゃん。

緋美の背中を流し終えると、静夢は俺の方にきて、緋美にしたのと同じように、髪の毛を丁寧に洗ってくれた。


「お客さん、痒いところはないですか〜♪」

えっ、床屋さんごっこ?
可愛い…!

「はい、大丈夫です!」

「てか、こう聞かれてさ、痒いことあっても言いにくいよね。場所も伝えにくいし。」

「『後ろの右あたりが〜』『つむじのとこですか?』『つむじがわかりません〜』みたいに、なりそうだよね!」

「そうそう、あはは!」


おお、意外と余裕かも…!


隣の緋美にチラリと視線を向けると、
手を胸の前で両手を合わせ、険しい表情で何かブツブツと呟いている。


「…かんじーざいぼーさつぎょうしんはんにゃーはーらーみーたーじー…」


えっ、お経唱えてる??
マジで滝行じゃん…!

静夢は俺の背中を流し終えると、緋美の方に戻り、正面に座って、緋美の前側を洗い始めた。

緋美はまだ目を瞑って、お経を唱えている。

ジロジロ見ていても悪い気がして、
横目で2人の様子を伺うことにした。


首元、胸元、腕,お腹…
洗う場所が下がっていくに連れて、

「ぎゃーてーぎゃーてーはらぎゃーてー!!!」

緋美のお経の声はデカくなった。

ついには、

「ギャーーーーー!!!!」

もはやお経ではなく、ただの絶叫が浴室に響き渡った。


「俺の負け!!!」


と叫びながら、緋美は泡だらけのまま浴室を駆け出していった。


「緋美〜!」

「食材だから洗われたいって、緋美が言い出したのに、時々あんなふうに出ていっちゃうんだよ。くすぐったいのかな?」

「そ、そうなんだ。」

「まあいいや、次、こーくんね!」


そう言うと静夢は、
俺の前にしゃがみ、

顔、首、腕、胸…と、順番に洗い始めた。

あれ……不思議と邪念が出てこない。
弟がお兄ちゃんのために一生懸命頑張っているような、そんな微笑ましさしか感じない。

静夢の嗜好はまだわからないけど、
少なくとも、俺のことをそういう目で見ていないのだろう。
じゃないと、さすがに平然とこんなことできないでしょ。
少なくとも、俺のことも、俺の血の味も気に入ってくれているんだから、今は食材として、人参や大根の気持ちで洗われてればいい。


洗う場所はさらに下へ…

お腹…
太もも…

静夢の手が、ふと止まった。


「…えっ」

「……あれっ??」

「ごめん、なんか……」


見下ろすと、静夢は困ったように頬を真っ赤に染めていた。


「……あのっ!」

「……ここから先って、僕がやっていいのかな……」



今その顔で聞くなぁああああああ!!!