月城くんの偏食事情。

「あ、この辺は日本語で書かれた文献もあるよ。」

「これは何だろう、手書きみたいだけど…」

俺が埃を手で払うと、そこには、

『月城家 血統及び食餌録』

と書かれていた。

「あ!これ…それっぽい!!!」

「血統と…しょくじ?えさ?」

「食事と同じだけど、栄養補給的な意味の強い字らしい。グーグル調べ。」

「へえ〜。」


俺はひとつ息を呑み、
最初のページを読み上げた。

『我らが祖は、遠くルーマニアの地より海を渡り、この国へ移り住んだ。』

『我らは夜を好み、陽光を避け、血を糧として暮してきた。』


「わあ!僕のルーツだね!」

「そうだね、読み進めてみよう。」


『土地に馴染み、名を変え、暮らしを変えても、
夜に目覚め、血を求めるその特異な性質だけは、途絶えることなく受け継がれている。』


「う〜ん、静夢の偏食はやっぱり、遺伝なんだね。
「あ、食餌のマナー的なことも書いてる。」


『血を得る際には供血者の同意を得ること。
傷口は清潔に保ち、必要以上の吸血を行わぬこと。』


「あれえ、食材として体を丁寧に洗いましょうとか書いてないなぁ〜?緋美くん。」

「いやいやいや!清潔に保ちって書いてます!!なんか、他の文献には、もっと詳しく、洗い方とか!止血の方法とか!書いてたんす!間違いないっす!」

「そうなの?まあいいや、とりあえず、続きを読もう。」


『血の味は供血者ごとに異なる。
年齢や体質、健康状態だけでなく、
その者が抱く感情によっても、大きく変化する。』

『中でも、吸血者へ強き『情欲の念』を抱く者の血は、風味を著しく増す。』


「情欲の念?」

静夢が首を傾げると、


「ちょっと……先輩いいすか」

「なに?」

「ちょっと、廊下に…」


緋美は俺を廊下に連れ出した。


───────・・・


「先輩!やばいっす!『情欲』って…。」

「下心っすよ!!」

「このまま読み解いていったら、俺たちの下心、バレちゃいます!!!」


「はぁ?!俺に下心なんて…!」


「無いですか?」


ないよ!!と言いたかったけど、

ある………


「つーかあんな可愛い子に、邪念ゼロで接すること出来る男がいるわけないだろ!!」

「しーちゃんが気付く前に、古文書読み解くのは中止にしましょう。」

「……それと俺、ずっと考えてたんすけど…」

「なに?」

「しーちゃんのキスの相手、先輩っすよね?」

「えっ!!いやっ…」

「少なくとも俺の監視下で、しーちゃんが誰かとキスするような隙は与えてません。」

「合宿中しかあり得ない。だとしたら…。」

「だとしても!向こうからしてきたんだよ?!俺は奪われた側だからね?!」

「…だったら俺も、奪います…。」

「えっ!静夢に無理矢理キスすんの?!」


「違います!」

「先輩の……童貞……。」


「はぁっ?!」


「童貞じゃなくなれば、確実に味は落ちるはず……そしたら俺がNo. 1に返り咲く!!」

「待て待て!お前はどうなるの??お前も血が不味くなるんじゃないの??」

「俺は処女捨てるだけなんで!童貞のままなんで!」

「えっ、そーゆーもんかな??」

「兄弟だし、俺にも情欲持てるでしょ。」

「俺のお尻結構、綺麗なんで…」

「見ますか……」


緋美はカチャカチャとベルトを外しはじめた。


「わーーー!!!馬鹿馬鹿!見たくないって!!」

「いくらなんでも、捨身過ぎるだろ!」

もちろん応える気は無いし、本気の顔で迫られて怖さもあったけれど、
緋美のあまりに突飛な行動に、俺はむしろ笑いが込み上げてきた。


「見ないって!っはは!」

「見たら気に入りますって、しーちゃんが磨いてくれたお尻ですし!」

「もう、やめて!腹が痛い!」




「……ねえ…何してるの?」