月城くんの偏食事情。

俺は各部屋のドアに耳をつけ、音を聞いて回った。

とても薄いドアだ。月城くんが誰かの血を吸っているなら、血を吸っている音や、喘ぎ声?が聞こえるはず。

けれど、どのドアからもあの時のような声は聞こえず、いびきや寝言が少し聞こえるだけだった。


部屋にはいない……。

じゃあ、外に呼び出してるのかも………。


心臓をバクバクさせながら、俺は宿舎の外に出た。


………月城くん……!


でももし、吸血中の月城くんを見つけてしまったら、
俺に止める権利があるのか?

「食事の邪魔をしないで」

と言われたら?

考えるだけで胸が苦しくて、
涙で目が霞んでしまう。

相手が誰であれ、月城くんが栄養補給できるのであれば、喜んで見守るべきなのに、

なんで俺はその姿を想像して、
ショックを受けて、
止めようとしているんだろう。

何故こんなに必死になって、自分の血を飲んでもらおうとしているんだろう………。

頭で考えても答えは出てこないけれど、

俺はとにかく阻止したい。
月城くんに会って、俺の血を飲んで!って言いたい。
この想いだけはハッキリしている。

早く、月城くんを見つけないと……!


俺は施設内を走り回って探した。
敷地はとても広くて、なかなか月城くんは見つからない。

あとは、あの森の中………。

月明かりさえ届かない森の奥へ踏み込むのは、さすがに足が竦む。
けれど、迷っている暇はない。

虫の声や、小動物の駆ける音にいちいちビクつきながら
森の奥へと進んでいくと、
不意に視界が開け、テニスコート二面分ほどの草原が現れた。

足首ほどの高さまで伸びた草は月明かりに照らされ、
風に揺れる影が波のように広がっていた。

幻想的で綺麗だな……夜の草原……。


遠くに背の高い木が一本だけ生えていて、
その木の裏から、
サラサラの銀髪が靡いているのが見えた。


あっ………!


木に隠れていて、誰といるかは見えないけれど、
あのサラサラの銀髪は……、
……月城くんで間違いない…!

そっと近づいてみると、

──他には誰もいなかった。


月城くんは切り株に腰をかけ、右膝を抱え
物憂げに空を見つめている。

月明かりに照らされたその横顔は
いつもの天然で幼い月城くんとは違って
とても大人びて見えた。

夜風に靡く銀髪も
透けるように白い肌も
息を呑むほどに美しく
しばらくの間、見惚れて動けなかった。


「あ………。」

視線が刺さったのか
月城くんの瞳が、ふいにこちらへ降りてきた。


「……静夢。いなくなってて驚いたよ。何してたの?」


「眠れないから、月を見にきただけだよ。」

「こーくんは、何しにきたの?」


「俺は……。」

「俺は、静夢を探しにきた。」


「ふふっ、なんで?」


心臓が煩いほどに鳴っている
今にも破裂しそうだ……

頑張れ俺……!
言うんだ………!!


「静夢……。」

「俺の血を、飲んで欲しい。」



ついに、伝えてしまった───。