月城くんの偏食事情。

「あ、次僕たちのクラスの番だよ!」
「お風呂に行こう!」

お風呂…だと……!

みんなでワイワイお風呂に入るだけなのに、
『食材として洗ってもらう儀式』が頭をチラついて、
お風呂と聞くだけでドキドキしてしまう…。

緋美…マジで俺はお前を許さない……!

これはただの風呂!俺は食材ではない!
日中にかいた汗を流すだけの行為……!

そう自分に言いきかせるように、
両手で頬をパンパン!と2回叩き、
大浴場へ向かった。


「こーくんとお風呂♪嬉しいなぁ〜!」

周りに人がいるせいか、
「洗ってあげる♡」とも言ってこない。
純粋に初めての合宿を楽しんでいるようにも見える。

でも、同室の1人が帰った時のあのテンションから考えると、油断はできないな…。

……やっぱり緋美みたいにはなりたくない。
でも、他の子の血を吸って欲しくない気持ちもある。

自分の中で、嫌なことはわかった。
で、俺は、どうしたい?


月城くんと、どうなりたい……?


そう考えながら服を脱いでいると、

「こーくん、まだぁ?」

月城くんは既に裸で、胸の前にタオルを抱えて立っていた。
白くてきめ細かい肌、キレイな鎖骨と華奢な肩が目に飛び込んできて…。

うわっ!!
これ以上見たら(社会的に)死ぬ!

お風呂とは!汗を流す汗を流す汗を流すもの!!
落ち着け俺の暴れ馬!!!

俺は無言でその場を立ち去ると、
急いでシャワーを浴びて湯船に飛び込み、
何も見ないよう上を向き、目頭にタオルを乗せた。


「ちょっと〜!僕、待ってたのにぃ!」

「ごめんごめん。どうしても早くお風呂に入りたくなっちゃって…。」

「ところで、緋美はよく林間学校許したね。心配してたでしょ。緋美に止められるんじゃないかと思ってたよ。」

「そうそう、ずっと心配して反対してたよ。でも僕が頑固なのも知ってるし、それに…。」

「反対する体力なくなるくらい、血をもらって来たから。」

「あははっ!」


わ!やっぱり緋美は干からびてる……!


「おかげで僕は君とここに来られたし、緋美には感謝だよ〜!」

自分の血で元気になった大好きな兄が、
他の男の血を求めて林間学校に参加してるなんて…。
緋美は今頃、ベッドで咽び泣いていることだろう。

でも緋美、今お兄ちゃんはその男とお風呂に入ってて、これから2人きりで寝るんだよ?

月城くんは緋美に感謝してるけど、俺はまだ恨みの方が大きいからな!
ただの風呂なのに変に意識して、
距離とって目隠しまでしてるの、お前のせいだ!!

え?しーちゃんの肌見たいくせに、目隠しして紳士ぶるなって?

は?俺のピュアッピュア度知ってるよね?
今目隠し外したら湯船が鼻血で真っ赤に染まるよ?
お前の兄ちゃん風呂のお湯全部飲んじゃうかもよ?

頭の中に召喚したエアー緋美と喧嘩していると、
イライラが、他の感情を全部追いやっていく……。

荒ぶっていた心臓も漸く落ち着いてきた。

よし!これでやり過ごそう!!


───そう、思っていたのに。


「こーくん!キレイな首筋が、丸見えだぞ…♡」


ふいに耳元で月城くんがそう囁き、
俺の心臓はまた『ヒヒィン!!』と暴れ出した。


確かに、目隠しをして上を向くなんて、「首どうぞ♡」と言わんばかりのスタイルにはなってたけど!!

せっかく鎮火しかけていたのに、なんでまた焚きつけるんだよ…。

俺は慌てて目隠しを外し、上げていた顔を戻して水面を見たつもりだったが、
月城くんは既に真正面にいて、
肩までお湯に浸かり、上目遣いで俺を見ている。

そして濡れた前髪をかき上げたのか、普段見えないおでこが見えている。

エッ!何このおでこ!!
かわいっっっ……!!!

「静夢こそ!!おでこ丸見えじゃん!!」

ついそう叫んでしまった。

「えっ?あ、うん。髪洗ったから。」

「デコ出し似合わない?ふふっ。緋美と同じこと言うね。前髪あった方がいいって言われたことあるよ。」


緋美……!


こんんな可愛いおでこ、風呂で見るの辛いよな…!
他の人にも見られたくなかったよな……。