月城くんの偏食事情。

「先輩、麦茶…」

「うわっ!何してんすか!!」

緋美は慌てて麦茶を置いて、俺と月城くんを引き離した。

「緋美ぃ〜、違うよ、こーくんが血を飲ませてくれるって言うから、その前にお風呂で洗ってあげようとしてたんだよ〜」

「エッ!」

「いやいや!!そんなつもり無いから!まだ無理だって!なんか月城くんが勘違いしちゃって…」

「聞いて月城くん、俺は、学校で寝ちゃった月城くんを、緋美がおんぶしてたから、代わりに日傘をさして、送ってきただけなんだ。まだ血を吸われる心の準備は出来てないよ。」

俺がそう言うと月城くんは、やっと理解した様子で、

「ええ〜な〜んだぁ〜、残念…。」

と、不機嫌そうに眉を八の字にひそめた。

「ところで緋美、食材を洗うのも、吸血の作法?」

「…そっすね…なんかの文献にそう書いてましたね…。」

こいつマッジで…!
月城くんが天然なのをいいことに、好き放題やってんな!!

俺が軽蔑の視線を緋美に向けていると、

「…先輩、俺は特殊な体質でもないし、極々普通の一般ピーポーですけど、今、テレパシー受け取ってます…ごめんなさい……。」

「でもですよ!!俺も後悔してるんです!洗われるのってめちゃくちゃ大変っす!本っ当に!ヤバいんですって!毎回滝行くらい精神統一してんすよ?!」

わかる…わかるよ……。
俺だって耐えられる自信ない……。

「しかも、それを先輩と……うっ、ぐっ、スンッ…スンッ……」

泣くなよ…。
お前は身から出たサビだろ…!

「ええ…食材として洗われるのって、そんなに精神にくるの?大変なんだね…。」

「緋美、いつもありがとう。そして、こーくん。本当に、激しくしないから。優しく撫でるように洗うからね。辛い時は言ってね!」

うん、激しくて優しくても、無理。
想像しただけでもう辛い。

「ところで、」

「緋美、こーくんと更に仲良くなってて、ずるい!」

「えっ?どこが??」

「呼び捨てで呼んでるし、テレパシー使ってるし、こーくんに辛い儀式させたくないって泣いたり…。」

いやいや、
むしろ仲悪くてそうなってます。

「こーくん、僕のことも、下の名前で呼んで?」

「下の名前??」

「うん、静夢……って、呼んで欲しいな。」

何でだろう……。
軽蔑してる緋美のことは平気で呼び捨て出来るのに、
月城くんを「静夢」って呼ぶのは、

ドキドキするな………。

「し…、静夢……。」

照れながら俺がそう呼ぶと、

「あっ、はーい、こーくん♡」

月城くんはふいに顔を逸らし、耳の前で俺に向けてハートを作った。
そのおどけた仕草の隙間から僅かに見えた頬は、暗がりでもピンク色に染まっているのがわかった。

呼んでって言ったのに、呼ばれて照れてる…!
可愛過ぎるって!!

俺のピュアッピュアメーターが上がれば上がるほど血が美味しくなると思っているのかも知れないけれど、煽れば煽るほど、吸血に対する心の準備は遠のいて行くのに…。

自分で自分の首絞めてばっかりの兄弟だな…。