月城くんの偏食事情。

──翌日


昨日より少し遅く学校に着くと、教室には既に数人の生徒がいた。

やっぱり今日も月城くんは、机に突っ伏してスースーと寝息を立てている。


よく寝る人だな…。
起きたら、なんて声をかけよう……。

昨日の月城くんの艶かしい声、紅潮した頬(と緋美のキモい声)が脳裏から離れない。


はぁ…目が合ったらもっと、思い出してしまいそう…。

気まずいな…。



キーンコーンカーンコーン


チャイムが鳴り、月城くんがぼんやりと目を覚ました。

隣の俺に気付くと、眠たげだった顔がぱっと綻んだ。

月「あ、こーくん!おはよう!昨日はありがとうね。うちに来てくれて嬉しかったよ〜!」

光「お、おはよう。こちらこそ…」

「ありがとう」…と続けようとしたけれど、自分の中の何かが、その言葉を発することを許さなかった。


女1「えーっ!朝からこんなに元気な月城くん初めて見たかも!!2人、いつの間にそんなに仲良くなったの??」

隣の席の女子にそう言われると、月城くんはポッと頬を桜色に染め、

月「昨日、僕の家で色々あって…」

月「それで僕、こーくん(の血)のこと、大好きになっちゃったんだよね!!」

いやーーー!!語弊語弊語弊!!!!!

誤解生む言い方やめて〜〜!!!

血が主食ってことはみんなには言ってないんだろうから、訂正もできないじゃん!!


俺が何も言えず焦っていると、

月城くんの爆弾発言に驚いたクラスメイトが、わらわらと集まってきた。


男1「日向野…すごいな…転入して数日で、あんな美人落とすなんて…!さてはかなり場数こなしてんなお前!!」

女2「月城くんって誰とも深く関わらないイメージあったのに、日向野くんってもしかして、恋愛経験豊富な感じ??」


いや俺はピュアッピュアの童貞拗らせボーイだからこそ、月城くんに好かれていて……

なんて説明もできず(したくもない)、クラスメイト達の羨望の眼差しがただただ痛かった。

そんなみんなの勘違いなど気にも留めない様子で、月城くんはニコニコしながら俺を見つめている。


この笑顔が、卑怯なんだよな……。


────────


それから、月城くんはやたらと俺にベタベタしてくるようになった。


「こーくん、次音楽だよ〜♪音楽室行こう♪」

そう言って俺の腕を掴み、上目遣いで俺(の首)を見つめてくるし、

体育が終わるといつも、

「こーくん、大丈夫?今日は鼻血出てない?どこか怪我してない?」

と、心配そうに(×出血目当て)駆け寄ってくる。


クラスメイトは温かい目で見守ってくれているけれど、陰では俺を『ビッグダディ』『パーフェクトスティック』『暴れん坊将軍』…なんて呼んでいることも知っている。


ビッグでもパーフェクトでもないし、暴れたこともないよ…。
みんなのイメージが実際の俺と掛け離れていく……。


そう悩んでいるそばから、月城くんが、

「こーくん、汗かいてるよ、拭いてあげる♡」

そう言って柔らかなハンカチを俺の首元に当て、優しく汗を拭っていく。

首狙ってるだけだろ…!
どっちかと言えば月城くんが将軍じゃん!
ちなみに月城くんも陰で『将軍の嫁』って呼ばれてるからね!?

早く血を飲みたい月城くんと、まだ飲まれるのが怖い俺。二人の関係性は全く変わっていないのに……。

でも、本当の事情を知られるわけにもいかないから、
下心で過剰に世話を焼くこの『嫁』を、甘んじて俺は受け入れていた。