保健室での捨て身の作戦を経て、確信した。
深山統織は、確実に俺に狂っている。
敵の「恋心」という最大のセキュリティホール(脆弱性)が判明したのだ。今後の戦いやすさは段違いに跳ね上がる。
要するに、あいつの心を強烈に揺さぶってバグを起こさせ、完璧なポーカーフェイスを叩き割ってやればいい。
やられっぱなしで終わると思うなよ。今度は俺が、あいつの得意な「嫉妬心を煽るトラップ」を仕掛けてやる。
だが……。
『神視点』を自負する目で教室を見渡してみるものの、深山の嫉妬を誘発できそうな格好のターゲットがまるで見当たらない。
深山を揺さぶるなら、男のほうが効果的だろう。クラスの男子で、俺が手っ取り早く近づけて、扱いやすい単純な奴──。
「侑人ぉ、聞いてくれよ……! 結衣に突然『もうついていけない』って振られた……!」
背後から、がしっと暑苦しい重みが肩に乗っかってきた。俺の机に突っ伏し、わざとらしく泣き真似を始めたのは浩也だ。
『神視点』でわざわざ探すまでもなかった。
失恋で、ちょうど心が消し炭になっている都合のいい男がここにいる。浩也は少しお気楽すぎるが、単純で、今の俺の計画にはこれ以上ないほど打ってつけだった。
俺は浩也の肩にそっと手を置き、潤んだ瞳をまっすぐに見つめて囁いた。
「大丈夫だ、浩也。お前は少し暑苦しいけど……本当はすごくいい奴だってこと、俺が一番よくわかってるから」
言葉以上に「すべてを包み込む理解者」の空気を演出してやる。
「侑人……! お前、本当にいい奴だな……。俺の味方はお前だけだ……!」
限界突破で感動し、目をキラキラさせている。狙い通り、本当に安直な男だ。
(もう少し深山みたいな、ミステリアスな色気と知性があれば、結衣ちゃんも手放さなかっただろうに……)
──って、俺は何をあいつと比べているんだ!
無意識に思考の基準が「深山」になっている時点で、脳内ハッキングの毒が抜けきっていない。チラチラと隣の席の出方を伺ってしまう悪癖も、いい加減に矯正しなければ。
浩也を本当に惚れさせる必要はない。俺の興味のベクトルが「浩也」に向いていると見せつけ、深山の平常心をむしり取ってやればいいのだ。
あいつだって機械じゃない。必ず嫉妬に狂って、化け物の「素」を晒すはずだ。
それからの数日間、俺は休み時間も放課後も、意識的に浩也と行動を共にした。
ふざけ合うフリをして肩を組み、至近距離で耳打ちをする。張り詰めた隣席の視線を感じたが、俺は徹底的に深山を無視し続けた。
そして、仕掛けたトラップが「最悪の形」で発動した、あの放課後が訪れる。
帰り際、鞄を整理していて筆箱がないことに気づいた。
「侑人、帰ろうぜ」
「あ、悪い。ペンケース、科学室に忘れたかも」
「は? しゃーねーな、付き合ってやるよ」
浩也が嬉しそうに俺の肩を抱き寄せる。体格の良い浩也に密着されると、流石に少し威圧感がある。
放課後の科学室は、遮光カーテンが閉め切られていて薄暗かった。
蛍光灯のスイッチを入れると、無機質な実験机の上にぽつんと俺のペンケースが転がっているのが見え、胸を撫で下ろす。
「お前が忘れ物なんて珍しいな」
「ああ、授業が終わったあとは確かに鞄に入れたはずなんだけど……」
おかしいな、とペンケースに手を伸ばした、その時だった。
「なあ、侑人。……お前、もしかして俺を誘ったの?」
「……は? 何言って──」
唐突に投げかけられた甘い声に、背筋が粟立つ。
危険を察知して一歩退こうとしたが、それより早く、浩也の大きな身体に実験机へと押し込まれ、退路を完全に塞がれた。
「俺さ、結衣と付き合ってたけど……ぶっちゃけ、相手が男でもいけるんだよな」
「……え?」
「だってさ、そういうこと、普通は表立って言えねーじゃん? でも、お前は言ってくれたろ。俺のことを一番理解してるって」
浩也は俺の逃げ道を阻むように机に両手をつき、熱を帯びた顔をぐいっと近づけてくる。
マズい。完全にターゲットの選定と「性的指向」のハッキングを見誤った。
失恋直後の浩也の寂しさと性欲は、俺の不用意なボディタッチによって、あらぬ方向へ暴走してしまっていた。
「いや、あれは友達として、お前を励ます意味で言っただけで──」
顔を背けて強引にすり抜けようとしたが、逃がさないとばかりに首の後ろに熱い手が回される。
「ちょっと待て、浩也……っ!」
身体が強張る。力ずくでは勝てない。
絶体絶命の拒絶感に、俺がぎゅっと目を閉じた、その瞬間だった。
バンッ──!
静まり返った科学室に、けたたましい衝撃音とともにスライドドアが勢いよく叩き開けられた。
「あ……なんか、お取込み中だった?」
「深山……!?」
弾かれたように目を開けると、そこには、いつもの完璧な優等生の微笑を張り付けた深山が立っていた。
「ごめん、僕のことは気にしないで。提出用のプリント、ここに忘れて取りに来ただけだから」
「何でもない」とでも言いたげな淡々としたトーン。だが、その瞳の奥は、凍てつくような冷徹さと、どす黒い殺意で満ち満ちていた。
深山は机の上のプリントを手に取ると、「あった」とだけ呟き、何事もなかったかのように踵を返す。まるで俺を、その場に永久に廃棄するかのように。
その氷のような拒絶に触れた瞬間、頭が真っ白になった。
(──違う、そんな冷たい目で俺を見るな)
「ち、違うんだ、これは……っ!」
俺はなりふり構わず浩也を突き飛ばしていた。
おかしい。深山の嫉妬を煽って「ざまあみろ」と笑う計画だったはずなのに。これでは、まるで俺があいつに嫌われるのを心底恐れている証明ではないか。
気まずそうに頭を掻く浩也を置き去りにし、俺は本能のままに科学室を飛び出し、廊下を歩く深山の背中を追った。
「深山、待て! 違うんだ、あいつが勝手に──!」
必死に弁明する自分の無様に泣きそうになる。深山は、静かに足を止めた。
ゆっくりと振り返ったあいつの顔には、もう笑顔の欠片もなかった。
「木瀬くん」
底冷えのする低い声が、俺の足を縫い付ける。
「『神視点』を持ってる割には、自分自身のことは何も見えていないんだね。君が無自覚に振り撒いているその『無防備さ』に、そろそろ自覚を持った方がいい。……そうじゃないと、次はペンケースだけじゃなく、教科書やノートまで、どこかへ消えてしまうことになるかもしれないから」
「……っ、え……?」
ヒュッと、喉の奥で息が引き攣った。背筋に冷水が走る。
「まさかお前……俺のペンケースをわざと隠して、俺と浩也をあそこに誘い込んだのか……?」
言いながら、己の浅はかさに血の気が引いた。
俺がペンケースを探しにいくことも、浩也がついてくることも、科学室で何が起きるかも──あいつのプログラミング通りだったというのか。
深山は何も答えない。だが、静かに細められたその瞳が、何より冷酷な肯定だった。
これは偶然の忘れ物なんかじゃない。深山が仕組んだ、俺への『お仕置き』だ。
深山がゆっくりと俺に一歩歩み寄る。
その切れ長の両目の奥で、暴風雨のような独占欲と、狂おしいほどの嫉妬の炎が渦巻いているのが見えた。息が詰まるほどの圧力に、一歩も動けない。
「君には、……『大好きな人』がいるんだろ?」
深山は俺の耳元に顔を寄せ、冷たい指先で俺の首筋をすっと撫で下ろした。
その指の冷たさと、耳元にかかる吐息の微かな熱さにゾクリと背筋が凍りつく。
「だったら、その人のことを悲しませるような真似は、慎んだ方がいい。──これ以上、手痛い『罰』が当たらないためにもね」
そう言い残し、深山は今度こそ去っていった。
廊下に取り残された俺の背中には、べったりと冷や汗が張り付き、鳥肌が止まらなかった。
【フェーズ8:防壁(ファイアウォール)の強制起動(完了)】
→ ターゲット(侑人)が他の個体(浩也)へ接触を試みた際、意図的なロスト(ペンケースの隠匿)を発生させ、閉鎖空間でのエラー状況を誘発。
他の個体による「奪取の恐怖」を直接体験させ、排除行動(拒絶)を実行させると同時に、唯一の安全領域が僕(深山)だけであると骨の髄まで刻み込めば成功。
深山の冷徹なカウンターは、狂気としか言いようがないほど恐ろしかった。
けれど、あいつのあの、世界を滅ぼしそうなほどの嫉妬に染まった眼。
あれを見られただけで、俺の勝ちだ。あいつのシステムは、俺という存在のせいで、確実にエラーを起こし始めている。
【侑人のログ:深山システムの脆弱性を確認】
→ 完璧にコントロールされていると思われていた深山統織だが、俺が他者と接触した瞬間、明らかな『殺意』と『嫉妬』を露呈。
ポーカーフェイス維持機能のフリーズを確認。あいつの制御コードを狂わせる「致命的なウイルス」は、俺自身だ。
「あーあ、深山に邪魔されたなー」
科学室からトボトボと出てきた浩也が、間の抜けた声を上げた。
「邪魔された、じゃねえよ! 冗談でも二度と俺にあんな真似すんな! いいか、俺の好きな奴はお前じゃない!」
「なんだよ、急に冷てえじゃん。傷つくわー」
「勝手に傷ついてろ!」
「じゃあさ、お前の好きな奴って、マジで誰なんだよ?」
「……秘密だ、秘密!」
しつこく食い下がってくる浩也を怒鳴り散らしながら、俺は脳内に、しつこいほどに張り付いて消えない深山の冷徹な美貌を、ぶんぶんと首を振って掻き消した。
【フェーズ8:独占欲のハッキング(追記:現在進行中)】
→ ターゲット(侑人)は依然として自身の敗北を認めず、反逆(バグの生成)を試みている。
だが、他者の接触に拒絶反応を示し、必死に僕への弁明を繰り返した時点で、その魂は完全に僕の検疫下(隔離部屋)にある。
計画は極めて順調。次なるフェーズ9への移行準備を開始する。
深山統織は、確実に俺に狂っている。
敵の「恋心」という最大のセキュリティホール(脆弱性)が判明したのだ。今後の戦いやすさは段違いに跳ね上がる。
要するに、あいつの心を強烈に揺さぶってバグを起こさせ、完璧なポーカーフェイスを叩き割ってやればいい。
やられっぱなしで終わると思うなよ。今度は俺が、あいつの得意な「嫉妬心を煽るトラップ」を仕掛けてやる。
だが……。
『神視点』を自負する目で教室を見渡してみるものの、深山の嫉妬を誘発できそうな格好のターゲットがまるで見当たらない。
深山を揺さぶるなら、男のほうが効果的だろう。クラスの男子で、俺が手っ取り早く近づけて、扱いやすい単純な奴──。
「侑人ぉ、聞いてくれよ……! 結衣に突然『もうついていけない』って振られた……!」
背後から、がしっと暑苦しい重みが肩に乗っかってきた。俺の机に突っ伏し、わざとらしく泣き真似を始めたのは浩也だ。
『神視点』でわざわざ探すまでもなかった。
失恋で、ちょうど心が消し炭になっている都合のいい男がここにいる。浩也は少しお気楽すぎるが、単純で、今の俺の計画にはこれ以上ないほど打ってつけだった。
俺は浩也の肩にそっと手を置き、潤んだ瞳をまっすぐに見つめて囁いた。
「大丈夫だ、浩也。お前は少し暑苦しいけど……本当はすごくいい奴だってこと、俺が一番よくわかってるから」
言葉以上に「すべてを包み込む理解者」の空気を演出してやる。
「侑人……! お前、本当にいい奴だな……。俺の味方はお前だけだ……!」
限界突破で感動し、目をキラキラさせている。狙い通り、本当に安直な男だ。
(もう少し深山みたいな、ミステリアスな色気と知性があれば、結衣ちゃんも手放さなかっただろうに……)
──って、俺は何をあいつと比べているんだ!
無意識に思考の基準が「深山」になっている時点で、脳内ハッキングの毒が抜けきっていない。チラチラと隣の席の出方を伺ってしまう悪癖も、いい加減に矯正しなければ。
浩也を本当に惚れさせる必要はない。俺の興味のベクトルが「浩也」に向いていると見せつけ、深山の平常心をむしり取ってやればいいのだ。
あいつだって機械じゃない。必ず嫉妬に狂って、化け物の「素」を晒すはずだ。
それからの数日間、俺は休み時間も放課後も、意識的に浩也と行動を共にした。
ふざけ合うフリをして肩を組み、至近距離で耳打ちをする。張り詰めた隣席の視線を感じたが、俺は徹底的に深山を無視し続けた。
そして、仕掛けたトラップが「最悪の形」で発動した、あの放課後が訪れる。
帰り際、鞄を整理していて筆箱がないことに気づいた。
「侑人、帰ろうぜ」
「あ、悪い。ペンケース、科学室に忘れたかも」
「は? しゃーねーな、付き合ってやるよ」
浩也が嬉しそうに俺の肩を抱き寄せる。体格の良い浩也に密着されると、流石に少し威圧感がある。
放課後の科学室は、遮光カーテンが閉め切られていて薄暗かった。
蛍光灯のスイッチを入れると、無機質な実験机の上にぽつんと俺のペンケースが転がっているのが見え、胸を撫で下ろす。
「お前が忘れ物なんて珍しいな」
「ああ、授業が終わったあとは確かに鞄に入れたはずなんだけど……」
おかしいな、とペンケースに手を伸ばした、その時だった。
「なあ、侑人。……お前、もしかして俺を誘ったの?」
「……は? 何言って──」
唐突に投げかけられた甘い声に、背筋が粟立つ。
危険を察知して一歩退こうとしたが、それより早く、浩也の大きな身体に実験机へと押し込まれ、退路を完全に塞がれた。
「俺さ、結衣と付き合ってたけど……ぶっちゃけ、相手が男でもいけるんだよな」
「……え?」
「だってさ、そういうこと、普通は表立って言えねーじゃん? でも、お前は言ってくれたろ。俺のことを一番理解してるって」
浩也は俺の逃げ道を阻むように机に両手をつき、熱を帯びた顔をぐいっと近づけてくる。
マズい。完全にターゲットの選定と「性的指向」のハッキングを見誤った。
失恋直後の浩也の寂しさと性欲は、俺の不用意なボディタッチによって、あらぬ方向へ暴走してしまっていた。
「いや、あれは友達として、お前を励ます意味で言っただけで──」
顔を背けて強引にすり抜けようとしたが、逃がさないとばかりに首の後ろに熱い手が回される。
「ちょっと待て、浩也……っ!」
身体が強張る。力ずくでは勝てない。
絶体絶命の拒絶感に、俺がぎゅっと目を閉じた、その瞬間だった。
バンッ──!
静まり返った科学室に、けたたましい衝撃音とともにスライドドアが勢いよく叩き開けられた。
「あ……なんか、お取込み中だった?」
「深山……!?」
弾かれたように目を開けると、そこには、いつもの完璧な優等生の微笑を張り付けた深山が立っていた。
「ごめん、僕のことは気にしないで。提出用のプリント、ここに忘れて取りに来ただけだから」
「何でもない」とでも言いたげな淡々としたトーン。だが、その瞳の奥は、凍てつくような冷徹さと、どす黒い殺意で満ち満ちていた。
深山は机の上のプリントを手に取ると、「あった」とだけ呟き、何事もなかったかのように踵を返す。まるで俺を、その場に永久に廃棄するかのように。
その氷のような拒絶に触れた瞬間、頭が真っ白になった。
(──違う、そんな冷たい目で俺を見るな)
「ち、違うんだ、これは……っ!」
俺はなりふり構わず浩也を突き飛ばしていた。
おかしい。深山の嫉妬を煽って「ざまあみろ」と笑う計画だったはずなのに。これでは、まるで俺があいつに嫌われるのを心底恐れている証明ではないか。
気まずそうに頭を掻く浩也を置き去りにし、俺は本能のままに科学室を飛び出し、廊下を歩く深山の背中を追った。
「深山、待て! 違うんだ、あいつが勝手に──!」
必死に弁明する自分の無様に泣きそうになる。深山は、静かに足を止めた。
ゆっくりと振り返ったあいつの顔には、もう笑顔の欠片もなかった。
「木瀬くん」
底冷えのする低い声が、俺の足を縫い付ける。
「『神視点』を持ってる割には、自分自身のことは何も見えていないんだね。君が無自覚に振り撒いているその『無防備さ』に、そろそろ自覚を持った方がいい。……そうじゃないと、次はペンケースだけじゃなく、教科書やノートまで、どこかへ消えてしまうことになるかもしれないから」
「……っ、え……?」
ヒュッと、喉の奥で息が引き攣った。背筋に冷水が走る。
「まさかお前……俺のペンケースをわざと隠して、俺と浩也をあそこに誘い込んだのか……?」
言いながら、己の浅はかさに血の気が引いた。
俺がペンケースを探しにいくことも、浩也がついてくることも、科学室で何が起きるかも──あいつのプログラミング通りだったというのか。
深山は何も答えない。だが、静かに細められたその瞳が、何より冷酷な肯定だった。
これは偶然の忘れ物なんかじゃない。深山が仕組んだ、俺への『お仕置き』だ。
深山がゆっくりと俺に一歩歩み寄る。
その切れ長の両目の奥で、暴風雨のような独占欲と、狂おしいほどの嫉妬の炎が渦巻いているのが見えた。息が詰まるほどの圧力に、一歩も動けない。
「君には、……『大好きな人』がいるんだろ?」
深山は俺の耳元に顔を寄せ、冷たい指先で俺の首筋をすっと撫で下ろした。
その指の冷たさと、耳元にかかる吐息の微かな熱さにゾクリと背筋が凍りつく。
「だったら、その人のことを悲しませるような真似は、慎んだ方がいい。──これ以上、手痛い『罰』が当たらないためにもね」
そう言い残し、深山は今度こそ去っていった。
廊下に取り残された俺の背中には、べったりと冷や汗が張り付き、鳥肌が止まらなかった。
【フェーズ8:防壁(ファイアウォール)の強制起動(完了)】
→ ターゲット(侑人)が他の個体(浩也)へ接触を試みた際、意図的なロスト(ペンケースの隠匿)を発生させ、閉鎖空間でのエラー状況を誘発。
他の個体による「奪取の恐怖」を直接体験させ、排除行動(拒絶)を実行させると同時に、唯一の安全領域が僕(深山)だけであると骨の髄まで刻み込めば成功。
深山の冷徹なカウンターは、狂気としか言いようがないほど恐ろしかった。
けれど、あいつのあの、世界を滅ぼしそうなほどの嫉妬に染まった眼。
あれを見られただけで、俺の勝ちだ。あいつのシステムは、俺という存在のせいで、確実にエラーを起こし始めている。
【侑人のログ:深山システムの脆弱性を確認】
→ 完璧にコントロールされていると思われていた深山統織だが、俺が他者と接触した瞬間、明らかな『殺意』と『嫉妬』を露呈。
ポーカーフェイス維持機能のフリーズを確認。あいつの制御コードを狂わせる「致命的なウイルス」は、俺自身だ。
「あーあ、深山に邪魔されたなー」
科学室からトボトボと出てきた浩也が、間の抜けた声を上げた。
「邪魔された、じゃねえよ! 冗談でも二度と俺にあんな真似すんな! いいか、俺の好きな奴はお前じゃない!」
「なんだよ、急に冷てえじゃん。傷つくわー」
「勝手に傷ついてろ!」
「じゃあさ、お前の好きな奴って、マジで誰なんだよ?」
「……秘密だ、秘密!」
しつこく食い下がってくる浩也を怒鳴り散らしながら、俺は脳内に、しつこいほどに張り付いて消えない深山の冷徹な美貌を、ぶんぶんと首を振って掻き消した。
【フェーズ8:独占欲のハッキング(追記:現在進行中)】
→ ターゲット(侑人)は依然として自身の敗北を認めず、反逆(バグの生成)を試みている。
だが、他者の接触に拒絶反応を示し、必死に僕への弁明を繰り返した時点で、その魂は完全に僕の検疫下(隔離部屋)にある。
計画は極めて順調。次なるフェーズ9への移行準備を開始する。
