修学旅行から無事帰還し、一夜明けた今日。
登校して教室のドアを開けると、すでに深山が自席に座っていた。
だが、あいつの雰囲気に強烈な違和感を感知する。
じっと目を凝らしながら近づくにつれ、明らかに外見の仕様が変更されていることに気づいた。
まさか……元に戻っている……!?
スペックをフル解放していた超絶イケメン深山が、以前の地味で目立たない優等生スタイルへとダウングレードしていたのだ。
そうか、もう俺という本命ターゲットをハック(捕獲)した以上、有象無象(周囲)に向けてスペックを誇示する必要がなくなったというわけか……。
眼鏡の奥で静かに文庫本を広げる姿に、いつもの日常に戻ったような安心感が押し寄せる。
けれど、あの華やかなイメチェン深山がもう見られなくなると思うと、どこか惜しいような寂しさが胸を掠めた。
頭をよぎるのは、修学旅行の夜、深山と二人きりで過ごしたあの熱い時間だ。
俺の想定していた「ちょっと」の何倍もの過剰な物理接触を受け、俺の脳内クロックは完全にオーバーヒート寸前まで跳ね上がった。
結局一睡もさせてもらえず、帰りの新幹線ではいつの間にか深山の肩に頭を預けて爆睡してしまっていたのだ。
「なんだ、イメチェン、やめちゃったのか?」
席に着きながら、俺は必死に平静を装って話しかけた。
眼鏡越しにすっと視線を向けてきた深山と目が合った瞬間、トクンと心臓が跳ね上がる。
「ああ。これからは、このほうが都合がいいからね」
そう言って、深山は俺の芯を射貫くように切れ長の目を細め、不敵に口角を上げた。
……完全にターゲットとしてロックオンされている。
俺が心臓の爆音に言葉を失っていると、
「よお! お前ら相変わらず朝からラブラブか?」
空気を読まないパケットのように浩也が割り込んできて、大音量で声をかけてきた。
「バ、バカ! 声がでかいって!!」
俺は慌てて浩也の口を力任せに塞ぐと、教室の隅へと強引に引きずっていった。
「浩也、頼むから俺たちが付き合ってることは極秘扱い(内緒)にしてくれ!」
「わかってるって。つーか、俺って完全にお前らの愛のキューピッドじゃん? 新幹線の席代わってやったりさ。ホテルでも二人きりにさせてやったろ?」
「……は?」
(……新幹線の席は深山がお前を威圧して分断したんだし、ホテルはカードキーを忘れて締め出されただけだろ!!)
ドヤ顔で胸を張る浩也に頭が痛くなる。
自分の失態と深山の策謀をすべて「自分の気遣い」に変換する無敵のポジティブ脳に、俺はめまいを覚えた。
むしろお前の無敵の勘違いのせいで俺の告白タイムは悉く妨害され、危うく全システム崩壊のバグ(最悪の結末)を迎えるところだったのだ。
「なあ、お前ら二人の写真、深山にちゃんともらったか? めちゃくちゃいい感じに撮れてただろ?」
「……写真?」
思い出した。
テーマパークで深山が強引に浩也へスマホを押し付け、俺たちのツーショットを撮影させていたあのデータか。
「なんだ、まだもらってねーのかよ。お前の彼氏、マジでカッコよく撮ってやったんだから、後でちゃんともらっとけよ!」
「……あ、ああ」
カッコよく写っているのはお前の撮影技術ではなく、100%深山統織という男のビジュアルスペックのおかげだ。
……そうツッコミたい気持ちをグッと押し殺す。
浩也の口から飛び出した『彼氏』という単語に軽く眩暈を覚えつつも、俺の脳内メモリは一気に深山の写真データで埋め尽くされていった。
深山と俺の、初めてのツーショット写真……絶対ほしい……っ!
その衝動に突き動かされるまま、俺は浩也との通信を切り、自席へと戻った。
「深山……っ」
お前との写真を俺にも送信(共有)してくれ!
──そう叫びかけた言葉が喉元でフリーズする。
そんなあからさまな好意(欲求)の出力を即座に認めるのは、俺のプライドが許さなかった。
結局俺は「なんでもない」と濁して引き下がるしかなかった。
だが、授業中も、休み時間も、深山との写真のことが頭から離れない。
あの時、深山が画面を確認した一瞬にチラリと見えた画像。
そこには、芸術品レベルの美貌を誇るイメチェン深山が俺の隣に並んでいた。
考えれば考えるほど、俺の頭の中は深山の写真データで満杯になっていく。
とうとう我慢の限界を迎えた俺は、放課後、誰もいなくなった静かな教室で、窓辺に立つ深山の隣に並び、意を決して切り出した。
「あのさ、修学旅行の写真なんだけど……その、お前と撮ったやつ、俺にも送ってほしいんだけど……」
ポケットの中でスマホを固く握りしめ、深山の顔色を伺う。
ただの友人関係なら何の緊張もなく言えるはずのコマンドなのに、恋人同士になった途端、どうしてこうも意識過剰になってしまうのか。
平常心を装おうとすればするほど、挙動不審なノイズが滲み出てしまう。
「ああ、ほしいの?」
「そりゃ、ほしいよ……」
そもそも俺は、深山が写っている写真データ自体を1枚も持っていないのだ。
ほしいに決まっている。
しかもその写真は、今後二度とお目にかかれないかもしれない『スペックフル解放状態』の激レアデータだ。何としても手に入れたい!
恥ずかしいほど高まってしまった求愛感情を必死に隠しながら、俺はボソリと呟いた。
「そんなに、俺がほしい?」
「……っ、え?」
『俺』? ……ああ、『俺が写った写真』という意味だろうか。それとも──?
深山の言葉の真意を演算する猶予すら与えられず、あいつは一歩踏み込んでくると、俺を壁際へと追い詰めて逃げ場(退路)を完全に遮断した。
「いいよ、あげようか?」
すんなりと了承のコードが返ってきて歓喜しかけたその瞬間、深山の顔が目の前まで急接近した。
ま、待て! これはどう考えても『ほしい』の解釈(定義)が狂っている!!
「待て、深山……! そういう意味じゃ──」
「……いらないの?」
深山が顔の横でスマホの画面を提示してくる。
そこには、超絶イケメンな深山が俺の隣で密着し、甘く微笑んでいる画像……。
反射的に、ゴクリと喉が鳴った。
「……いや、いる! ほしい!」
本能のままそう答えた瞬間、深山の口元がニヤリと吊り上がった。
「っ……あ!」
気づいた時には、もう遅かった。
「そんなに俺がほしいなら、いくらでもあげるよ」
熱っぽい低音とともに囁かれたかと思うと、一瞬で不可逆の深度で唇を奪われた。
甘く重い熱が全身を駆け巡り、顔がカッと沸騰する。
……絶対に確信犯だ……!!
「ずるい……っ」
「ずるくないよ。写真に写ってるのは俺だからね」
そう言って「同じだろ?」とでも言いたげに微笑む深山の強引な屁理屈に、俺は絶句するしかなかった。
まさか、深山がスペックを元に戻したのも、写真データの稀少価値を高めて俺に『ほしい』と言わせるための計算(トラップ)だったのか……!?
一体この男は、どこまで深謀遠慮で狡猾なんだ……!!
「侑人、そんなに焦らなくても、君が望むならいつでもあげるのに……」
そう言って深く抱きすくめられ、俺の頭を優しく撫でる深山。
かなわない。
心を甘く侵食していく、完璧に構築された愛の罠(プログラム)。
俺は諦めたような、けれど胸がいっぱいになるほどの幸福感に包まれながら、そっと深山の背中に手を回して強く抱き返した。
「……あとで、写真『も』くれよ」
降伏の意思表示とともに囁くと、深山は心底嬉しそうに目尻を下げ、俺の髪に愛おしそうに何度も唇を落とした。
放課後の教室に爽やかな秋風が吹き抜け、ふわりと舞い上がった白いカーテンが西日を遮る。
眼鏡の奥で愛おしそうに目を細める深山と、俺の影がひとつに重なっていった。
──恋とは落ちるものではなく、相手の心を完全にハック(占有)するものだ。
【フェーズ21:全システム永久稼働(無限同期・完了)】
・ユーザー(侑人)およびデベロッパー(深山)の双方向認証を完了。
・これより二人の通信(恋心)は、永久ループとして遮断不能な領域へ移行する。
・……エンカウント成功。永遠に愛しているよ、侑人。
──完──
登校して教室のドアを開けると、すでに深山が自席に座っていた。
だが、あいつの雰囲気に強烈な違和感を感知する。
じっと目を凝らしながら近づくにつれ、明らかに外見の仕様が変更されていることに気づいた。
まさか……元に戻っている……!?
スペックをフル解放していた超絶イケメン深山が、以前の地味で目立たない優等生スタイルへとダウングレードしていたのだ。
そうか、もう俺という本命ターゲットをハック(捕獲)した以上、有象無象(周囲)に向けてスペックを誇示する必要がなくなったというわけか……。
眼鏡の奥で静かに文庫本を広げる姿に、いつもの日常に戻ったような安心感が押し寄せる。
けれど、あの華やかなイメチェン深山がもう見られなくなると思うと、どこか惜しいような寂しさが胸を掠めた。
頭をよぎるのは、修学旅行の夜、深山と二人きりで過ごしたあの熱い時間だ。
俺の想定していた「ちょっと」の何倍もの過剰な物理接触を受け、俺の脳内クロックは完全にオーバーヒート寸前まで跳ね上がった。
結局一睡もさせてもらえず、帰りの新幹線ではいつの間にか深山の肩に頭を預けて爆睡してしまっていたのだ。
「なんだ、イメチェン、やめちゃったのか?」
席に着きながら、俺は必死に平静を装って話しかけた。
眼鏡越しにすっと視線を向けてきた深山と目が合った瞬間、トクンと心臓が跳ね上がる。
「ああ。これからは、このほうが都合がいいからね」
そう言って、深山は俺の芯を射貫くように切れ長の目を細め、不敵に口角を上げた。
……完全にターゲットとしてロックオンされている。
俺が心臓の爆音に言葉を失っていると、
「よお! お前ら相変わらず朝からラブラブか?」
空気を読まないパケットのように浩也が割り込んできて、大音量で声をかけてきた。
「バ、バカ! 声がでかいって!!」
俺は慌てて浩也の口を力任せに塞ぐと、教室の隅へと強引に引きずっていった。
「浩也、頼むから俺たちが付き合ってることは極秘扱い(内緒)にしてくれ!」
「わかってるって。つーか、俺って完全にお前らの愛のキューピッドじゃん? 新幹線の席代わってやったりさ。ホテルでも二人きりにさせてやったろ?」
「……は?」
(……新幹線の席は深山がお前を威圧して分断したんだし、ホテルはカードキーを忘れて締め出されただけだろ!!)
ドヤ顔で胸を張る浩也に頭が痛くなる。
自分の失態と深山の策謀をすべて「自分の気遣い」に変換する無敵のポジティブ脳に、俺はめまいを覚えた。
むしろお前の無敵の勘違いのせいで俺の告白タイムは悉く妨害され、危うく全システム崩壊のバグ(最悪の結末)を迎えるところだったのだ。
「なあ、お前ら二人の写真、深山にちゃんともらったか? めちゃくちゃいい感じに撮れてただろ?」
「……写真?」
思い出した。
テーマパークで深山が強引に浩也へスマホを押し付け、俺たちのツーショットを撮影させていたあのデータか。
「なんだ、まだもらってねーのかよ。お前の彼氏、マジでカッコよく撮ってやったんだから、後でちゃんともらっとけよ!」
「……あ、ああ」
カッコよく写っているのはお前の撮影技術ではなく、100%深山統織という男のビジュアルスペックのおかげだ。
……そうツッコミたい気持ちをグッと押し殺す。
浩也の口から飛び出した『彼氏』という単語に軽く眩暈を覚えつつも、俺の脳内メモリは一気に深山の写真データで埋め尽くされていった。
深山と俺の、初めてのツーショット写真……絶対ほしい……っ!
その衝動に突き動かされるまま、俺は浩也との通信を切り、自席へと戻った。
「深山……っ」
お前との写真を俺にも送信(共有)してくれ!
──そう叫びかけた言葉が喉元でフリーズする。
そんなあからさまな好意(欲求)の出力を即座に認めるのは、俺のプライドが許さなかった。
結局俺は「なんでもない」と濁して引き下がるしかなかった。
だが、授業中も、休み時間も、深山との写真のことが頭から離れない。
あの時、深山が画面を確認した一瞬にチラリと見えた画像。
そこには、芸術品レベルの美貌を誇るイメチェン深山が俺の隣に並んでいた。
考えれば考えるほど、俺の頭の中は深山の写真データで満杯になっていく。
とうとう我慢の限界を迎えた俺は、放課後、誰もいなくなった静かな教室で、窓辺に立つ深山の隣に並び、意を決して切り出した。
「あのさ、修学旅行の写真なんだけど……その、お前と撮ったやつ、俺にも送ってほしいんだけど……」
ポケットの中でスマホを固く握りしめ、深山の顔色を伺う。
ただの友人関係なら何の緊張もなく言えるはずのコマンドなのに、恋人同士になった途端、どうしてこうも意識過剰になってしまうのか。
平常心を装おうとすればするほど、挙動不審なノイズが滲み出てしまう。
「ああ、ほしいの?」
「そりゃ、ほしいよ……」
そもそも俺は、深山が写っている写真データ自体を1枚も持っていないのだ。
ほしいに決まっている。
しかもその写真は、今後二度とお目にかかれないかもしれない『スペックフル解放状態』の激レアデータだ。何としても手に入れたい!
恥ずかしいほど高まってしまった求愛感情を必死に隠しながら、俺はボソリと呟いた。
「そんなに、俺がほしい?」
「……っ、え?」
『俺』? ……ああ、『俺が写った写真』という意味だろうか。それとも──?
深山の言葉の真意を演算する猶予すら与えられず、あいつは一歩踏み込んでくると、俺を壁際へと追い詰めて逃げ場(退路)を完全に遮断した。
「いいよ、あげようか?」
すんなりと了承のコードが返ってきて歓喜しかけたその瞬間、深山の顔が目の前まで急接近した。
ま、待て! これはどう考えても『ほしい』の解釈(定義)が狂っている!!
「待て、深山……! そういう意味じゃ──」
「……いらないの?」
深山が顔の横でスマホの画面を提示してくる。
そこには、超絶イケメンな深山が俺の隣で密着し、甘く微笑んでいる画像……。
反射的に、ゴクリと喉が鳴った。
「……いや、いる! ほしい!」
本能のままそう答えた瞬間、深山の口元がニヤリと吊り上がった。
「っ……あ!」
気づいた時には、もう遅かった。
「そんなに俺がほしいなら、いくらでもあげるよ」
熱っぽい低音とともに囁かれたかと思うと、一瞬で不可逆の深度で唇を奪われた。
甘く重い熱が全身を駆け巡り、顔がカッと沸騰する。
……絶対に確信犯だ……!!
「ずるい……っ」
「ずるくないよ。写真に写ってるのは俺だからね」
そう言って「同じだろ?」とでも言いたげに微笑む深山の強引な屁理屈に、俺は絶句するしかなかった。
まさか、深山がスペックを元に戻したのも、写真データの稀少価値を高めて俺に『ほしい』と言わせるための計算(トラップ)だったのか……!?
一体この男は、どこまで深謀遠慮で狡猾なんだ……!!
「侑人、そんなに焦らなくても、君が望むならいつでもあげるのに……」
そう言って深く抱きすくめられ、俺の頭を優しく撫でる深山。
かなわない。
心を甘く侵食していく、完璧に構築された愛の罠(プログラム)。
俺は諦めたような、けれど胸がいっぱいになるほどの幸福感に包まれながら、そっと深山の背中に手を回して強く抱き返した。
「……あとで、写真『も』くれよ」
降伏の意思表示とともに囁くと、深山は心底嬉しそうに目尻を下げ、俺の髪に愛おしそうに何度も唇を落とした。
放課後の教室に爽やかな秋風が吹き抜け、ふわりと舞い上がった白いカーテンが西日を遮る。
眼鏡の奥で愛おしそうに目を細める深山と、俺の影がひとつに重なっていった。
──恋とは落ちるものではなく、相手の心を完全にハック(占有)するものだ。
【フェーズ21:全システム永久稼働(無限同期・完了)】
・ユーザー(侑人)およびデベロッパー(深山)の双方向認証を完了。
・これより二人の通信(恋心)は、永久ループとして遮断不能な領域へ移行する。
・……エンカウント成功。永遠に愛しているよ、侑人。
──完──
