俺を落とす計画、完璧すぎるだろ!~完璧な優等生の『恋愛心理ハック』に抗えそうにない~

慌てて部屋から飛び出したものの、ホテル内は広く、どこを探せばいいのか見当もつかなかった。

人通りの多い場所で告白するはずがない。

向かうべきは、人気の途絶えた静かな場所だ。だが、それはどこだ……?

俺はロビーへ駆け込み、館内案内図を食い入るようにスキャンした。

ホテルの外、階段、非常口……他にどこがある?

──『5階:海を見渡せる展望テラス』。

これ以上にない絶好のエンカウント・スポットだ。

俺は迷うことなく、一直線にそこへ向かって廊下を蹴った。

海沿いの高台に建つホテル。

その5階に位置する重い扉を押し開けた瞬間、潮風が頬を打つ。

日の沈みかけた茜色のテラス。

静寂が満ちるその場所に深山らしきシルエットを見つけた瞬間、胸がカッと灼熱を帯びた。

「深山──」

呼びかけようとした直後、その向こうに浩也の姿を捉えた。

浩也がゆっくりと深山へ距離を詰めていく。

深山は避ける素振りも見せず、潮風に吹かれたまま、無機質な人形のように立ち尽くしていた。

「深山、なあ、いいだろ? 俺、お前のことが好きなんだよ」

風に乗って微かに届いた浩也の声に、全身の毛が逆立つほどの激しい苛立ちが駆け巡る。

深山の声は聞こえない。

その背中はあまりにも無気力で、世界から切り離されたように脆く見えた。

それを承諾と受け取ったのか、浩也がさらに至近距離まで踏み込む。

浩也の手が、深山の肩に触れた──その瞬間。

科学室で強引にキスを迫られた記憶が、フラッシュバックのように脳内を駆け抜けた。

「やめろッ!」

叫んでいた。

二人が一斉にこちらを振り返る。

深山は一瞬だけ目を見開くと、戸惑うように視線を泳がせた。

「深山! さっきは不安にさせるようなこと言ってごめん! あれは誤解だ、全部誤解なんだよ!」

俺は真っ直ぐに深山を見つめ、きっぱりと言い放った。

そしてゆっくりと二人との距離を詰めていく。

「なんだよ侑人、邪魔すんなよ!」

不機嫌そうに眉を寄せる浩也。けれど、そんなものは知ったことか。

「深山はお前には渡さない!」

「……は? 何言ってんだお前……」

「いいか、深山が好きなのはお前じゃない! 本人に直接訊いてみろよ!」

鳴り止まない心臓の爆音を感じながら、浩也を睨みつける。

俺の只事ではない殺気を感じ取ったのか、浩也は初めて焦色を滲ませた。

「……そ、そうなのかよ、深山……?」

不安げに尋ねる浩也。

深山の答えを待つ俺の胸も、壊れそうなほど高鳴っていた。

「……ああ。浩也じゃない」

静かに、けれど明確な拒絶。

深山の表情はまだ固く不安定だったが、はっきりと拒絶された浩也は大きなため息をつき、天を仰いだ。

「なんだよ……俺、てっきりお前が俺のこと好きだと思ってたわ……」

「だから俺はお前に、何度も違うと言ってきただろうが!」

「あー、なんだよもう……。じゃあ深山は誰が好きなんだよ」

浩也の思わぬ追撃に、一瞬で場が静まり返る。

俺がフォローの言葉に詰まっていると、深山は例のごとく口を閉ざし、チラリとこちらを見て微かに頬を朱に染めた。

その強烈な違和感に、流石のポンコツ受信感度の浩也も気づいたらしい。

ハッとしたように目を見開くと、

「……あ、ああ……あーーーっ! そういうことかよ!」

すべてを理解したように、何度も深く頷いた。

「なんだよ……そういうことはもっと早く言えよな!」

捨て台詞を残すと、「邪魔者は退散だな」と、浩也にしては珍しく空気を読んだ捨てゼリフを残して去っていった。

テラスに残された、俺と深山。

潮風の冷たさをかき消すほどの熱い鼓動が、全身を駆け巡る。

「……深山」

俺は、まだ不安げに瞳を揺らす目の前の男をじっと見つめた。

今までの深山とのやり取りが、走馬灯のように脳裏を駆け抜ける。

まったく、世界一不器用で、回りくどいアプローチだった。

でも深山、お前のその狂ったシステムは、ここで完全終了だ。

そして──二人で、新しく始めよう。

俺は息を大きく吸い込み、魂の底からアンロックコードを叫んだ。

「深山──俺はお前が、好きだ────!!」

一瞬の静寂。

直後、深山は感極まったように空を見上げ、深く長く息を吐き出した。

その瞳が、儚げに潤んでいるのが見えた。

俺の気持ちは、届いただろうか。

深山が言葉を発するまで、永久のようにも思える静寂が流れた。

「……侑人」

再び俺に向けられた視線は、はっきりとした熱を帯び、俺を捕らえて放さなかった。

スッと間合いを詰めてきた深山に、もう迷いや拒絶の影は一律も存在しなかった。

強烈な力で引き寄せられ、そのまま分厚い胸の中へと深く抱きとめられる。

「……告白、遅すぎ」

「……は?」

え、嘘だろ。

こっちは人生最大の勇気を振り絞って、涙目になりながら告白したっていうのに、開口一番が文句!?

そこは普通『俺も好きだ』だろ……!

「自分から告白できなかったお前に言われたくないんだけど!?」

俺も嫌味たっぷりに言い返す。

お互いを骨が軋むほど強く抱きしめ合い、そのリアルな体温を確かめ合った。

言ってほしい。その声で、俺にも『好きだ』と言ってほしい。

いや、言わせなきゃダメだ。

ここで完全に吐き出させなければ、システムの補助電源が入ったまま、こいつは一生意地を張って「好きだ」と言ってくれなくなるかもしれない。

胸を焼き尽くすほどの渇望に駆られ、俺は完全にシステムをフリーズさせるべく、深山の胸ぐらを引き寄せてその顔を覗き込んだ。

「欲しいなら──お前も、ちゃんと言えよ」

その瞬間、深山の目の色が一変した。

そして、その薄い口元がニヤリと吊り上がる。

まさか……はめられた……!?

気づいた時には、もう遅かった。

「侑人、好きだよ」

あっさりと甘い低音で言い放った深山は、自ら差し出してしまった俺の無防備な唇を、いとも簡単に奪い去った。

潮風の冷たさを一瞬で吹き飛ばす、あいつの熱い体温と吐息。

長い指が俺の後頭部を強く固定し、今まで必死に隠していた狂おしいほどの愛で満たしていく深山のキスに、俺の全身の力が抜けていく。

(……っ、ん……ずるい、お前……っ!!)

最後の最後まで、完膚なきまでに叩きのめされた……!

「侑人……好きすぎて、狂いそうだ」

「黙れ! もう最低だ! お前なんて大嫌いだーーーー!!」

深山の腕という排的な檻に拘束されたまま、俺の悲痛な悲鳴が、秋の静かな夜空へ空しく響き渡ったのだった。

【フェーズ19:アンロックコード(愛の告白)の受信完了と永久同期(リンク)の確立】
・ターゲット(侑人)からの「ダイレクト・アクセス(告白)」を受信。
・双方向の認証が完了し、開発者(深山)のトラウマおよび排的な防壁の完全デバッグに成功。
・これより全システムを最新仕様へと移行し、二人だけの排的な同期(永遠の恋人関係)を永続実行する。
・……もう二度と、君をここから逃がさないよ、侑人。