『俺から告白させる』
そんな単純極まりない勝利の方程式(プログラミング)に、なぜ今まで気づけなかったのだろう。
だが、隠された仕様(ルール)が完全に解析された今、俺が執るべきコマンドはただ一つ。
────俺の側から、深山へ直接『告白』することだ。
同性の男相手にガチの愛を告白するなんて、以前の俺の人生設計(ログ)には1ビットも存在しない未来だった。
けれど、脳内のメインメモリをあいつという強力なウイルスで完全に占有されてしまった今の俺に、それを拒否するアクセス権など残されているはずもなかった。
だが、いざ能動的に告白しようとすると、想像を絶するほどの実行障壁(プレッシャー)が立ちはだかる。
生まれて初めての告白なのだから尚更だ。
相手が俺に狂おしいほどの好意を抱いていると判明していても、自分から思いを打ち明けることがこれほど心臓のクロック数を跳ね上げさせるとは……。
今まで恋愛相談に訪れたモブたちに、ドヤ顔で軽々しく告白を推奨していた過去の自分を力任せに殴り飛ばしたくなった。
その上、イメチェン(スペック開放)によって陽キャ属性まで獲得した深山の引力は、すでに他校の領域にまで被害を拡大させている。
クラス内では男女の境界を越えて人気を独占し、以前のように気軽にアクセスできる存在ではなくなっていた。
……これじゃ、告白のタイミングすら掴めねーだろ……。
あの空き教室で深山に抱きしめられた、あの絶対的エンカウントの瞬間にタイムリープしてやり直したいと切実に後悔した。
そんな焦燥に駆られていたある日のこと、高校生活最大のイベントである修学旅行の班(部屋)決めが行われた。
2泊3日で大阪と京都を巡る一大イベント。
3名1室という最小単位の隔離空間。
深山というターゲットを同じ領域(部屋)に固定しない手はない。
「深山、俺と一緒の部屋になろう!」
俺は深山のすぐ後ろの席という特権を最大限に利用し、衝動的に声をかけた。
深山は一瞬、驚いたように切れ長の眉を跳ね上げると、値踏みするような冷徹な視線でじっと俺の顔を覗き込んできた。
まるで、俺からのファイナルアンサーを待ち構えているかのような痛いほどの緊張感が空気を支配する。
断られるのだろうか──一瞬、冷や汗が背筋を伝った、その時。
「……いいよ、侑人」
耳に滑り込んできたリアルな低音に、心臓を直接鷲掴みにされたかのような強烈な衝撃が駆け巡る。
受け入れられた高揚感と安心感に浸りかけた、まさにその刹那だった。
「なあ侑人、俺も入れてくれよ!」
空気を読まないパケットのように割り込んできたのは、浩也だった。
「……あ、いや……えっと……俺はいいけど、深山が……」
俺は必死に目くばせしながら深山のご機嫌を伺った。
なにせ深山は、過去のログからも浩也に対して強烈な拒絶(殺意)を抱いている。
浩也が乱入してきたら、深山がシステムごと離脱してしまうのではないかと冷や冷やしていると、浩也はさらに距離を詰めてくる。
「なあ、いいだろ、深山?」
強引すぎるアプローチに対し、深山は冷ややかな仮面を崩さないまま、「……ああ」と静かに小さく頷いた。
その深山の瞳の奥で、浩也に対する無機質な処刑ログが走ったのを、俺は確かに察知していた。
こうして、俺・深山・浩也という、爆弾を抱えた最悪に気まずい部屋割り(環境)が確定してしまったのだ。
その日の放課後。
「侑人、一緒に帰ろうぜ」
校門を出て並んで歩いていると、浩也が「俺さ、好きな人ができたんだよ」と事も無げにカミングアウトしてきた。
正直、浩也の凡庸な色恋沙汰など俺の脳内リソースの1ビットすら割く価値はない。
普段なら「どうせ〇〇ちゃんだろ」と瞬時に特定してやるところだが、今は自分の告白計画で脳がパンク寸前だったため、「誰?」と尋ねる余裕すら『神視点』のプライドが許さなかった。
「へぇー。それで?」
「修学旅行の時に告ろうと思ってさ」
……誰も考えることは同じか。
俺もあの京都の夜に、深山へ直接ハッキング(告白)を仕掛けるつもりでいた。
「なあ、どんなシチュエーションで告れば成功率高いと思う?」
「……いや、言い方の前に、その相手はお前に少しでも関心を示してるのか?」
「当たり前だろ! 最近めちゃくちゃ目が合うんだよ。これって完全に俺に脈アリのシグナルだろ?」
「……まあ、そうだな」
頻繁に視線が交差するなら、同じクラスの生徒である可能性が高い。
だが、浩也にそんな熱っぽい視線を送る女子などいただろうか。
いくら深山ウイルスで俺の『神視点』の精度が低下しているとはいえ、そんな単純なフラグを見落とすはずがない。
「なあ、その好きな奴って、誰なんだ?」
他クラスの女子かもしれないと推測した瞬間、浩也は周囲を過剰に警戒し、俺の耳元へそっと顔を近づけて囁いた。
「深山だよ」
「…………っ!?」
一瞬、強烈な眩暈がして視界がぐにゃりと歪んだ。
脳内のデータ処理が限界値を突破し、エラーアラートが狂ったように鳴り響く。
こいつ……完全に壊滅的なバグ(勘違い)を起こしている……!!
深山が浩也に視線を向けていた理由──それは、俺の隣でヘラヘラしている浩也に対する【純度100%の凄惨な嫉妬と殺意】だ。
それを、このおめでたい男は「自分への愛の合図」だと地球規模の誤認を起こしているのだ!
「……いや、お前、さすがに深山がお前を好きなわけが……」
「侑人は分かってないなぁ。お前『男同士はありえない』とか思ってるだろ? だが俺は察したんだよ。あいつ、イメチェンしてモテまくってるのに誰も相手にしないだろ? それってつまり、女に興味がないって証拠なんだよ!」
……ロジックの半分は合っているのがタチが悪い。
だが、『殺意』を『好意』と受信するこいつのバグった受信感度は一体どうなっているんだ……!
「あのな、だからって深山がお前を好きなんて可能性は、百パーセント……いや、一千パーセント絶対にない!!」
「いや、絶対に深山は俺に気がある。あいつのあの熱い視線は本物だね。お前の『神視点』も、案外アテにならないな」
勝利を確信した浩也のドヤ顔に、激しい頭痛と苛立ちが込み上げる。
だが、これ以上ムキになって否定すれば、余計な疑念を持たれるだけだ。今日のところは撤退するしかない。
それにしても、とんでもないエマージェンシーが発生してしまった。
世界一凶悪な勘違い野郎と、狂おしい愛を秘めた深山統織を、同じ密室に閉じ込めることになってしまったのだから。
修学旅行という名の決戦の地で訪れるであろう最悪のバグに、俺はただ戦慄するしかなかった。
【侑人のログ:神視点の再起動と想定外の緊急事態(エマージェンシー)】
・深山の真の正体(臆病な攻略対象)を暴き、逆ハック(自分からの告白)を決意。
・しかし、モブ(浩也)の壊滅的な勘違い参入により、修学旅行での「二人の排他的告白計画」に重大なノイズが発生。
・……何が何でも深山を死守し、この手で完全にハック(告白)する。
そんな単純極まりない勝利の方程式(プログラミング)に、なぜ今まで気づけなかったのだろう。
だが、隠された仕様(ルール)が完全に解析された今、俺が執るべきコマンドはただ一つ。
────俺の側から、深山へ直接『告白』することだ。
同性の男相手にガチの愛を告白するなんて、以前の俺の人生設計(ログ)には1ビットも存在しない未来だった。
けれど、脳内のメインメモリをあいつという強力なウイルスで完全に占有されてしまった今の俺に、それを拒否するアクセス権など残されているはずもなかった。
だが、いざ能動的に告白しようとすると、想像を絶するほどの実行障壁(プレッシャー)が立ちはだかる。
生まれて初めての告白なのだから尚更だ。
相手が俺に狂おしいほどの好意を抱いていると判明していても、自分から思いを打ち明けることがこれほど心臓のクロック数を跳ね上げさせるとは……。
今まで恋愛相談に訪れたモブたちに、ドヤ顔で軽々しく告白を推奨していた過去の自分を力任せに殴り飛ばしたくなった。
その上、イメチェン(スペック開放)によって陽キャ属性まで獲得した深山の引力は、すでに他校の領域にまで被害を拡大させている。
クラス内では男女の境界を越えて人気を独占し、以前のように気軽にアクセスできる存在ではなくなっていた。
……これじゃ、告白のタイミングすら掴めねーだろ……。
あの空き教室で深山に抱きしめられた、あの絶対的エンカウントの瞬間にタイムリープしてやり直したいと切実に後悔した。
そんな焦燥に駆られていたある日のこと、高校生活最大のイベントである修学旅行の班(部屋)決めが行われた。
2泊3日で大阪と京都を巡る一大イベント。
3名1室という最小単位の隔離空間。
深山というターゲットを同じ領域(部屋)に固定しない手はない。
「深山、俺と一緒の部屋になろう!」
俺は深山のすぐ後ろの席という特権を最大限に利用し、衝動的に声をかけた。
深山は一瞬、驚いたように切れ長の眉を跳ね上げると、値踏みするような冷徹な視線でじっと俺の顔を覗き込んできた。
まるで、俺からのファイナルアンサーを待ち構えているかのような痛いほどの緊張感が空気を支配する。
断られるのだろうか──一瞬、冷や汗が背筋を伝った、その時。
「……いいよ、侑人」
耳に滑り込んできたリアルな低音に、心臓を直接鷲掴みにされたかのような強烈な衝撃が駆け巡る。
受け入れられた高揚感と安心感に浸りかけた、まさにその刹那だった。
「なあ侑人、俺も入れてくれよ!」
空気を読まないパケットのように割り込んできたのは、浩也だった。
「……あ、いや……えっと……俺はいいけど、深山が……」
俺は必死に目くばせしながら深山のご機嫌を伺った。
なにせ深山は、過去のログからも浩也に対して強烈な拒絶(殺意)を抱いている。
浩也が乱入してきたら、深山がシステムごと離脱してしまうのではないかと冷や冷やしていると、浩也はさらに距離を詰めてくる。
「なあ、いいだろ、深山?」
強引すぎるアプローチに対し、深山は冷ややかな仮面を崩さないまま、「……ああ」と静かに小さく頷いた。
その深山の瞳の奥で、浩也に対する無機質な処刑ログが走ったのを、俺は確かに察知していた。
こうして、俺・深山・浩也という、爆弾を抱えた最悪に気まずい部屋割り(環境)が確定してしまったのだ。
その日の放課後。
「侑人、一緒に帰ろうぜ」
校門を出て並んで歩いていると、浩也が「俺さ、好きな人ができたんだよ」と事も無げにカミングアウトしてきた。
正直、浩也の凡庸な色恋沙汰など俺の脳内リソースの1ビットすら割く価値はない。
普段なら「どうせ〇〇ちゃんだろ」と瞬時に特定してやるところだが、今は自分の告白計画で脳がパンク寸前だったため、「誰?」と尋ねる余裕すら『神視点』のプライドが許さなかった。
「へぇー。それで?」
「修学旅行の時に告ろうと思ってさ」
……誰も考えることは同じか。
俺もあの京都の夜に、深山へ直接ハッキング(告白)を仕掛けるつもりでいた。
「なあ、どんなシチュエーションで告れば成功率高いと思う?」
「……いや、言い方の前に、その相手はお前に少しでも関心を示してるのか?」
「当たり前だろ! 最近めちゃくちゃ目が合うんだよ。これって完全に俺に脈アリのシグナルだろ?」
「……まあ、そうだな」
頻繁に視線が交差するなら、同じクラスの生徒である可能性が高い。
だが、浩也にそんな熱っぽい視線を送る女子などいただろうか。
いくら深山ウイルスで俺の『神視点』の精度が低下しているとはいえ、そんな単純なフラグを見落とすはずがない。
「なあ、その好きな奴って、誰なんだ?」
他クラスの女子かもしれないと推測した瞬間、浩也は周囲を過剰に警戒し、俺の耳元へそっと顔を近づけて囁いた。
「深山だよ」
「…………っ!?」
一瞬、強烈な眩暈がして視界がぐにゃりと歪んだ。
脳内のデータ処理が限界値を突破し、エラーアラートが狂ったように鳴り響く。
こいつ……完全に壊滅的なバグ(勘違い)を起こしている……!!
深山が浩也に視線を向けていた理由──それは、俺の隣でヘラヘラしている浩也に対する【純度100%の凄惨な嫉妬と殺意】だ。
それを、このおめでたい男は「自分への愛の合図」だと地球規模の誤認を起こしているのだ!
「……いや、お前、さすがに深山がお前を好きなわけが……」
「侑人は分かってないなぁ。お前『男同士はありえない』とか思ってるだろ? だが俺は察したんだよ。あいつ、イメチェンしてモテまくってるのに誰も相手にしないだろ? それってつまり、女に興味がないって証拠なんだよ!」
……ロジックの半分は合っているのがタチが悪い。
だが、『殺意』を『好意』と受信するこいつのバグった受信感度は一体どうなっているんだ……!
「あのな、だからって深山がお前を好きなんて可能性は、百パーセント……いや、一千パーセント絶対にない!!」
「いや、絶対に深山は俺に気がある。あいつのあの熱い視線は本物だね。お前の『神視点』も、案外アテにならないな」
勝利を確信した浩也のドヤ顔に、激しい頭痛と苛立ちが込み上げる。
だが、これ以上ムキになって否定すれば、余計な疑念を持たれるだけだ。今日のところは撤退するしかない。
それにしても、とんでもないエマージェンシーが発生してしまった。
世界一凶悪な勘違い野郎と、狂おしい愛を秘めた深山統織を、同じ密室に閉じ込めることになってしまったのだから。
修学旅行という名の決戦の地で訪れるであろう最悪のバグに、俺はただ戦慄するしかなかった。
【侑人のログ:神視点の再起動と想定外の緊急事態(エマージェンシー)】
・深山の真の正体(臆病な攻略対象)を暴き、逆ハック(自分からの告白)を決意。
・しかし、モブ(浩也)の壊滅的な勘違い参入により、修学旅行での「二人の排他的告白計画」に重大なノイズが発生。
・……何が何でも深山を死守し、この手で完全にハック(告白)する。
