俺を落とす計画、完璧すぎるだろ!~完璧な優等生の『恋愛心理ハック』に抗えそうにない~

僕は侑人を『責任』という脆弱性(弱み)で縛り付け、プライベート領域への引き留めに成功した。

悔しさに顔を歪める侑人を見つめながら、僕の心は切なさで軋んでいた。

そんなに僕を拒絶しないでくれ。

僕はただ、もう少しだけ、君と同じ空間で同期(リンク)していたいだけなんだ……。

「指一本触れるな」

そう突き放された瞬間、過去のトラウマが脳裏をよぎり、息が詰まるような痛みが胸を刺した。

僕はもともと侑人に物理的な危害を加える気など微塵もなかった。

侑人がそばにいて、その存在を検知し続けられれば、それだけでシステムは安定するはずだった。

「わかったよ、約束する」

その言葉に偽りはなかった。

けれど、侑人は僕の提示したログを信じず、リビングで寝ると言い出した。

徹底的にファイアウォールを分厚くし、距離を置こうとする侑人に、消えない寂しさを感知せずにはいられない。

何より──まだ侑人に、それほどの拒絶を示す「リソースの余裕」が残っていること自体が、計算違いだった。

本来のシミュレーションなら、精神的負荷が限界を迎え、いつ告白されてもおかしくない段階だったのだ。

僕のプログラミングに甘さがあった。

完膚なきまでに、侑人の精神防御壁を叩き潰さなければならない。

情けを捨て、残酷なまでに追い詰めなければ、プライドの高い『神視点』は「告白」というチェックメイトの決断を下してはくれないのだ。

そう割り切った瞬間、僕は侑人に対するぬるい感傷のコードをすべて破棄した。

僕は侑人を自室のベッドへと誘い込み、退路を断って追い詰めた。

ここからは、緻密に構築した最低限の接触で、侑人を精神的に生殺しにする【ハングアップフェーズ】の実行だ。

冷徹なまでの至近距離への接近、そして徹底した寸止めムーブ。

僕の熱を欲しがり、もどかしそうに寝返りを繰り返す侑人を間近で見つめながら、何度理性が焼き切れそうになったか分からない。

衣服越しに伝わる熱い体温。

今すぐその細い腰を抱き寄せてしまいたい衝動に駆られ、僕は布団の中で拳を強く握りしめた。

爪が手のひらに食い込み、血が滲むような痛みが、かろうじて僕の理性を繋ぎ止めていた。

(……だめだ。触れたら僕が破滅する……!)

一度でも境界線を超えてしまえば、僕のほうが許容量(キャパシティ)を超えて崩壊し、侑人を強引に壊してしまう。

そうなれば、侑人は一生、僕に告白してくれなくなるだろう。

「侑人……」

耳元で低く囁くたび、侑人の肩がビクッと跳ねる。

その甘い反応に脳が痺れ、自分の声が震えてしまうのを必死で押し殺した。

卑劣だと分かっていても、君の脳内を僕の名前だけで埋め尽くしたかった。

シーツの中で悶える侑人の耳元で、何度もその名を反芻した。

この低音が、僕という存在を強制起動するトリガー(呪縛)として機能するように。

あいつの脳内リソースの最深部に、消去不能なデータとして執拗に刻み込まれるように、何度も名前を囁き続けた。

こんな卑劣な手段でしか繋ぎ止められない自分を最低だと罵るログが走る。

それでも、拒絶を恐れる臆病な自分を、どうすることもできなかった。

翌朝。

玄関先で侑人を送り出す瞬間、どす黒い罪悪感が沸き起こった。

これから始まる長い夏休みの間中、侑人は僕への飢餓感とバグに苦しみ続けることになる。

「いつでも連絡してよ」

去り際にそう告げたものの、プライドの高い侑人が自ら連絡してくる可能性は限りなく低いことは分かっていた。

いや──むしろ、それを分かっていたからこそ、僕はそのセリフを吐いたのだ。

会えない時間そのものをウイルスとして機能させ、侑人の脳内で僕への渇望を最大化させるための、これが夏休み期間専用の最低最悪のバックグラウンド・トラップ。

(……ごめん、侑人。でも、僕だってこの夏休み中、君に会えない絶望で死にそうなんだ……)

僕は静まり返った暗闇の玄関で、力なく壁に背をもたせかけて崩れ落ちた。

【エラーログ6:寸止め処理(ハングアップ)の完了と長期的トラップの展開】
・ターゲット(侑人)の精神防御壁に対する「非接触型」ハッキングを完了。
・接触欲求の強制抑圧による開発者(深山)の物理的・精神的過負荷。
・……ごめん、侑人。この夏休み、僕を想って狂いそうになる君と同じくらい、僕も君に触れられない飢餓で死んでいくんだ。