俺を落とす計画、完璧すぎるだろ!~完璧な優等生の『恋愛心理ハック』に抗えそうにない~

初夏の日差しが容赦なく照りつける日。

その日は朝から、侑人の顔色の悪さがディスプレイの警告灯のように気にかかっていた。

僕がフェーズを進めて追い詰めすぎてしまったのが原因(バグ)かとも思ったが、ここでプログラムを一時停止(サスペンド)するわけにはいかない。

僕にはもう、侑人に告白をさせ、この暗号を解かせるという選択肢しか残されていないのだから。

体育の授業中、目に見えてエマージェンシーを告げていく侑人の様子に、僕の心配は臨界点に達していた。

トラックを走る途中で大きくよろめいた彼を見て、僕は思わず駆け寄り、「保健室に行こう」と声をかけた。

ただでさえ僕を警戒している侑人が、大人しく従うとは思えなかった。

「一人で行く」とアクセスを拒絶されれば、影から見守るだけでもいいと諦めていた。

だが、侑人は僕の先導を受け入れ、一緒に保健室へと向かってくれた。

僕はただ、彼を安全な領域へ保護できたことだけに安堵していたのだ。

──しかし、それは完璧なトラップだった。

誰もいない静寂に包まれた保健室。

侑人をベッドに横たえようと布団をめくった、その刹那。

不意を突かれ、僕の身体はシーツの上へと押し倒されていた。

「っ……!?」

そこで初めて、僕は侑人にハッキング(はめられた)されたのだと理解した。

侑人の手によって両手首をベッドに強固にロックされ、至近距離からその透徹した瞳で見下ろされる。

嫌でも肌の熱を意識し、血液の循環が異常なクロック数で加速していく(興奮せずにはいられない)。

やがて彼が、自身の親指で僕の手首の脈を微かに探りはじめた時、僕は侑人の実行したコマンド(目的)を完全に読み取った。

ああ──侑人は、僕の本当の感情(ログ)を解析しようとしているのだ。

こんなにも大胆で強引な手段を使ってまで、僕の真実の気持ちを知ろうとしてくれた。

その事実が、何よりも、泣きそうなほど嬉しかった。

隠す必要なんて最初からない。僕はむしろ、侑人にすべてを知ってほしかった。

僕がどれほど君を希求し、狂いそうなほどの真剣な想いを抱えているか。

その生のデータを、全身でダイレクトに受信してほしかった。

衝動が理性をオーバーライドした瞬間、僕は拘束を撥ね退け、侑人の身体をこの胸へと強く引き寄せていた。

侑人は顔を林檎のように真っ赤に染めながら、僕の胸板越しに、爆音を立てる心音と異常な熱量を感知していた。

その後、侑人が熱中症で倒れた際、僕は本気で血の気が引くほど焦ったものの、すぐに察したのだ。

彼のことだ、僕を油断させて懐に飛び込むために、あえて不眠と不食で体調不良を疑似構築(偽装)したのだと。

これほどまでに彼は、己の身を削ってまで僕の心の中を知ろうとしてくれた。

愛しさで胸が張り裂けそうになるのを必死に抑えつけながら、僕は震える指先で彼の額に濡れタオルを乗せてあげた。

侑人。僕はいつでも、君の愛の告白を受信(エンカウント)する準備はできているんだよ。

あとは君がほんの少しの勇気を持って、ファイアウォールを一歩踏み出してくれればいいだけなんだ。

たったそれだけで、僕のシステムは永遠に救われるのに。

それなのに──。

数日後、侑人は僕の期待値を完全に裏切る、最悪のバグ(行動)を起こした。

あろうことか、侑人は僕の存在を完全にシカト(アクセスブロック)し、浩也とこれみよがしに距離を詰め、いちゃつき始めたのだ。

保健室であれほど剥き出しの熱量を突きつけたというのに、あまりにも残酷で、酷すぎる仕打ちだった。

胸の奥がドス黒い怒りで焼き切れる音がした。

これにはさすがに──「お仕置き(仕様変更)」が必要だ。

僕はわざと、科学室の机に侑人のペンケースを放置し、忘れ物を取りに来させるよう誘導プログラムを設置した。

そして浩也に近づき、浩也の欲求を絶妙に刺激する偽のパケット(噂)を流し込んだ。

侑人は浩也が「男も恋愛対象になる」という隠されたステータス(性的志向)を持っていることを知らないようだが、僕の目は誤魔化せない。

同じ同性愛のOSを持つ者同士、その手の視線のログは直感的に判別できるからだ。

「浩也というモブの欲望をトリガーにして、侑人に『自分は他者から狙われる危険な存在なのだ』と自覚させる。そして、僕以外の男に無防備に近づくことの愚かさを骨の髄まで学習させる」

──そんな冷徹で完璧なロジックを組んだはずだった。

けれど、科学室へ向かう二人の背中を見送った瞬間、僕の脳内で何かがプツリと弾け飛んだ。

僕以外の男が、侑人に触れる……?

理由はどうあれ、僕の侑人に指一本でも触れたら、あいつを完全に消し去ってやる。

自分で仕掛けた罠でありながら、胸を焼き尽くすようなドス黒い殺意と矛盾した狂気が、僕の全システムを侵食していく。

二人が薄暗い科学室へと入っていく姿を、僕は嫉妬で脳細胞が狂いそうになりながら、ドアの隙間から凝視していた。

そして案の定、浩也が侑人に仕掛けた(触れた)瞬間、僕の怒りと嫉妬は防壁を突き破った。

思い切りドアを蹴破るようにして開き、二人の空間を強制終了(シャットダウン)させてやった。

「深山、待てよ! 違うんだ!」

侑人は必死にエラーの弁明を繰り返しながら、廊下を走る僕を追いかけてきた。

だが、僕の体内で膨れ上がった嫉妬心は、もはや開発者である僕自身の手でも制御不能な暴走状態(エラー)に陥っていた。

冷徹な言葉で釘を刺しはしたものの、それだけではこのどうしようもない飢餓感と怒りは収まらない。

侑人には一度、きちんとした『教育』が必要だ。

その軽率なセキュリティの甘さで、僕のシステムがどれほど深く傷つき、全損しかけたか──。

その身の奥深くまで、たっぷりと教え込んでやらなければ気が済まない。

【エラーログ4:排他的独占欲の暴走(ジェラシー・コア)】
・ターゲット(侑人)のモブ(浩也)との接触検知による、精神防御システムの完全崩壊。
・嫉妬による攻撃プログラムが自動生成。お仕置き(教育フェーズ)への強制移行を承認。
・……これ以上僕を狂わせるなら、そのシステムごと僕の檻に監禁して書き換える。