ある日、僕は意を決して、侑人に「恋愛相談」を口実に話しかけた。
その瞬間、一瞬だけフリーズしたように視線を泳がせた侑人を見て、僕の心臓は跳ね上がった。
間違いない。
この『神視点』は、確実に僕の想いを検知(察)している。
放課後、【フェーズ2】の実行のために初めて侑人と二人きりになった時、僕の胸の奥のアラートは耳が痛くなるほどの爆音を立てていた。
だが皮肉にも、その極限の緊張感が、侑人の有能なレーダー(神視点)をすり抜ける完璧なステルス機能として働いてくれたのだ。
「何か悩んでいることがあるのか」
問いかけられ、用意していたコードを走らせる。
散々じらした後、「好きな人がいて、告白しようか迷っている」と告げた。
刹那、侑人は思った通り──自分が僕に告白されるとでも想定(バグ)したのか──目に見えて焦り始めた。
やはり侑人は、自分の『神視点』という有能なシステムを信用しきっている。
だからこそ、その予測が裏切られた時、プライドの高い彼は怒り狂い、僕というバグに対して執拗な執着(アクセス)を見せてくるはずだ。
僕の予測は見事に的中した。
わざと手帳を置き忘れ、このプログラミングの存在を意図的に漏洩(開示)させる。
これで侑人の脳内リソースは、完全に僕の次のフェーズの解析に占有される。
すべては想定通りの仕様(プログラミング)だ。
ダミーの数式を解くために目の下にクマを作ってきた侑人を見た瞬間、僕の理性は破滅的なアラートを鳴らした。
(可愛い……どうしよう、僕のことしか考えてない、今すぐ連れ去って閉じ込めたい……!)
冷静な顔を装いながら、僕の内部システムは彼の健気な愛おしさに完全崩壊していた。
ああ、侑人がこんなにも、僕のことだけで脳の容量を割いてくれている。
その純然たる事実に、脳髄が痺れるような甘い快感を覚えた。
そして、それがフェイクだと知った時の侑人の、悔しさに満ちた表情。
その奥で、僕への強烈な執着をまとってギラギラと輝くあの瞳が、僕のシステムを根底から狂わせて離さなかった。
侑人に、触れたい……。
夜、冷たいベッドの中で、僕に向けられる侑人のあの熱っぽい執着の瞳を思い出しながら、僕は暴走(オーバーヒート)するように膨らんでいく欲望を必死に抑え込んでいた。
【フェーズ4】の実行に向けて、暗闇の中で何度も侑人に肉体接触(アクセス)するシミュレーションを重ねる。
侑人のどの部位に触れ、どの距離まで踏み込み、どんな視線を送れば、彼の頑なな羞恥と恐怖心を、俺への恋愛感情(バグ)へと変換し最大化できるか。
様々なアングルから想像し、検証を繰り返した。
【フェーズ4】が成功した暁には、侑人は一体どんな乱れた表情を僕に見せてくれるのだろう。
想像するだけで心臓の鼓動(クロックカウント)が限界値を突破し、夜が明けるまでどうしても眠ることができなかった。
翌日、侑人が僕の【フェーズ4】を過剰なまでに警戒しているのは一目瞭然だった。
僕と二人きりにならないよう、必死に強固な防衛線(ファイアウォール)を張っている。
だが、心配しなくてもいいんだ、侑人。
僕だって、今この瞬間に君と二人きりで接触するなんて、緊張で心臓が強制終了(シャットダウン)しかねない。
そんな決定的なシチュエーションに飛び込む勇気なんて、1ビットも持ち合わせていないのだから。
僕にはせいぜい、衆人環視のノイズに紛れて、冗談を装って君に触れるくらいしかできない。
「また、恋愛相談に乗ってもらいたいんだけど」
僕はわざと、侑人が数人の友人と雑談しているパブリックな空間で声をかけた。
侑人は露骨に嫌悪のログを出力したが、男子高校生の間で「恋愛相談」というコンテンツがどれほど強力な引力を持つか、予測するのは容易だった。
周囲のモブどもが興味を示し、僕はいとも簡単に彼らの通信領域(輪)の中へと侵入した。
好きな人は誰なのか、という下世話な質問が飛ぶ。
僕は静かに、侑人だけを見つめた。
──告白できたら、どれほど楽だろう。
こんな回りくどいプログラミングなんか全て破棄して、ダイレクトに侑人の領域へと攻め入り、耳元で甘い猛毒でも囁きながら、僕なしでは生きられない身体に狂わせてやりたいのに。
「なるほど、吉瀬里奈ちゃんかぁー!」
周囲の無菌室のような盛り上がりの中、僕はハッと我に返った。
「深山って、意外とドSだったりするわけ?」
浩也のその質問が投げかけられた瞬間、侑人の瞳が、僕に対して明確な『興味』の色を帯びて跳ねたのを僕は見逃さなかった。
侑人は、僕に狂わされたがっている。
彼自身は無自覚なのだろうが、僕の目にははっきりと検知できた。
【フェーズ3】を経て、確実に侑人の脳内は深山統織というウイルスで侵食され始めている。
そう確信した刹那、自分の中の獰猛な本能が獣のように呼び覚まされた。
気づけば僕は、侑人へと距離を詰めていた。
昨夜あれほど精密に組み立てたシミュレーションなんて、一瞬で全て消し飛び、ただ本能のままに侑人の身体へと触れていた。
僕を見上げる侑人の、恐怖と羞恥に激しく揺れる瞳。
それが、僕をどこまでも深く誘惑しているように見えて、僕の全身はその極上の快感に打ち震えた。
周囲の男子たちが悪ノリの悲鳴を上げる声を、遠くのBGMのように聞きながら、そっと名残惜しく手を離す。
ああ、ダメだ。
侑人のことが、気が狂うほど好きでたまらない……。
フェーズを重ねるたびに、ハックされているのは侑人だけじゃない。
僕自身もまた、自分で組んだはずの底なしのプログラミングという檻の中に、自ら引きずり込まれていくのを感じずにはいられなかった。
【エラーログ2:シミュレーションの無効化(オーバーライド)】
・ターゲット(侑人)の発する色気(バグ)により、事前に構築した全接触コードがフリーズ。
・本能による強制的上書き(書き換え)を実行。ターゲットの精神防御壁への侵入を確認するも、開発者(深山)の精神負荷もまた臨界点(キャパシティオーバー)を検出。
その瞬間、一瞬だけフリーズしたように視線を泳がせた侑人を見て、僕の心臓は跳ね上がった。
間違いない。
この『神視点』は、確実に僕の想いを検知(察)している。
放課後、【フェーズ2】の実行のために初めて侑人と二人きりになった時、僕の胸の奥のアラートは耳が痛くなるほどの爆音を立てていた。
だが皮肉にも、その極限の緊張感が、侑人の有能なレーダー(神視点)をすり抜ける完璧なステルス機能として働いてくれたのだ。
「何か悩んでいることがあるのか」
問いかけられ、用意していたコードを走らせる。
散々じらした後、「好きな人がいて、告白しようか迷っている」と告げた。
刹那、侑人は思った通り──自分が僕に告白されるとでも想定(バグ)したのか──目に見えて焦り始めた。
やはり侑人は、自分の『神視点』という有能なシステムを信用しきっている。
だからこそ、その予測が裏切られた時、プライドの高い彼は怒り狂い、僕というバグに対して執拗な執着(アクセス)を見せてくるはずだ。
僕の予測は見事に的中した。
わざと手帳を置き忘れ、このプログラミングの存在を意図的に漏洩(開示)させる。
これで侑人の脳内リソースは、完全に僕の次のフェーズの解析に占有される。
すべては想定通りの仕様(プログラミング)だ。
ダミーの数式を解くために目の下にクマを作ってきた侑人を見た瞬間、僕の理性は破滅的なアラートを鳴らした。
(可愛い……どうしよう、僕のことしか考えてない、今すぐ連れ去って閉じ込めたい……!)
冷静な顔を装いながら、僕の内部システムは彼の健気な愛おしさに完全崩壊していた。
ああ、侑人がこんなにも、僕のことだけで脳の容量を割いてくれている。
その純然たる事実に、脳髄が痺れるような甘い快感を覚えた。
そして、それがフェイクだと知った時の侑人の、悔しさに満ちた表情。
その奥で、僕への強烈な執着をまとってギラギラと輝くあの瞳が、僕のシステムを根底から狂わせて離さなかった。
侑人に、触れたい……。
夜、冷たいベッドの中で、僕に向けられる侑人のあの熱っぽい執着の瞳を思い出しながら、僕は暴走(オーバーヒート)するように膨らんでいく欲望を必死に抑え込んでいた。
【フェーズ4】の実行に向けて、暗闇の中で何度も侑人に肉体接触(アクセス)するシミュレーションを重ねる。
侑人のどの部位に触れ、どの距離まで踏み込み、どんな視線を送れば、彼の頑なな羞恥と恐怖心を、俺への恋愛感情(バグ)へと変換し最大化できるか。
様々なアングルから想像し、検証を繰り返した。
【フェーズ4】が成功した暁には、侑人は一体どんな乱れた表情を僕に見せてくれるのだろう。
想像するだけで心臓の鼓動(クロックカウント)が限界値を突破し、夜が明けるまでどうしても眠ることができなかった。
翌日、侑人が僕の【フェーズ4】を過剰なまでに警戒しているのは一目瞭然だった。
僕と二人きりにならないよう、必死に強固な防衛線(ファイアウォール)を張っている。
だが、心配しなくてもいいんだ、侑人。
僕だって、今この瞬間に君と二人きりで接触するなんて、緊張で心臓が強制終了(シャットダウン)しかねない。
そんな決定的なシチュエーションに飛び込む勇気なんて、1ビットも持ち合わせていないのだから。
僕にはせいぜい、衆人環視のノイズに紛れて、冗談を装って君に触れるくらいしかできない。
「また、恋愛相談に乗ってもらいたいんだけど」
僕はわざと、侑人が数人の友人と雑談しているパブリックな空間で声をかけた。
侑人は露骨に嫌悪のログを出力したが、男子高校生の間で「恋愛相談」というコンテンツがどれほど強力な引力を持つか、予測するのは容易だった。
周囲のモブどもが興味を示し、僕はいとも簡単に彼らの通信領域(輪)の中へと侵入した。
好きな人は誰なのか、という下世話な質問が飛ぶ。
僕は静かに、侑人だけを見つめた。
──告白できたら、どれほど楽だろう。
こんな回りくどいプログラミングなんか全て破棄して、ダイレクトに侑人の領域へと攻め入り、耳元で甘い猛毒でも囁きながら、僕なしでは生きられない身体に狂わせてやりたいのに。
「なるほど、吉瀬里奈ちゃんかぁー!」
周囲の無菌室のような盛り上がりの中、僕はハッと我に返った。
「深山って、意外とドSだったりするわけ?」
浩也のその質問が投げかけられた瞬間、侑人の瞳が、僕に対して明確な『興味』の色を帯びて跳ねたのを僕は見逃さなかった。
侑人は、僕に狂わされたがっている。
彼自身は無自覚なのだろうが、僕の目にははっきりと検知できた。
【フェーズ3】を経て、確実に侑人の脳内は深山統織というウイルスで侵食され始めている。
そう確信した刹那、自分の中の獰猛な本能が獣のように呼び覚まされた。
気づけば僕は、侑人へと距離を詰めていた。
昨夜あれほど精密に組み立てたシミュレーションなんて、一瞬で全て消し飛び、ただ本能のままに侑人の身体へと触れていた。
僕を見上げる侑人の、恐怖と羞恥に激しく揺れる瞳。
それが、僕をどこまでも深く誘惑しているように見えて、僕の全身はその極上の快感に打ち震えた。
周囲の男子たちが悪ノリの悲鳴を上げる声を、遠くのBGMのように聞きながら、そっと名残惜しく手を離す。
ああ、ダメだ。
侑人のことが、気が狂うほど好きでたまらない……。
フェーズを重ねるたびに、ハックされているのは侑人だけじゃない。
僕自身もまた、自分で組んだはずの底なしのプログラミングという檻の中に、自ら引きずり込まれていくのを感じずにはいられなかった。
【エラーログ2:シミュレーションの無効化(オーバーライド)】
・ターゲット(侑人)の発する色気(バグ)により、事前に構築した全接触コードがフリーズ。
・本能による強制的上書き(書き換え)を実行。ターゲットの精神防御壁への侵入を確認するも、開発者(深山)の精神負荷もまた臨界点(キャパシティオーバー)を検出。
