たぶん俺のことが好きな優等生の恋愛相談に乗ったら、いつの間にか脳内ハックされました

翌日。

俺が頭をフル回転させ、これまでの深山の行動ログをすべて反芻している目の前で、浩也が俺の机にだらしなく突っ伏していた。

正直、今はこいつの雑談に割く脳の容量など1ビットも残っていないのだが。

「はぁ……。俺も、誰かに告白されてーなー……」

浩也が深い溜息とともに呟く。

彼女に振られ、不毛な夏休みを過ごした男の飢えっぷりは相当なものらしい。

哀れなことに、今この教室で浩也を意識している女子は皆無だ。

深山の注目度が高すぎて、他の男子が付け入る隙など完全にシャットアウトされているのだから。

「……深山にフラれた子を狙えば、1パーセントくらいは成功確率があるんじゃないか?」

「は? ほぼ玉砕確定じゃん。あのさぁ、振られるのってめちゃくちゃ傷つくんだぞ? お前そういう痛痛しい感情知ってんの? どうせお前、自分から誰かに告ったことないだろ。なんだかんだモテるもんなぁ、あの吉瀬さんから告白されたくらいだしさ」

「別に、俺だって……好きな人ができれば、告白くらい……」

──告白。

手から滑り落ちたシャープペンが、床でカツンと甲高い音を立てた。

瞬間、周囲の喧騒がスッと遠のき、視界の世界がガラガラと反転していく。

今までバラバラに散らばっていた過去のログが、恐ろしいほどの速度で一本の線へと繋がっていく。

(……そうか。そうだったのか……!!)

ドクン、と心臓が未だかつてない質量で肋骨をぶち叩く。

俺は、決定的な思い違いをしていたのだ。

深山の真の目的。

あいつが求めていた最終的な答え──それは、俺の側からあいつに『告白させること』だったんだ。

もしそれが正解なら、あいつの不可解な行動のすべてに論理的な説明がつく。

回りくどい罠を仕掛けて俺の気を引こうとしたことも、保健室でわざと生の心音を聞かせて好意のベクトルを示してきたことも、お泊まりの夜に生殺しにして精神的に追い詰めてきたことも……。

すべては、俺の口から「好きだ」という言葉を引き出すための誘導プログラムだったのだ。

『……神視点じゃ、ないのかよ……』

あの空き教室で、俺が「お前のものになってやる」と妥協の降伏を示した時、あいつは絶望したような顔で叫び、消え入りそうな声でそう呟いた。

俺はあの時、あいつのプライドを傷つけたのだと思っていた。

だが、違ったんだ。

あいつは俺に『ハッキングされた(降伏させられた)』と諦めてほしかったんじゃない。

俺自身の意志で、自分の本当の気持ち(バグ)を見破ってほしかったんだ。

自分から告白して拒絶されるのが怖くて、俺の手で防壁(仮面)を剥ぎ取ってもらうのを、あの男はずっと待っていたのだ。

──俺は、最初から気づいてやらなきゃいけなかった。

完璧な創造主(深山)の皮を被ったあいつが、本当は、拒絶されて傷つくことを何よりも恐れている、酷く繊細で臆病な「ただの人間」なのだということに。

……なんだよ、それ。

あんな恐ろしいバケモノのフリをしておいて、中身はとんでもなく面倒で、愛おしい奴じゃないか。

「……侑人? 急に黙ってどうしたんだよ、顔怖いぞ」

怯える浩也の声を無視し、俺の唇の端は自然と狂ったように吊り上がっていた。

【侑人のログ:全システムのルート権限(主導権)奪還】
→ 「深山統織」というプログラムの根本的欠損(拒絶への恐怖)を特定。
受動的な防衛モードを完全解除。これより、逆ハッキング(真実の告白)フェーズへと移行する。

待たせたな、深山。

すべての仕様(ルール)は理解した。

これから俺が、お前の一生解けない完璧なプログラミングを、内側から完全にフリーズさせてやる。

覚悟して待ってろ。