たぶん俺のことが好きな優等生の恋愛相談に乗ったら、いつの間にか脳内ハックされました

スマホまでハック同然の所業で連絡先を抜き取られてから、数日後。

俺の端末に、一通の通知が滑り込んできた。

『8月3日 18時。駅の東口で待ち合わせね』

こちらの予定や都合を完全に無視した、あまりにも強制的なメッセージ。

断れば、あの「断絶期間」に味わった絶望的な喪失感が再び襲ってくる──あいつは俺のその恐怖を完全に理解した上で、この超強気な態度に出ているのだ。つくづく腹立たしいやつだ。

それにしても、待ち合わせが「18時」という夜の時間帯になっている時点で、どう考えてもよからぬ企みがあることくらい馬鹿でもわかる。

脳裏をよぎるのは、あの保健室でダイレクトに聞かされた狂おしい心音と、科学室で見せつけられた世界を滅ぼしそうなほどのどす黒い嫉妬心。

夜に深山の家に行き、密室で二人きりになる。

そんなシチュエーションで、何もないわけがない。

最悪の場合、身体的接触──つまり、キスや、あるいはそれ以上のことまで計画に組み込まれている可能性だってある。

いや、今にして思えば、自分の聖域(自宅)へ俺を合法的に誘い出すために、あいつは入学式から緻密なプログラムを組んでいたんじゃないだろうな?

(深山と、キス……っ)

想像しただけで、心臓が防壁を突き破るような音を立てる。

絶対に無理だ。あいつは男だ。そう力ずくで自分に言い聞かせるのに、なぜか唇のあたりが熱く疼き出し、俺は逃げるように手の甲でそれを強く拭った。

とにかく、あいつの思い通りにされてたまるか。

約束の当日。俺は指定された日時に、指定された場所へと向かった。

ただし──一人ではなく、四人で。

「──あれ」

先に着いていた深山は、俺の後ろに控える男たちの姿を認めた瞬間、その切れ長の両目をわかりやすく丸くした。

どうやら、さすがの創造主(深山)も、俺がこれだけの人数を引き連れて防衛線を張ってくるとは想定外だったらしい。

不服そうに細められた冷ややかな視線が俺を射抜くが、知ったことか。

もともと強引に誘ってきたのは深山だし、何より、あいつはメッセージで「一人で来い」とは一言も指定していなかった。

その仕様の穴を突いた時点で、このターンの俺の勝利は確定している!

【侑人のログ:防衛線の構築(成功)】
→ 深山の自宅へ友人を同伴させることで、強制的なイベント(二人きりの密室空間)を完全に回避。ハッキングの無効化に成功。

「よう、深山! 元気だったか? お前相変わらず肌白いなー、勉強のしすぎか?」

彼女に振られ、夏休みを持て余し三昧の浩也が、Tシャツの襟元をパタパタと扇ぎながら軽い調子で深山に話しかける。

「元気だよ。というか、夏休みが始まってまだそんなに経ってないと思うけど」

「あ? そうか?」

何も考えずにただなんとなく日々を消費している雰囲気全開の浩也は、お気楽そうで、この状況の俺からすればある意味羨ましくすらある。

「浩也はもう少し勉強したほうがいいんじゃねーの?」

「いっそ深山に家庭教師やってもらえよ」

いつもつるんでいる他の二人──冬真と颯太にからかわれ、浩也は「勉強の話はすんな!」と言わんばかりに両耳を塞いだ。

そんな三人のやり取りを、深山は冷めた薄い笑みを浮かべて見つめている。あからさまに嫌そうだ。

「なー、腹減らね? 深山んち行く前に、どっか食いに行こうぜ」

完全に主導権を握った浩也の後を追い、近くのファミレスへと流れ込む。

ここまで、俺は一度も深山と直接言葉を交わしていない。

ただ、背後から突き刺さるような冷たい視線に強烈な居心地の悪さを感じていたが、これは正当防衛だ、と自分に言い聞かせて胃の痛みをこらえた。

ファミレスでたっぷり時間を潰した後、いよいよ深山の家へ向かう流れになった。

途中、飲み物を買いに行くという浩也に付き合い、コンビニの前で待っていると、あいつはドサリと妙に大きなビニール袋を抱えて戻ってきた。

「おい、何買ったんだよそれ」

「これか? 花火だよ! せっかくの夏休みだし、深山んちの庭先でやろうと思ってさ!」

「……いや、僕の家、高層マンションなんだけど」

横から割り込んできた深山の冷淡な声に、浩也は「……あ? マジか、早く言えよ」と露骨にがっかりして肩を落とした。相変わらず後先を考えない男だ。

深山の家は、都心の一等地にあるタワーマンションの上層部にあった。

まだ新しそうなその建物は、エントランスから内装に至るまで洗練の極みで、お世辞にも一般家庭が暮らすような場所ではないことが一目でわかった。

「お前んちすげーな! 親御さん何されてる人?」

「二人とも医師だよ。忙しいから、いつも夜遅くにしか帰ってこないんだ」

「マジかよ! じゃあ女連れ込み放題じゃん!」

「深山、羨ましすぎるー!」

「俺、深山の彼女になりたいわー」

リビングに足を踏み入れた途端、男子どもははしゃぎながら広々としたダイニングや部屋を見て回り始めた。

すっかり日が暮れた大きな窓の向こうには、宝石を散りばめたような都会の夜景が広がっている。

「おい、お前んち広いバルコニーがあるじゃん!」

浩也がぱっと目を輝かせ、リビングから外へと続く大きな掃き出し窓を遠慮なく引き開けた。生暖かい夜風が室内へと吹き抜ける。

外へ飛び出していった三人に釣られるように、俺も外の景色に誘われてバルコニーへと足を踏み入れた。

そこは確かに、ルーフバルコニーと呼ぶにふさわしい贅沢な空間で、家族でテーブルを囲んでディナーを楽しめるほどの広さがあった。

「なんだよ深山、あるじゃん、こんないい場所がさあ!」

そう叫んだ浩也は、さっきコンビニで買った花火の袋をガサゴソと広げ始めた。

夜景の綺麗なバルコニーで花火。確かにシチュエーションとしては楽しそうだが……。

「……一応言っておくけど、うちのマンション、火気厳禁なんだけど」

「固いこと言うなよ、ちょっとだけだからさ!」

浩也は持ち前の強引さで花火を強行し始めた。冬真と颯太も「いいじゃん、やろうぜ!」と完全にノリノリで火をつけ始める。

深山はあからさまに困惑した表情で彼らを見つめていたが、やがて諦めたように大きくため息をつくと、洗面所から水を入れたバケツを用意して戻ってきた。

その姿を見て、俺は少しだけアイツに申し訳ない気持ちになった。

そもそも浩也は深山の激しい嫉妬を買った張本人なのだから連れてくるつもりはなかったのだが、冬真が勝手に声をかけてしまったのだ。連れてきた責任の一端は、俺にもある。

暗闇の中に、勢いよくパチパチと花火の閃光が舞い踊る。

立ち上る白い煙と、独特の硫黄の匂いが夏の夜の空気に混ざり合っていく。

「おい、侑人も突っ立ってないでやろうぜ!」

三人がすっかり童心に帰ってはしゃいでいる姿を、俺がバルコニーの端でぼんやりと眺めていると、火のついていない手持ち花火を一本手渡された。

俺がためらいがちに、これに火をつけようかどうしようか迷っていた──まさに、その時だった。

静かな室内に、ピンポーン、と無機質な玄関のチャイムが鳴り響いた。

数秒後、リビングへ戻っていた深山が、これまで見たこともないほど血相を変えてバルコニーに飛び込んできた。

「ヤバい……! 管理人さんが来た! みんな、早く片付けて!」

普段の冷静沈着な姿からは想像もつかない焦りように、俺たちは心臓を跳ね上げ、慌てて花火の火を水バケツに突っ込んで片付け始めた。

二度目のチャイムがしつこく鳴り、深山が玄関ドアを開けに行ってまもなく──リビングの向こうに、険しい怒り顔をさせた年配の男性管理人が姿を現した。

「さっき、上の階の方から『煙が出ている』と通報がありましてね。来てみれば……君たち、こんな夜分にマンションのバルコニーで何をしているんだ!」

「あ、いや、これはその……」

バケツの中に沈んだ花火の残骸が、残酷なほど明確に俺たちの罪を証明していた。

「す、すみません! ほんの出来心で……! もう終わって帰るところだったんで! なあ、お前ら!」

「あ、ああ……っ」

浩也はぎこちなく管理人にお辞儀をすると、冬真と颯太の背中を押して、一目散に玄関から脱出しようとした。

あまりの展開の早さに俺が呆然と立ち尽くしていると、「何してんだ侑人、お前も行くぞ!」と小声で急かされ、浩也に強引に腕を引っ張られた。

あいつら、すべての責任を家主である深山一人に押し付けて逃げる気だ。

「いや、でも……っ」

俺は深山のことが気になり、その場を動くのをためらった。

しかし、浩也の強い力に引っ張られるまま、流されるように玄関を出るしかなかった。

重苦しい静寂が残るあの空間に、一人取り残された深山のことが、どうしても頭から離れなかった。

「ふーっ……! 危なかったぜ、マジで焦ったわ……」

エレベーターホールに辿り着き、浩也が緊張の切れたような声を漏らす。

その無責任な態度に、俺の胸の奥でモヤモヤとした感情が膨れ上がった。

「なあ……やっぱり、戻らないか?」

「大丈夫だって! 深山なら優等生だし、上手いこと言い訳して謝っといてくれるだろ」

「いや、そういう問題じゃなくて……」

ダメだ。三人とも、これっぽっちも引き返す様子などなく、迎えにやってきたエレベーターの箱へと吸い込まれていく。

俺は、どうしても彼らと一緒にそのエレベーターに乗る気にはなれなかった。

チーン、とドアが閉まる直前。

俺は踵を返し、今来たばかりの廊下を、深山の部屋へと向かって猛ダッシュで引き返していた。

「管理人さん、待ってください! 深山は悪くないんです……っ!」

勢いよく玄関ドアを開け放ち、俺はその場で必死に叫んでいた。

年配の管理人の前に立たされた深山は、相変わらず無表情のままお叱りを受けている最中だった。

「全部、俺が悪いんです。深山はむしろ火気厳禁だからって止めてくれていたのに、俺たちが強引に始めちゃって……!」

必死になって深山には一切の非がないことを捲し立てる。

管理人さんは怪訝そうな顔で俺と深山を交互に見つめ、やがて「……とにかく、くれぐれもマンション内で火は使わないように」ときつく釘を刺して、エレベーターへと戻っていった。

とたんに静寂が戻った玄関で、俺は深山に向かって深々と頭を下げた。

「深山、ごめん……」

俺が余計な連中を引っ張ってきたせいで、あいつにこんな大迷惑をかけることになるなんて思ってもみなかった。

自分自身の浅はかさが本当に情けない。

精一杯の反省を示して顔を上げると、深山はどこか切羽詰まったような、ひどく歪んだ表情で俺を凝視していた。

その瞳の意味が怒りなのか失望なのか、今の俺の『神視点』ではさっぱり読み取れない。

何を言われても文句は言えない──そう覚悟を決めた、その時だった。

ガシッ、と強い力で手首を掴まれた。

「……来て」

低く硬い声が響いたかと思うと、深山は俺の手を強引に引っ張って廊下を突き進み始めた。

「ちょっ……、深山……!?」

転びそうになりながら慌てて靴を脱ぎ、完全にバランスを崩しながらも、その圧倒的な力に抗うことができず引きずられていく。

連れてこられたのは、リビング──ではない。

その手前にある重厚なドアが開け放たれ、薄暗がりのなかに男の部屋らしき無機質な空間が広がった。

デスクとベッドが整然と置かれた、シンプルな室内。

間違いなくここは深山の部屋──あいつの本拠地(サーバー)だ。

電気もつけずに暗闇の中をぐんぐんと進んでいく。まさか、このまま行き着く先は──ベッドの上か!?

嘘だろ、そんな心の準備なんて……っ!

「……待て、深山、ちょっと待ってくれ! 心の準備が……っ!」

しかし問答無用で引っ張られ、ついにベッドの目の前まで来てぎゅっと身を硬くした。

だが、深山はベッドの前を綺麗に素通りすると、そのままバルコニーの大きな窓を開け、俺を外の空気の中へと連れ出したのだ。

その瞬間だった。

視界を埋め尽くす眩い光が咲き誇り、一秒遅れてドードーーンと重低音が腹を揺らした。

「あ……」

驚きのあまり、声が掠れて言葉を失う。

次々と間近で打ち上がる大輪の花火は、遮るもののない高層階からの特等席で見るにふさわしい、圧倒的な圧巻の光景だった。

そういえば、ここへ来る途中で浴衣姿の人間を何人か見かけていたのを思い出す。

「……間に合った」

隣で、今まで張り詰めていた深山の横顔が、初めて安心しきったような柔らかいものへと綻んでいく。

その表情を見た瞬間、俺の胸の奥に一つの答えが弾け飛んだ。

「お前……もしかして、今日俺を家に誘ったのって、これを見せるためだったのか?」

深山は否定も肯定もしなかった。ただ、満足げに目を細めて、きらめく光に照らされる夜空を見つめている。

バルコニーの柵に手をかけた深山の肩と、俺の肩が、触れるか触れないかの距離でわずかに擦れ合う。

隣から伝わってくる、あいつの高い体温。

花火の爆音と共鳴するように、俺の心臓が胸の裏側をドクドクと力強く叩き続けていた。

やがて花火は最高のクライマックスを迎え、暗い夜空一面を眩い黄金色のしだれ柳が埋め尽くして、静かに幕を閉じた。

とたんに訪れる濃密な静寂と、奇妙な気まずさ。

それでもなお、俺の身体の奥では花火の余韻のような熱い鼓動が鳴り止まない。

バルコニーから薄暗い部屋の中へと戻っていく深山の背中を追う。

花火の演出のために明かりが点けられなかった部屋はひっそりと暗く、大きな窓から差し込む月明かりだけが、青白く室内を照らしていた。

「ここ……お前の部屋なのか?」

「ああ、そうだよ。──人を入れたのは、君が初めてだ」

「……そ、そうなんだ」

意味深な発言に喉の奥が張り付く。深山はなかなか部屋の電気をつけようとしない。

月光を頼りに改めて見渡す部屋は、一般的な男子高校生の部屋よりも一回り広く、徹底的に無駄が削ぎ落とされていた。

本棚には分厚い参考書類が整然と並び、勉強机の上には一台のノートパソコンが静かに鎮座している。

「木瀬くんだけは、必ず僕のところへ戻ってきてくれると信じていたよ」

ふいに振り返った深山が、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。

その切れ長の瞳に怪しく、熱っぽい光が灯っているのを見て、防衛本能のままに後ずさった。

しかし深山は歩みを止めず、じりじりと距離を詰めてくる。

気づけば背後にベッドの縁が迫っており、逃げ場をなくした俺は、そのままシーツの上へと尻もちをついた。

マズい。いつの間にか、完全にデッドスペースへ追い詰められている──。

「ダメじゃないか。僕は君が、一人で来てくれるのを待っていたのに」

ベッドの上で身を縮めて這いずる俺を、深山は逃がさないとばかりに上から影を落とし、じわじわと組み敷くように間を詰めていく。

「そんなこと言われたって……」

こういう密室の状況(エラー)を回避するためにみんなを呼んだのだ。

それなのに、結局はあいつの計算通り、最も恐れていたシチュエーションになってしまっている。

「しかも、あの場に浩也を連れてくるなんて。本当に……君は何もわかっていない」

「違う! あいつは俺が誘ったわけじゃない! 冬真のやつが勝手に声をかけたんだ……っ!」

壁際に背中がぶつかり、完全に退路が消える。

深山の独占欲に狂った冷徹な視線が、至近距離から俺の瞳の奥を射抜く。息が詰まるほどの圧力。

「その上、あんな場所で花火なんかされて、本当に大迷惑だったよ。おかげで管理人にひどく怒られたじゃないか」

「……ごめん。それについては、本当に悪かったと思ってる」

俺が素直に首をうなだれると、深山は満足そうに口角を歪め、さらに顔を近づけてきた。熱い吐息が肌をかすめる。

「そうか。本当に悪いと思っているなら、──相応の『責任』を、取ってくれるよね?」

「……責任?」

嫌な予感が全身の細胞を駆け巡る。

責任というのは、つまり……このまま躰で責任を取れと、そういうことなのか!?

俺は壁に張り付くようにして、恐怖と羞恥でぎゅっと目を閉じた。

しかし、待てど暮らせど、想像していた衝撃はやってこない。

恐る恐る瞼を開けたとき、深山は底知れない怪しげな笑みを浮かべたまま、俺の耳元へ唇を寄せて、低く滑らかな声で囁いた。

「──今夜、ここに泊まっていってよ」

「……は?」

一瞬、脳の全機能がフリーズした。

こいつは一体、何を考えているんだ? 俺をこの密室に監禁して、一体何をする気だ!?

「それは……絶対に無理だろ!」

「どうして? 反省してるんだよね? 泊まるだけじゃないか。それとも、君の言う『ごめん』はその程度の軽いものだったの?」

「それは違う!」

泊まるだけ、なんて言葉を額面通りに受け取れるはずがない。

けれど、言うことを聞かなければ絶対にこの檻から逃がしてくれない──あいつの瞳は、そんな冷徹な光を放っていた。

俺は観念して、きゅっと唇を噛みしめる。

「……わかったよ。泊まればいいんだろ……。ただ、先に言っておくが、お前は俺に指一本触れるなよ! 約束しろ!」

俺の必死の抵抗に対し、深山は勝ち誇ったような、極上の笑みで口角を引き上げた。

「あはは、いいよ。約束する」

あまりにもあっさりと承諾され、深山の身体がすっと離れていく。

張り詰めていた緊張が一気に解け、俺の身体からガクンと力が抜けた。

思わぬ形で、とんでもない人質(お泊まり)を取られてしまった。

……って、ちょっと待て。この展開、あまりにも状況が深山にとって都合よくできすぎていないか?

「ああ、本当に……せっかくの計画を邪魔して、管理人に通報したやつを呪ってやりたいくらいだよ」

怒りの欠片も感じられない涼しい顔でそう呟いた深山の唇の端が、ほんの一瞬だけ、あの酷く不敵な形に吊り上がるのを──俺の『神視点』は見逃さなかった。

(……待てよ。なんで上の階の奴が、花火を始めてたった数分で『煙が出ている』なんて管理人に通報できるんだ……?)

深山はずっとポケットの中でスマホを弄っていた。

まさか……上の階の住人のフリをして、管理人にWeb通報した張本人は──深山、お前自身なんじゃないのか……!?

頭の中で、過去最大音量の危険信号(アラート)がガンガンと鳴り響く。

「お風呂、淹れてくるね。そうそう、今日は両親とも当直で朝まで帰ってこないんだ。安心してゆっくりくつろいでよ、木瀬くん」

「……え?」

安心? 逆だろ……!

完全に逃げ場をなくした最も危険なサーバーの最奥で、俺たちの、あまりにも危険すぎる一夜が始まろうとしていた。

【フェーズ10:私的空間(ローカル環境)のハッキングと強制保護(完了)】
→ 同伴された他個体(友人)を意図的なエラー(自作自演の通報)によって一斉排除。
ターゲット(侑人)の罪悪感を人質に取り、外壁のない完全な密室(自室)へとチェックイン(一晩の拘束)させれば成功。……隔離完了。これより、ターゲットの防壁を根底から解体(デバッグ)する。