顔面国宝と噂されてるイケメンが、普段はサカバンバスピスみたいな顔してた件


目の前でうずくまっているままの男子生徒。

その顔は――あのポスターのコラ画、そのもの。

黒い髪の毛。

整えられた眉毛。

高くて形のいい鼻。

シュッとした顔の輪郭。

それなのに、目と口のパーツだけが異様。

(◎∇◎)

あの日、スマホで検索した記号の顔。

それがそのままくっついたかのような、間抜けた顔。

古代魚であるサカバンバスピスに瓜二つの顔が、そこに存在していた。

彼は僕をジッと見つめていて、なにを考えているかすら読み取れない。

他人に見られているというこの現状にも関わらず、僕は両手で頭を抱える。

いや……待ってくれ。

正直パニック状態でまともに思考が動いてくれない。

あり得ないだろ、本当に人間かこの生徒。

そうだ、うん……あり得ない。

否定的な意見が打ち勝った僕の頭は、必死にあり得るかもしれない可能性……そのいきさつを考え出していた。

これは……そう、例えば。

新入生を笑わせようと思って顔にシールでも貼りつけてるんじゃないか?

そう思って僕は乱れた髪を手早く整え、目の前のサカバンバスピスに笑顔で向き直った。


「個性的な歓迎ですね、それ……目もだけど口とか本当に顔の一部みたいに張りついてて――」


思わず伸ばした僕の指先が、彼の口をなぞる。

すると、ぽかんと開いているその場所に……人差し指が入った。


「ぎゃっ!?」


生まれて初めて出すような驚愕の叫び声と共に指を引っこ抜く。

穴が開いていたなんて……あり得ない。

だって僕の仮定していた通り、あの逆三角形の口がシールなら……そこに穴なんて開いてるはずがないじゃないか。

つまり。

信じたくないし、まだそうと断定もできないけど……。


「え……本当に、その顔なんですか……?」


ハリボテの作り物じゃなく。

雑なコラ画でもなく。

本当に、生まれつき――この顔なのか?

そうだとしたら、なんて不憫な人なんだろう。

この顔のことを言っているわけではない。

だって水着を履いているということは……あの顔面国宝のイケメンと同じ水泳部員なんだ、この人は。

心ない誰かに比べられたりして、肩身の狭い思いをしていたのかもしれない。

そう思うと、一気に同情心が芽生えてしまう。

僕の眼差しに、目の前の古代魚……いや、男子生徒が声を発した。


「えっと……その、この顔は生まれつきってわけじゃなくて――」


「え?もしかして……お気に障ったら申し訳ないのですが、整形とかの失敗……とか?」


「あ、いや……そうでもなくて……その」


男子生徒が首をふるふると横に振った。

そして一瞬だけ顔を下げたあと、スッと立ち上がった。


「これは……うん、そうだね。口で説明するより、一度見てもらった方がいいかな」


そう言って彼は近くの蛇口に近寄る。

首を傾げた僕が見守る中、男子生徒はおもむろに蛇口をひねり、出てきた水で顔を洗い出した。

数秒後、水が止まり……ぽたぽたと水を垂らす彼が僕を振り返る。

そこにある彼の顔は――あの、顔面国宝だった。