顔面国宝と噂されてるイケメンが、普段はサカバンバスピスみたいな顔してた件


9月某日。

波乱の結末を迎えた夏休み最終日の数日後。

放課後のプールで僕たちは水泳部の活動をしていた。

部員は合計8人。

元々いた部長たち3年生と優彗先輩5人に加え、僕とクラスメイトの佐藤、そしてもう一人の女子生徒3人を加えた人数。

ますます賑やかになったプールで、各々が自由に練習する中。

僕と優彗先輩は二人でプールサイドに腰かけていた。

日傘代わりの白いタオルを頭に被せた僕の隣、「まだ暑いね」と呟く先輩を見つめた。

まだ顔を濡らしてもいないのに顔面国宝のままの顔は、まだ少し見慣れない。

そして僕らが揃えば、会話は自然と呪いのことになる。


「思うんですけど――先輩を呪った古代魚は結局、先輩が羨ましかったんじゃないでしょうか?」


「どういうこと?」


「ほら、先輩は泳ぎが得意だったでしょ?サカバンバスピスは泳ぎが苦手で滅んだ可能性もあるらしくて……それに加えて先輩、容姿も恵まれてるし」


もしも古代魚……サカバンバスピスがあの日、優彗先輩を見て“自分にないものを兼ね備えてる”と思ったとする。

その相手を“呪う”ことで、悲願だった“運命の番”を探そうとしたのなら。

なんだか健気で可愛いところがあるなと思う。


「そうかな……でも今思うと、俺はあの水族館でサカバンバスピスの化石に呪われて良かったのかも」


「なんでです?」


問いかけると、先輩は照れたように笑った。


「こうして恵流くんに会えたから……初めてキミと話したときに“体質”のことを話したのはきっと、呪いが俺の本能に訴えかけたんだよ」


――この子がお前の運命の番だって。


微笑む先輩に、つられて頬がじんわりと緩む。

僕が先輩の“運命”だなんて、気恥ずかしい。


「それじゃ、本物の恋人同士になれるように頑張らないとですね?まだ僕ら付き合っていないので」


「ちょっ、恵流くん!まだ部活中――」


否定的な番からの言葉を受けて、古代魚モードに戻る先輩の頭に。

僕は自身が被っていたタオルを覆い被せる。

そして……軽く触れ合うだけのキスをその間抜けた唇に贈った。


「っ……キミって子は、本当に……!」


赤い顔で拗ねたように頬を膨らませる先輩を見て、僕は不敵に笑みを浮かべる。


「好きですよ、優彗先輩」


早く大会でカッコよく優勝して。

そのときは――僕の“恋人”になってくださいね。

久しぶりに浴びた直射日光は、先輩の笑顔のように眩しかった。