「順番が逆になっちゃったけど言わせてほしい。……俺、恵流くんが好きだ」
頬の熱さは未だ辺りに残る残暑のせいだと内心言い聞かせながら、僕は猫のようにすまし顔で簡潔に答える。
心臓だけは張り裂けそうなくらいバクバクと鼓動の音を早めていた。
「……まぁ、僕も優彗先輩のこと、好きです」
呟くと同時に、先輩がへらりと締まりのない笑顔を浮かべた。
なんかその顔は腹が立つな。
「えへへ……じゃあ俺たち今日から恋人同士なんだね?なんだかくすぐった――痛っ!」
「なにか勘違いしているみたいですね、先輩」
彼の緩みきったツヤツヤほっぺを親指と人差し指で軽くつねりながら、僕が睨みをきかせる。
先輩が「ふぇ?」と目を瞬かせたのを見て、僕は指を離しながら上目遣いにこう告げた。
「言っときますけど僕、恋人同士として先輩とお付き合いするかはまだ決めてませんから」
「えっ!?」
「僕の理想は高いんです!公式の大会で優勝したあとならともかく……こんな非公式の大会で、あまつさえ敗北した日に付き合うとかナシですよ!」
「えええ!?」
ショックを受ける先輩の顔が、まばたきした瞬間にポンッとその形状を変える。
先輩の顔は再び、古代魚モードに切り替わっていた。
驚く僕はすかさず先輩に手鏡を向ける。
「えっ?なんで顔も元に戻ってるの……!?」
愕然とする優彗先輩に僕はしばし考え……自分の考えた憶測を伝えた。
「僕が“まだ恋人同士じゃない”って言ったから、古代魚の呪い判定に引っかかったんじゃないですか?まだ二人は結ばれてないって」
古代魚の中では“恋人”になる、もしくは恋人っぽいことをするイコール“番になること”と同義になっているのだろう。
だから恋人同士でしかしない唇同士でのキスで、一瞬呪いは解けたかに見えた。
でも“番”である僕から“まだ恋人じゃない”と言われたから呪いが復活した。
そういうことだろうか。
でもそうなると、新たに一つ疑問が出てくる。
「この状態でキスしたら呪いはどうなるんでしょうか?」
「それは……まだ付き合ってないなら、ダメなんじゃないかな?」
慣れ親しんだパーツが戻ってきてしまったことが相当ショックなのか、落ち込んだ様子の先輩の顔に手を添える。
そして、再び逆三角形の口にキスをした。
すると。
「戻りました、ね……」
「えっ…………?」
慣れた手つきで手鏡を向ける。
それを見つめる先輩の顔は、また顔面国宝に戻っていた。
「じゃあもしかして、やっぱり俺たちは恋人同士――」
「まだ違います、大会で優勝してから言ってください」
「あう……」
僕にキッパリと訂正された瞬間、古代魚へと戻っていく顔のパーツ。
それを見て、僕は「ふむ……」とアゴに指を添えた。
「キスをするという“行動”で呪いが解けて、恋人同士ではないという“言葉”で呪いが復活するようですね、面白いです」
「面白くないよ……より複雑になってるよ、身も心も……」
項垂れる先輩がなんだか可愛くて。
ぼくは彼に、そっと囁く。
「じゃあ……僕のこと諦めますか?」
「それは絶対に嫌だ」
間髪入れずに答える先輩に面食らう。
それと同時に、そこまで僕のことが大好きなんだと実感して背筋がゾクリと震えた。
先輩がベンチから立ち上がり、拳を握る。
「よし、俺……絶対に公式の大会で優勝するよ!そしたら恵流くんは俺と正式に恋人になってくれるんだよね!?」
「はい、もちろん」
「それなら俺、もっと頑張るよ……だから、これからもよろしくね」
差し出された先輩の手の平に、自分の手を重ねてベンチから立ち上がった僕はイタズラな笑みを浮かべる。
「そうだ……恋人同士になれたら、ご褒美あげますね」
「え、本当?どんなご褒美だろう……あっ、また一緒にデートしてくれるとか――」
無邪気な先輩に、僕は悪魔的な言葉を言い放つ。
「えっちなことでもいいですよ」
「へ!?」
爆弾発言を落とされた先輩の顔が、茹だったタコのように朱に染まる。
なんてね、と舌を出して笑う生意気な僕に優しい彼は怒ることもしない。
その後ろでは、大量に食べ物を買ってきた兄さんが笑顔で手を振っていた。
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