吹奏楽部。
陸上部。
美術部。
見聞きしたことのある部活の自作ポスターが並ぶ中から水泳部のものを探す。
ふと、端っこの隅にテープで止められている水色のポスターが視界に入った。
「あ、これが水泳部の――なの、か……?」
語尾が消え入るように疑問文へ変わる。
そのポスターを見た瞬間、僕の思考回路がほんの数秒だけショートした。
瞑ったまぶたを手の甲で軽くこすり、目の前のポスターを睨むように凝視する。
水色一色の背景。
その上部に白い文字で一言、こう書かれている。
“キミも水泳部で古代魚と泳ごう!”
全くもって意味が分からない。
だけど……たぶん、ここで“古代魚”と示されているものだろう存在がポスターに載っていた。
それはポスターの下部。
両手ピース姿で映る、上半身裸の男子の写真。
水泳部らしい、しなやかな筋肉がついた体より先に目についたのは……その顔だった。
「なんだ……この間抜けた顔は……」
シュッとした輪郭。
鼻筋の通った人間の顔。
なのに、そこにのっぺりとした目玉と口が張り付いている。
え……これで行こう!ってゴーサイン出たの?
部活勧誘のポスターにしてはやる気がなさすぎだろう。
こんなの、雑なコラ画もいいところだ。
…………。
でも、なんだろう。
「なんか、見覚えある顔なんだよな……」
どこか既視感のあるそのアホ面に、僕は頭をフル回転させた。
どこで見たんだっけ、この……なんていうか、なにも考えていなさそうな顔。
かろうじて生き物だったのは覚えている。
思い出せそうで思い出せなくて、歯がゆい。
「検索したら出てこないかな……」
そう思い立って、バッグからスマホを取り出す。
どう検索するか迷ったあげく、この顔を彷彿とさせる記号を打ち込んだ。
(◎∇◎)
この顔した生き物の画像、有名な古代魚。
そうキーワードも添えて検索をすると――すぐに結果が出た。
「サカバン……バスピス……?」
サカバンバスピス。
四億年ほど昔に絶滅したらしい古代魚……確かに一時期、この魚が流行ってたっけ。
欲しかった答えに納得して、だけど疑問が浮かぶ。
「なんでこの魚をコラ画に選んだんだ……?」
そんな付け焼き刃のネタに走ったポスターを作るくらいなら、噂の顔面国宝イケメンをポスターにすれば良かっただろうに。
「実は恥ずかしがり屋な性格……とか?」
とにかく、ポスターを見ただけではなにも情報が掴めなかった……ということだ。
「やっぱり、直接やつに接近しないとかな」
僕は一人頷いて、靴箱へと向かう。
待っていろ、まだ名前も顔も知らないあの日のイケメン――すぐに、この僕が懐柔してやる。
四つんばいになったやつの背中の上で高らかに笑う自分の姿を想像して、僕は隠しきれない闘志を胸にギラギラと燃やした。



