顔面国宝と噂されてるイケメンが、普段はサカバンバスピスみたいな顔してた件


「それでいいんだよ、恵流の応援したい方を応援しな?……それでも俺は、二度も負けてやるつもりなんてこれっぽっちも無いけどね」


兄さんの闘志がこもった瞳を前に息を呑む。

その直後、スタッフさんから声がかかった。


「ただいまより決勝戦を行います!勝ち残った選手の皆様とシード枠の皆様はお集まりください!」


ついにやってきた決勝戦。

兄さんと先輩……そして僕の対決が始まろうとしていた。

勝ち残った6人とシード枠の兄さんたちで、再び箱に入ったボールでの抽選が行われる。

敗北した選手はその殆どが預けていたカギを受け取りプールを去っていったため、先程よりも施設内は静けさを増していた。

見物客も残っているのは数人のご老人のみで、家族連れなど大部分の人は着替えて外のキッチンカーに行っているのだろうと思う。

決まった番号順にレーンに並ぶなり、僕は奇妙な巡り合わせを感じた。

隣り合った第3レーン、第4レーン、第5レーンで兄さんと先輩、僕が横並びに立っている。

兄さんと僕に挟まれて、優彗先輩はまた緊張してたりしないだろうか。

一瞬気になったけど、さっき僕の勇姿を見逃した彼に優しくするのもなんかシャクだったから声をかけるのは止めた。


「ん?どうしたの恵流くん、緊張してる?」


隣から見当違いの言葉を投げかけてきた先輩にぷいっと顔を背けながらゴーグルを着用する。


「優彗先輩って冷たいですよね、可愛い後輩が頑張って泳いでたのにゴールまで見届けないなんて」


その子供じみた拗ねたような言い草に、先輩はそれでも優しく微笑む。


「うん、だって……恵流くんなら絶対に勝つって信じてたからね」


「――っ……」


なんだそれ、ズルい。

ドクンと胸が高鳴り熱くなる。

衝撃的だった。

先輩の言葉一つで、僕はこんなにも満たされてしまうのか。


『位置について……』


マイク越しの声に、先輩も兄さんもゴーグルを付けて飛び込みの姿勢をとる。

僕も慌てて姿勢をとるが、鼓動はドクドクと胸を叩きつけるように叫んでいた。

試合前に仲間である僕を乱すなんて、先輩はなんて罪深い人だろう。

それでも……。

先輩が僕を信じていてくれるなら、この場で兄さんにだって勝てるような気がした。


『よーい……!』


足の筋肉に神経を巡らせて集中する。

水泳競技の試合は数秒を競う世界だと聞く。

勝利を狙うならスタートでのミスは許されない。

水を打ったように静まり返る施設内で、誰かがツバを飲み込む音がした。

――ピィーーーッ!!

笛の音が響き渡り、一斉に水中へと飛び込んだ。