***
まさかの恋慕が理由の呪いだった事実に衝撃を受けたまま、僕たちは神主さんにお礼を言って神社を後にした。
予想を大きく外すような甘酸っぱい呪いの解除方法がよほど衝撃的だったのか、なにか話すわけでも無く僕たちは歩く。
神社の目の前には海が広がっていて、なんとなくその浜辺に向かい……たまたま見つけた適当な流木の上に腰を落とした。
「スキンケアとか全く関係なかったですね」
切り出した僕の声は沈んでいる。
良かれと思ってしていたことが完全に無意味だったと分かり、少々落ち込む。
なんだこの、モヤモヤとする感情。
なんか悔しい。
そう思いつつも“いや、そんな呪いの解き方初見じゃ分かんないだろ”と冷静にツッコミを入れる余裕はあった。
何なんだ、伴侶となる番と結ばれることが条件って。
それが叶えたい願いならなんで顔面国宝たる優彗先輩の顔を、のほほんとした自分の顔に変えてしまったんだ。
人に成り代わって相手を見つけたいならサカバンバスピスとしての自我を出すなよ。
募る不満、文句、苛立ち。
しかし――僕が間違った解決策で先輩を振り回したのも事実。
「すみません、僕のせいで先輩の貴重な時間を数か月ほど無駄にしちゃいました」
僕が謝るなり先輩がブンブンと首を横に振った。
「そんなことないよ!キミのおかげで俺の肌質はプルプルのツヤツヤだし、水泳部には入部希望者が増えたし――それに」
先輩が身につけていたショルダーバッグに付けていたアザラシのキーホルダーをつつく。
陽の光りに照らされた透明なそれがキラキラと輝いた。
「ほら、恵流くんが色々考えてくれたおかげでたくさん思い出が増えたから……おかげで俺は、ここ最近ずっと楽しくて仕方なかったよ」
「先輩……」
寄せては返す波の音が辺りに響き渡る。
周囲には僕と先輩以外、誰もいない。
だからなのか、優彗先輩はおもむろにサングラスとマスクを取った。
「ふぅ……やっぱり素顔の方が楽だなぁ」
そう言ってググッと背伸びをする顔は、呪われた古代魚モード。
これを“素顔”として加えていいのだろうか。
「それで……これからどうします?今度は恋人を募集してみますか?」
「ううん、呪いを解除するためだけに恋人を作るのも違う気がするから……それは止めておくよ」
先輩らしいもっともな意見。
それを聞いて僕も「そうですよね」と引き下がる。
先輩は好きな人っていないんだろうか。
一目惚れをしたという、昔の僕以外に。
今、気になっている人がいるならその人にアプローチをするべきだ。
正式にお付き合いするまで、僕が完璧にサポートしてあげればきっと……。
でも。
もしも……その相手が僕だったら。
そんな淡い願いを考えて、そっと唇を噛んだ。
伴侶とか、番とかっていうなら……きっと相手は女性であって。
きっと、男である僕では呪いは解けないだろう。
僕はこの時点で失恋したも同然だった。
だって先輩の今後を思うなら、願うなら。
自分の想いは伝えずに、女性との出会いを最優先に考えてあげないといけない。
「大丈夫です、先輩ならすぐに優しくて可愛い彼女ができますよ。呪いは解けます……それまで僕がずっとサポートしますから」
「……そっか、ありがとう恵流くん」
穏やかに告げる先輩の間抜け顔が、なんだかやけに眩しかった。
「そうだ!ここまで恵流くんにはお世話になったし……なにか恩返ししなくちゃだね」
「え?」
先輩は両手で拳を作って、ソワソワと僕を見つめた。
「ね、なにか俺にしてほしいことってあるかな?俺にできることなら全力で叶えるよ!」



