先輩は他とは雰囲気の違うその場所を指差して、小さく呟く。
「たぶん、ここにある」
「ここにって……まさか」
「うん……サカバンバスピスの化石」
なんでそんなことが分かるんだろう。
やっぱりそれに呪われた先輩だからこそ分かる、なにかがあるんだろうか……?
考えていると、背後から木の枝が割れたようなパキッとという小気味よい音が聞こえた。
そちらを振り向くと、見たことのない品の良い紫色の袴をまとった壮年の男性が立っている。
白髪交じりの清潔感のある短髪。
シワの刻まれた目元が僕たちを見て鋭く細められた。
ヤバい、一般人がこんなところをウロついてるなんて……話を聞いてもらうどころか絶対に怒られる……!
「す、すみません!すぐに出て行くので――」
そう言って優彗先輩の腕を引っ張って行こうとした瞬間……男性が静かに言い放った。
「そちらのあなた……嫌な気配をまとっておられますね」
男性はそう言って、真っ直ぐに先輩を見つめていた。
***
詳しい話しが聞きたいと、男性……神主さんに連れて来られたのは拝殿と呼ばれる場所。
年月の重さを感じる軋む廊下を進んだ先、畳張りの部屋に置かれた座布団の上に僕と先輩、そして神主さんが向かい合うように座った。
風が木の葉を揺らす音が遠くに聞こえる。
普段お賽銭箱が置かれている向こうにこんな空間が広がっているなんて……こんなことでもないと知れなかったことだ。
どこか緊張感が漂う拝殿の中心で、僕は先ほど水族館のスタッフさんに説明したことをもう一度話す。
先輩の体質……いや、呪いについて。
僕の話に黙って耳を傾ける神主さんは職業がら慣れているのか、驚く様子もなく終始冷静だったけど……でも。
最後に信憑性を持たせるためにサングラスとマスクを取って見せた優彗先輩の、あの人間離れした古代魚顔を見るなり口をあんぐりと開けていた。
さすがに度肝を抜かれたらしい。
ピンと伸ばした背筋がだいぶのけ反っていたけど、ぎっくり腰とか大丈夫だろうか。
変なところを心配していると、落ち着きを取り戻したらしい神主さんが小さく咳払いをした。
「お話はよく分かりました。あの古代魚の化石については私共も幾度となくお祓いを致しましたが、邪気は祓えず……成果が出なかったのです」
「化石ではなく、先輩自身をお祓いするのはどうでしょうか?呪いが体から出て行く可能性とか……」
僕の提案に神主さんは「そうですね……」と渋い表情を見せる。
「本来は事前のご予約をして頂き、万全な準備で行う物なのですが……致し方ありません。簡易的な物になりますが、やってみましょう」
そうして神主さんがお祓いを執り行ってくれたけれど……一時間が経っても先輩の顔は変わらない。
その様子に、神主さんは再び渋い顔をして眉をひそめた。
「やはり、この呪いを解くには……化石となった古代魚の執念を叶えるしか方法が無いやも知れません」
「え……古代魚の執念……?」
「その……その執念って、何なんですか?」
先輩の問いかけに、神主さんは深く頷いた。
「生前に叶わなかった願い――それはすなわち生涯の伴侶となる相手……“番”と結ばれることです」



