「ん?なんです、これ」
受け取ったのは水色の小袋。
「開けてみて」と促す先輩の言葉通り、セロハンテープで軽くとめられた封を指先で切る。
中から現れたのは……キーホルダーだった。
「これ……アザラシですか?」
ふくよかな丸みを帯びたフォルムの、立体的なアザラシに僕の目が輝く。
小指サイズの小さなそれには銀色のチェーンと水色のリボンが付いていた。
「実はそれ、俺とお揃いなんだ」
照れくさそうに笑う優彗先輩がショルダーバッグをチョンチョンと指し示す。
その金具には、僕が持っているキーホルダーと瓜二つのアザラシがぶら下がっている。
でもリボンの色は白で、どうやら色違いらしい。
「もしかして……これを買いに行ってたから遅くなったんですか?」
「うん、思ってたよりお土産コーナーが混んでて。でも……どうしてもなにか恵流くんに渡したかったんだ」
「僕に?」
「ほら、言ってくれたでしょ?お揃いの思い出……記憶だけじゃなくて、形に残る物も欲しかったんだ」
強欲だよね、俺。
そう言って穏やかに笑う先輩を見て、きゅうっと心臓が締めつけられるような気持ちになる。
サングラスにマスクまで着けてるし、顔は乾いているから変わらず古代魚モードだけど。
そんな彼相手に、なぜか“愛しい”という感情が湧き出て僕の心を占めていた。
この気持ちって……まるで。
僕が優彗先輩のことを好きみたいじゃないか。
そう考えて、すぐに先輩へ背中を向けた。
「アザラシありがとうございますっ……!でもほら、早く神社に行かないと……!」
「そうだね、行こう。えっと、場所は――」
「僕が調べておきました!地図もあるし……案内するのでついてきてください……!」
言い放ってすぐさま歩き出す僕の後ろから、慌てたように追いかける先輩の足音が聞こえてくる。
「ま、待ってよ恵流くん!急ぐとコケちゃうよ!」
僕を心配する優しい声が耳に届く。
だけど振り向いてあげることも、立ち止まることも今はできない。
「……っ……」
完全に先輩への気持ちを“意識”した僕の、無様に染まった赤い顔を見られるなんてムリすぎる。
道案内しているはずなのに後方を置いていくかのようなペースで素早く歩く僕を、先輩は文句の一つも言わずに追いかけていた。
そうして10分もかからず到着した水湖呼神社。
その境内についた僕と先輩の息は見事に切れていた。
「はぁ……はぁ……つ、つきましたよ先輩……」
「ふぅ……ふぅ……そうだね……はぁ……」
どちらも息絶え絶えのヒドい有様。
あんな競うかのようなペース配分でここまでの道のりと長い階段を駆け上がれば、誰でもこうなるだろう。
マスク着用で呼吸のしづらい先輩には悪いことをした。
しかし、目的地には無事に到着できたのだから許してほしい。
僕は深呼吸をして、改めて神社を見渡す。
広い神社だけど、他に参拝客などは見当たらない。
虫や鳥の発する鳴き声だけが辺りに響いていて……とても静かだ。
「来たはいいですが誰に声をかけましょうか――って、先輩?」
隣にいた先輩が、ふらりとどこかに向かっていくのを見てその後を追いかける。
「ちょっ……!待ってください!」
「……たぶん、こっちに……」
ボソボソと呟く優彗先輩。
僕の問いかけにも反応せず、ただ前を歩くその行動は……まるでなにかに導かれているようで。
僕には少しだけ不気味に見えた。
そうして歩くこと数分、先輩はある場所でようやくピタリと立ち止まる。
そこにあったのはしめ縄が付けられた立派な木製の倉庫だった。



