顔面国宝と噂されてるイケメンが、普段はサカバンバスピスみたいな顔してた件


さすがにびしょ濡れの衣服のままで館内に戻るのは躊躇(ためら)われたため、先輩にはしばし直射日光の下に立ってもらうことにした。

紫外線はお肌の敵だが、今日までなんだかんだとスキンケアを頑張っていたから数分くらい大丈夫だろう。


「先輩、服は乾きそうですか?」


「うん。5分もこうしてれば多少は乾くと思う」


「分かりました。熱中症にだけ気をつけてくださいね」


そう声をかける僕は数メートル離れた日陰で彼を見守る。

両手を空に伸ばして全身に太陽光を浴びる優彗先輩の顔は、すでにサングラスと替えのマスクに覆われていた。

これなら顔が乾燥して古代魚モードに変化しても、他者を驚かせる心配はないだろう。

僕は近くのミスト側から吹いてきた涼しい風に目を細めて腕時計を見た。

きっかり5分計っておかないと。

今の時間を覚え、小さく息をついた。

さて。

待ってる間ヒマだけど……どうするかな。

少し悩んで、次に向かう場所でも考えるかと辺りを見渡す。

ボールで遊ぶオットセイ。

セイウチの多様な芸。

子供向けのタッチプール……。


「……ん?……あれは……?」


偶然目についた方向に掲げられていた看板。

その文字を視線で追いかけた僕は、すぐさま先輩の名前を呼んだ。


「ゆ、優彗先輩!展示物コーナーがありました!」


「えっ!?」


それからきっかり5分後。

慌てて駆け寄った化石の展示物コーナーの前に僕たちは並び立つ。

2階のそんなに広くない地味な場所に設置されていたそこは、スタッフの人も一人しかいない……思っていた以上に地味な印象の作りだった。

サラッと見た感じ、頑丈そうなケースに入った化石を見たり、海の生き物の歴史についてが学べる場所らしい。

僕たち以外にお客さんの姿は無くて、冷房の音が聞こえるほどに静かだった。

これ、見つけられたのは僕の強運のおかげだな。

そうでなければ、きっと見逃していた。


「それで?今日まであえて詳しくは聞きませんでしたけど……優彗先輩が壊した展示物の化石ってどれです?」


「えっと、それが――」


先輩の顔が目の前に並ぶ展示物を見渡す。

その動きは戸惑っているみたいだった。

僕が頭にハテナマークを浮かべて首を傾ける。


「どうしたんです?……まさか、今になって罪の告白が億劫(おっくう)になったとか……」


「そ、そうじゃなくて……俺が壊した化石が見つからないんだよ。ほら、言ってたフグみたいな形の化石なんて一つもないでしょ?」


そう言われ、立ち入り禁止のロープが張られた向こう側のガラスケースを僕も見渡す。

確かに、そんな形の化石は一つもない。

僕は両腕を組んで“うーん”とうなった。


「壊れたから修復作業をしている……とか?」


「けっこう年月が経ってると思うけど、化石の修復ってそんなにかかるのかな?」


「そうですよね……というか、子供のころの先輩はこのガラスケースに守られた化石をどうやって壊したんです?」


本物の化石が入っているなら、これは間違いなく強化ガラスで作られているはず。

滅多なことじゃ割れたりしないし、そのまま中の化石を貫通するなんてあり得ない。

ましてや子供の力でなんて……ゴリラじゃあるまいし。

僕の問いかけに先輩はスゴく言いづらそうに言葉を発した。


「それが……目の前で、見てただけで壊れたんだ」


「……は?」


まさかの告白に僕の目が丸くなる。

それもはや超常現象だろ。

この人、どれだけ僕を驚かせれば気が済むんだ。