顔面国宝と噂されてるイケメンが、普段はサカバンバスピスみたいな顔してた件


凉蘭高校は偏差値の高い学校として有名だったけど、文武両道をモットーに学力を極めてきた僕には低すぎるハードル。

さらりと合格し、僕は晴れて希望した高校の新入生として登校する日を迎えた。

自宅の洗面台の前。

ヘアアイロンでサラサラに伸ばされた黒い髪の毛を指先でつまみ、キューティクルを確認する。


「うん、今日も僕は美しいね」


板張りの廊下へ抜けてリビングに向かう。

ソファに座りくつろいでいた兄が、僕に気づいて軽く手を振った。


「恵流、用意は終わった?今日から高校生なんて……お前も大きくなったなぁ」


「そんなしみじみと……兄さんってば父さんみたい。あっ、それより制服!変なところとかない?」


その場でくるりと一回転してみせると、兄さんは「どれどれー?」と呟いて僕を見つめる。

その視線が頭から爪先まで上下に動き、やがてこくりと大きく頷いた。


「うん、大丈夫。今日も俺の弟は可愛いよ」


その答えに、僕は満足して上機嫌にふふんと鼻を鳴らす。

軽い足取りでソファの片隅に置いていたスクールバッグを手に取り、肩にかけた。


「それじゃあ先に出るね」


そう言うと兄は少し寂しそうに眉を寄せた。


「はぁ……俺も凉蘭高校を選んでたら、今頃は恵流と一緒に登校できたのにな」


「もう、またそれ?家では一緒にいられるんだし、学校が違うくらい大した問題じゃないでしょ」


「そうだけどさ、やっぱりちょっと寂しいんだよ。小中学校は同じだったから特に……なぁ、恵流はなんで凉蘭を選んだの?」


「それは――……」


兄さんの敵討ちのため。

なんて言ったら、さすがに困らせてしまうだろうから言うのを止めた。

代わりにそれらしい理由を述べておく。


「凉蘭を志望校に選ぶ友達が多かったから、まぁ……流れで?あとは制服がオシャレだったからかな」


もっともらしい言葉に、兄は渋々と納得してヒラヒラと手を振った。


「そっかぁ、恵流が行きたかった高校なら仕方ないよな。いってらっしゃい、車とか気をつけてな?」


「うん、行ってきます」


大好きな兄に背を向けて、玄関へと向かう。

数メートル離れたリビングから、優しい声が飛んできた。


「恵流!入学式、楽しんでこいよー!」


外へのドアを開けて返事を返す。


「うん、僕の美しさを存分に見せつけてくる」


ドアがぱたりと閉まる直前、兄の笑い声が聞こえた気がした。