電車で一時間、直通バスで20分ほどの距離をかけて到着した水族館。
夏休みという条件に加え、ここら辺では人気のテーマパークということで人の多さが尋常じゃない。
チケット売り場の長い列に並び、必要なものを購入してうだるような暑さから逃げるように足早に建物の中へと入った。
白や青など寒色系の色で統一された落ち着きのある薄暗い館内。
「先輩、こっちです」
早々に人の波に揉まれてはぐれそうになるサカバンバスピスの手を取り、流れから抜け出す。
通行の邪魔にならないよう、付近で一番人気のなさそうだったメダカの水槽の隣に立ち先輩を見た。
「それで……水族館につきましたけど、優彗先輩が子供のころに壊したという展示物はどこにあるんですか?」
「それが、覚えてなくて……こんな風に目立たない隅の方だった気がするんだけど」
先輩の視線が辺りを見渡す。
ここら辺は種類豊富なメダカの水槽を展示しているらしく、人通りはあるものの長く足を止めて観察する人は少ない。
僕は今一度、先輩に問いただした。
「あなたが“壊した展示物”というのは……なにかの化石だったんですよね?」
「うん、フグみたいな丸っこい魚の形をしてたのはなんとなく覚えてるんだけど……ごめん、色々なところがうろ覚えで……」
「無理もないですよ、壊したことでパニックに陥っていたでしょうし。……まぁ一通り水族館の中を見て回ればいずれ着くでしょう」
「うん、そうだね。せっかく来たんだし楽しもう!」
「目的は“先輩の体質を変えたきっかけ探し”だってこと、忘れないでくださいね?」
ソワソワとしながら四方八方を眺める先輩に、僕は小さくため息をついた。
全く、これじゃ水族館にはしゃいでるのが丸わかりだ。
やはりここでも、僕がしっかりと先輩を引っ張ってあげないと。
「ほら、じゃあ行きますよー」
そう心に決めて、繋いだままの先輩の手を引っ張った。
***
「見てみて先輩!アザラシ!アザラシがいますよ!可愛い……あんなに丸々とした体で可愛いなんてズルいと思いませんか!?あ、こっち見てる!」
「うんうん、見えてるよ。可愛いね」
「あっ!あっちにはペンギン……ラッコもいますよ!行きましょう先輩!」
「うん、恵流くんが見たいところ全部回ろう」
数分後。
そこには一転して水族館にはしゃぐ僕の姿があった。
人目も気にせず繋いだままの先輩の手を振り回しながら、あちらにフラフラこっちにフラフラ。
ハッと正気に戻ったのは神秘的な雰囲気を放つクラゲの水槽の前。
いろんな色にライトアップされたミズクラゲたちがぷかぷか浮かぶ様を、子供のようにキラキラとさせた瞳で眺めていたときだった。
先輩の手を握っていた自分の手を離し、バッと彼から一歩分だけ距離を取る。
「すっ……すみません、取り乱して……子供っぽいところを見せました」
コホンと咳払いをして考える。
……こんなはずじゃなかったのにな。
これじゃ全然スマートじゃない。
肩を落とす僕に、先輩は柔らかな声で告げた。
「それでいいんだよ」



