「ちょっ……!先輩なにしてるんです!」
「待ち合わせの時間より早く来ちゃって……どこで恵流くんを待とうか考えてたらこの子たちに遊ぼうって誘われたんだ、それで――」
「一緒になってミストの中ではしゃいでた……と」
高校生にもなって子供とずぶ濡れで遊ぶなんて、本当にどこまでお人好しな人なんだろうか。
まぁ……そういう優しさが滲み出ているからこそ、子供から遊びのお誘いを受けたのかもしれないけど。
僕は持っていたネイビーのハンカチで先輩の髪の毛をかいがいしく拭いた。
「なんか優彗先輩と出会ってからこんなのばっかりですね僕」
「ご、ごめんね……!いつも世話を焼かせちゃって……」
「別にいいです、もう慣れちゃったし」
手早く顔以外の水気を拭き取り、近くにいた子供たちに断りを入れる。
「ごめんね、今からこのお兄ちゃんと大事なご用事があるから連れて行くね?」
「うん!いーよ!」
「たのしかったー!バイバイ!」
笑顔で頷く幼い笑顔に見送られながら、服の水気を絞っていた先輩と共に駅舎へと向かう。
人通りの多いその場所で、水が滴ったままの彼の顔を拭くべきか躊躇した。
今はまだ顔が濡れているから顔面国宝のイケメンだが、水気が無くなれば一発でのっぺりとした古代魚モードになってしまう。
頭を悩ませる僕の考えを察してか、優彗先輩が明るい声を発した。
「あ、大丈夫だよ!白マスクとサングラスと……帽子も持ってきたから顔は隠せる」
「あれ?さっきまで付けてなかったですよね?」
「子供たちと遊ぶってなったときに外したんだ……もちろん隠れてミストで顔を濡らしたあとに。じゃないと、不審者だと思われるから……」
「納得しました」
この夏場に、キャッキャッと逃げる子供たちを追いかける長身の男。
しかもその頭に帽子、顔にサングラスとマスクとなれば余裕で通報案件まっしぐらだっただろう。
危うく警察に手錠をはめられた先輩と鉢合わせするところだった。
「そういうことなら顔の水気も拭いちゃいますね」
「うん、ありがとう」
水気が無くなりパーツが記号のそれに変わった先輩が、サングラスとマスクを装着する。
帽子はさすがに暑かったのか、ショルダーバッグに直していた。
「それじゃあ行きましょうか」
僕の言葉に先輩が頷く。
とにかく、無事に合流できた僕たちは時間通りに電車へと乗車をしたのだった。
ガタンゴトンと揺れる車内は想定していた以上に人で混んでいる。
足の踏み場もない密集した空間で誰かと背中がぶつかり、重心が揺らいだ。
――と、同時に力強く引き寄せられる僕の体。
気づくと、優彗先輩の腕の中に全身がすっぽりと包まれていた。
「恵流くん、平気?苦しくないかな?」
「あ……は、い……大丈夫です」
ふわりと鼻先をくすぐる、先輩の匂い。
水気を含んだ服の湿り気は、不思議と嫌ではなかった。
視線を動かして改めて先輩の着ている服を眺める。
胸元ポケット付きの白いヘビーウェイトTシャツに青いデニムジーンズとスニーカー。
そして肩から下げた黒地のレザーミニショルダーバッグ。
どこかシミラーコーデっぽい自分たちのコーディネートにくすぐったさを感じながら、先輩の胸に体重を預けた。



