顔面国宝と噂されてるイケメンが、普段はサカバンバスピスみたいな顔してた件


優彗先輩の体質が変わったという日。

それが夏休みということで、せっかくなら時期も合わせようと提案したのはやはり僕だった。

体質が変わったその日をなぞるように行動すれば、なにかしら原因が分かるはずだ。

すっかり気温が高くなった8月。

夏休み初日のその日。

僕は高校近くの最寄り駅……その手前に設置された木陰のベンチに座っていた。

駅の目印にもなる大きな噴水の周りでは、幼い子供たちが床から噴射するタイプのミストを全身に浴びて楽しそうな声を上げている。

微笑ましいなと口元を緩ませながら、左手首に巻いてきた腕時計を見た。

優彗先輩との待ち合わせまで、まだ10分もある。

さすがに早く到着し過ぎたかな。

日焼け止めはバッチリだけど陽射しが強くて肌へのダメージが心配だ。


「でもあのままだと、絶対ついてきてたし……仕方ないか」


“なぁなぁ恵流~、そんなオシャレして出かけるなんて、もしかして彼女か~?お兄ちゃん寂しいなぁ~”


頭に浮かぶのは自宅で準備中、ずっと僕のそばをくっついて離れなかった兄さんの姿。

夏休み初日から誰かと出かけようとする弟にヤキモチを妬いていたのか、ふて腐れた様子の兄さんから半ば逃げるように家を出た。

幸い後を着いてきてはいないようだから良かったけど。


「……そんなに気合い入れてはないけどな、この服」


僕は自分の格好を確認する。

上はクローゼットの中で最初に目についた有名ブランドの白い新作サマーニット、その下に黒いタンクトップ。

下はそれに合わせ風通しの良い黒いアンクル丈のスラックス、抜け感と遊び心を足したくて黒いデニム生地のスニーカーを履いている。

肩から下げた黒地のミニショルダーバッグは兄さんのを勝手に借りてきた。

そんなにオシャレしたつもりはないけど……そう見えるということは、やはりこのアイテムを着こなす僕の素材が光っているからかも知れない。

今日のこの僕の私服を見たら、先輩はどんな顔をするだろう。

また顔を真っ赤にして、みとれてくれたり?

そう思うと途端に胸がトクンと弾んだ。


「……早く来ないかな」


呟いて何気なく噴水へと視線を向ける。

ふと、舞うミストの中ではしゃぐ子供たちに混ざって背の高い人物が一緒に遊んでいた。

親御さんかな?

不意に長い背丈のその人がこちらを振り返り――パァッと表情を明るくする。


「――あれ、恵流くん!」


まさかの優彗先輩だった。

しかもミストのおかげで顔面国宝バージョン。

ずぶ濡れの彼に僕はギョッとしてベンチから立ち上がり、小走りに近寄った。