その日の夜、僕は両腕を組んで自宅のソファの上に座っていた。
珍しく家にいる両親と兄さんの視線が背中に刺さる中、目の前のローテーブルに置かれた自分のスマホを眺めている。
液晶画面に表示されているのはサポートAIとのチャット画面。
“器物損壊の刑期”
“器物損壊の賠償金”
“器物損壊をしたときの対処法”
並ぶ質問文は今日、もっとも衝撃を受けた優彗先輩の犯した罪――器物損壊についてのことばかり。
AIから返ってくる内容は全て“正直に話し罪を償う”という至極当たり前の回答だった。
「器物損壊に時効ってあるのかな……罪の抜け道とか探しておくべき?」
「スゴく不安になる言葉を呟かないでくれるか?」
兄さんが困惑した様子で声をかけてきた。
僕は後ろを振り返り、兄さんへと申し訳なさそうに曇らせた顔を向けた。
「兄さんのライバルは罪人になるかも知れない。再戦できなくなったらごめん」
「え、なんのこと……?ライバル?罪人?」
僕は兄さんが再戦をしたがっていた“子供のころの水泳大会優勝者”が同じ学校の先輩だということを話した。
ちなみに顔がサカバンバスピスに変化するとはいっていない。
あれは直に見ないと信じられないだろうし。
そこを隠すかわりに、彼が水泳をまだ続けていることを話した。
僕から説明を受けた兄さんは「おお、そうなんだ?」と声を弾ませる。
「大会でまた競えたら嬉しいんだけどな……そうだ。今年もまた近所の市民プールで、夏限定の水泳企画をやるっぽいけど、恵流は知ってた?」
「うん、まぁね……兄さんの高校の水泳部は毎年お呼ばれしてるもん」
「そうだったな。今年も声をかけてもらったから俺は出るつもりだよ……飛び入り参加とかできたらその先輩も誘ってもらいたかったんだけどなぁ」
それは無理な話だろう。
その市民プールの水泳企画は20年以上続いているけど、飛び入り参加は認められていない。
理由は泳げないのに思いつきの参加で溺れる人が多かったからとか、単純に飛び入り参加者のマナーが悪かったからとか……様々だけど。
それ以降、水泳企画に参加できるのは主催者から呼び声のかかった近隣学校の有名な水泳部や泳ぎに関する話題性を集めた“特別枠”の参加者だけ。
でも逆に言えば……その“特別枠”に入れば市民プールでの水泳企画で泳ぐことができる。
――大会で優秀な成績を収めていない、凉蘭高校の水泳部でも、だ。
「ね、兄さん。今年もその水泳企画……絶対参加してね」
「もちろん、恵流が応援にきてくれるならな」
「約束だからね」
「うん?分かった」
首を傾げる兄さんの前で、僕はニヤリと笑みを浮かべた。
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