「とにかく……これで“人前に出る”という特訓もこなせましたね」
「そ、そう……だね!」
どこか上ずった声で先輩が首を上下に動かす。
すっかり足の痛みも取れた僕は、ベンチから上体を起こした。
これで先輩の体質改善と、他者からの視線の克服も終わった……と、なると。
そろそろ踏み込んでみても、いいかも知れない。
僕は先輩のその、記号的なパーツをした顔を真っ直ぐ見つめる。
「優彗先輩、教えてほしいことがあるんです」
「俺に教えてほしいこと……?」
「あなたのその水に関する不可思議な“体質”……それが明確に変化した日のことについて教えてください」
僕がそう言うと、先輩が不思議そうに首を傾げた。
なんで突然そんなことを聞くのか、と思っているのだろうけど……これにはちゃんとワケがある。
コホンと軽く咳払いをして、僕はピンと人差し指を立てた。
「いいですか?物事の始まりには、必ず理由があるはずなんです。なので次は、体質が変わった当時の行いの中にそれを……答えを探しましょう」
「おお……!そっか、確かにそうだね……!」
もっともらしく並べられた文言に優彗先輩の死んだ瞳が明るく輝いた気がした。
しかしすぐに「あれ?」と再び先輩がこてんと首を傾げる。
「でも、なんでそれを最初に実行しなかったの?」
「さっき溺れたときに思いついたので」
「そ……そっかぁ」
先輩が気まずそうに視線を上に逃がす。
死の間際によぎるという走馬灯は、過去の記憶の中から死を回避する方法を探そうとして、生存本能によって脳が見せるという。
溺れたことで息苦しくなり、それと似通った出来事が僕にも起こったのかもしれない。
やっぱり、運も天も僕の味方だ。
ここでこんな良い方法を思いつくなんて……さすが僕の頭脳。
「んん……そうだな、あの日は……確か……」
僕がむふーと胸を張っている間にも、優彗先輩は昔の記憶を掘り出しているようだった。
やがてその逆三角形の口がポツポツと単語を並べていく。
「小学校4年生で……夏休み……家族で水族館に行って――」
次の瞬間、先輩が「あっ!」と声を上げた。
なにか重大なことを思い出したのかと僕の視線が彼に向けられる。
その中で、先輩は予想だにしない言葉を呟いた。
「そこで俺、展示物を壊したんだ……」
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