「ご、ごめん……霧吹きが見つからなくて……」
「まぁ、それは別に……ちょうどいいしこのまま手伝ってもらいますね」
僕は片腕を優彗先輩の肩に回し、もう片方の手で生徒たちに大きく手を振った。
引きつった左足はまだ痛いけど、グッとこらえる。
「水泳部に入部して泳ぎをマスターすれば、このように誰かが溺れたときに駆けつけることもできます!まずは仮入部だけでも検討くださ~い!」
僕の言葉に、ようやくその場の全員がホッとしたように顔を緩めた。
「なんだ、やっぱりパフォーマンスじゃん!」
「びっくりしたぁ~、演技うますぎ~」
「ヤバい、どっちも顔面国宝すぎるんだけど!」
――ピロン、パシャッ……。
動画撮影の音とシャッターを切った音がプールサイドを包む。
それに手を振りながら、僕は先輩に抱え上げられたまま部室へと姿を消した。
「二人ともスゴかったぞ!よし、あとは任せておけ!」
入れ違いに飛び出していった水泳部の部長が、意気揚々と残された生徒たちへの質疑応答へ向かう。
部室のドアが閉まるタイミングで、ようやく僕は痛みに顔を歪ませた。
「恵流くん、マッサージするからベンチに横になって!痛いのはどっちの足?」
「ひ、左です」
「分かった――もう大丈夫だからね」
先輩の指示通りに横たわる僕の足を優彗先輩が両手で揉む。
さすが、幽霊部員といっても水泳部……手慣れてるな。
段々と取れていく痛みと、マッサージの気持ちよさにそっと目を閉じる。
動画も写真もたくさん撮られてたな……これなら話題性もバツグンだし、間違いなくなにもかもいい結果になるだろう。
足がつるのは想定外だったけど、先輩が駆けつけてくれたことで場に新旧の顔面国宝が揃ったのも大きい。
自分の運が引き寄せた功績に満足げな笑みを浮かべる。
「……こら、恵流くん。笑いごとじゃありません」
ふと聞こえてきた優彗先輩の声色は、少し怒っているようだった。
閉じていたまぶたを開けると……そこには顔面で圧をかけてくる古代魚モードの先輩がいた。
見慣れたとはいえ、これは驚く。
喉元まで出かかった悲鳴をのみ込んでいると、先輩は僕をマッサージしたまま……たしなめるように続けた。
「無茶しすぎ。助けも呼ばずに“演技”の一部ってことにして……怖かったでしょ?もしあのままキミの異変に気づけてなかったらと思うとゾッとする」
「でも、先輩は気づいて助けてくれたじゃないですか」
「運がよかったんだよ!キミにみとれてたから変化にもすぐ気づけた……でもそうじゃなかったら今頃――」
「みとれてくれてたんですか?僕に」
瞬間――己の失言に気づいた先輩がボシュッと顔を赤くした。
「え!?あ、その!だってフォームとかスゴくキレイだったし、人魚みたいっていうか、その――いやそうじゃなくてっ……!」
陸にいるのに溺れているかのような先輩のあたふたとした動きに、僕は怒られていたにも関わらずクスッと笑う。
「ふふっ、じゃあやっぱり“顔面国宝”の座は僕のものですね!」
押し黙る優彗先輩を見て“勝った!”と無邪気に喜ぶ。
先輩は悔しいのか、心臓の辺りを手で押さえてジッとこちらを見つめていた。
気持ちいい気分のまま、僕は先輩に告げる。



