古代魚モードに変化した先輩の顔を隠しながら、女子生徒たちの前でパチリとウィンクをする。
「優彗先輩の出番はここまで!次はぜひ、1年の宝条恵流――僕の水泳パフォーマンスも見ていってくださいね!質疑応答はそのあと部長が行います!」
「あっ……は、はいっ……!」
きゃあきゃあと再び黄色い歓声が場を沸かせる。
ますます顔を赤く染める女子生徒に手を振りながら、僕は先輩を連れて部室へと戻った。
「お疲れさん、優彗!頑張ったなお前!」
駆け寄った部長が白いタオル越しに先輩の頭をわしゃわしゃと撫で回す。
それを横目に見つめながら、後ろ手に部室のドアを閉めた僕は安堵の息をもらした。
「い、いえ、俺はなにもできてないです……結局、恵流くんに助けてもらっちゃったし」
そう謙遜して、先輩は僕へ向き直り――おもむろに頭を下げる。
「ごめん、せっかく恵流くんがここまで計画してくれたのに……!俺、なにも変われてなくて」
その行為に目を丸くしていると、聞こえてきたのは謝罪の言葉。
僕は彼の前でしゃがみ込み、下げられた顔を覗き込んだ。
反省してるのかどうか見た目には判断できない古代魚顔に柔らかく目を細める。
「なんで謝るんですか?」
「えっ……それは、恵流くんに迷惑をかけちゃって……人前に出る特訓だって手伝ってくれたのに、顔も結局は見せられなかったし……」
「頑張ってましたよ、先輩は。あれだけ避けてた女子たちの前に立って、圧倒的な泳ぎを見せたじゃないですか?――カッコよかったですよ、あれ」
「へ……!?か、カッコよかっ……!?」
完璧な僕に褒められて、茹で上がったように顔を赤くする先輩。
僕はそれに一瞬だけ微笑み――ジトッと睨みつける。
「でもね、先輩だけが歓声を浴びるのは、ダメ」
『え?』
先輩と部長の呆気にとられた声が重なる。
僕はスッと立ち上がり、人差し指を優彗先輩の濡れた胸板にビシッと突き立てた。
「凉蘭高校の“顔面国宝”が先輩だけ?……調子に乗らないでください!今日、このあとのパフォーマンスで僕がその称号をもらいますから!」
僕の言い放った言葉に、室内の二人がパチパチと目を瞬かせる。
実は優彗先輩に不備があった場合のアフターケアとして、僕の水泳パフォーマンスの実施を企てていたのだ。
だからあえて生徒たちに配ったチラシには優彗先輩の名前を表記しなかった……書いてあるのは“顔面国宝”とだけ。
そして――少なくともこの高校の“顔面国宝”は二人いる。
一人は優彗先輩。
もう一人は――もちろん、この僕だ。
「そこで指をくわえて見ていてください?今のあなたにはできない、“視線”を意識した僕のパフォーマンスを!」
いつだって注目を集めるのは僕だ。
今までがそうだった――ならばこの高校でも。
ただ手伝うだけで終わるなんて納得できない。
僕はこみ上げてきた根っからの負けず嫌いな闘争心をそのままに、制服のボタンを外した。



