顔面国宝と噂されてるイケメンが、普段はサカバンバスピスみたいな顔してた件


その笑い声はまるで、呆気にとられる僕をあざ笑うかのように両耳の鼓膜を震わせる。

その間にも、優彗先輩は言葉を続けた。


「俺を見て顔を赤く染めて、体を震わせて恥ずかしそうに顔を逸らしたんだ……その子。それがなんだかスゴく愛おしく見えちゃって」


――すぐに抱き締めて“大丈夫だよ”って頭を撫でてあげたかったけど、できなかったんだ。


そう告げる先輩は古代魚モードだというのに、どこか絵になる哀愁を辺りに漂わせていた。

しかし。

僕としてはそれよりも、過去の自分の仕草が衝撃的すぎて声が出ない。

それじゃまるで、僕が先輩を意識していたみたいじゃないか。

まさか……僕も先輩に一目惚れしていた……?

その発想に辿り着くなり、僕は“いやいやいや”と首を振る。

そんなのあり得ない。

この僕が誰かに心を奪われるだなんて、そんなこと。

きっと顔を赤くしていたのは、そして体を震わせていたのは兄を負かしたことへの怒りからだ。

けして先輩を意識してモジモジしていたわけではない。

顔を逸らしたのも、先輩の顔が想像以上の美しさだったから驚いてしまっただけ。

そうに違いない。

僕の中でようやく納得できる答えが捻り出された瞬間、優彗先輩がこう続けた。


「たくさんお話したかったけど叶わなかったから……次に“この子と話したい”って強く思える誰かに出会ったら、次こそは!って思ってたんだよ」


「それが……僕だった、と?」


「うん。キミは……恵流くんはこの状態の俺を見てどんなに驚いても、逃げようとはしなかったから……」


「まぁ、これでも肝は座ってる方ですけど……そのあとも水泳の大会に出たりしなかったんですか?一目惚れした子と再会、できたかもしれませんよ」


なんとなくの疑問だった。

兄さんに勝つほど水泳が上手なくせに、その大会以来、彼を見たことはなかったなと思い出す。

優彗先輩が顔をうつむかせて呟く。


「そう思ったんだけど、その大会のあとに……その、この体質になっちゃって。こんな顔見られて嫌われたくないなって思っちゃったんだ」


「そう、だったんですか」


だから、中々会えなかったんだ。

古代魚……サカバンバスピスそっくりの顔にコンプレックスを抱いたから。

それで人目を避けるような生活を始めたのかもしれない。

だけどそれでは、こちらも不完全燃焼だ。

兄さんはあれからも、ずっと水泳だけは続けている。

先輩のためにも、そして兄さんのためにもなるような手伝いが僕にできれば……。

そう考えて、僕は小さく右手を上げた。


「ねえ、先輩。ちょっと提案なんですが」


「うん?なにかな?」


こちらを煽っているような顔面が首を傾げて僕を見つめた。

それに対して、こう切り出す。


「僕と一緒に、人前に出る特訓をしませんか?」



***